お父様って、強いの?
「よお、リオン。ハルトにだいぶ怒られたらしいな」
「……リューシンさん」
屋敷の中庭。そこにある世界樹の木陰でリオンが目を赤くしていた。
妹たちに魔法を教えたことに関して、大好きな父であるハルトから珍しくキツいお叱りを受けたからだ。
母親のティナなら、悪戯してもちゃんと謝れば許してくれると分かっている。
しかし、いつもニコニコしていて滅多に怒らないハルトから静かに叱られるのは、リオンにとって本当に怖かった。
「アイツは普段怒らないから、本当に怒った時は俺も怖い」
「リューシンさんもお父様が怖いの? 世界最強の黒竜なんだよね?」
「おう。確かに俺は世界最強だけどな、それとハルトの怖さってのは別もんだぞ」
普通に戦ってもハルトの方が強いとは言わない。
ちなみにこの時点でリューシンはレベル300に達しており、正真正銘この世界で最強の一角となっている。そんな彼だがレベルカンスト記念にハルトと戦い、ボッコボコにやられていたのだ。
「そういえばお母さまやリューシンさんは僕たちに魔法を教えてくれるけど、お父様に教えてもらったことはないよね。なんで?」
「アイツはちょっと特殊なんだよ。でもそのうち教えてくれると思うぞ」
息子たちにかっこいいところを見せようとして暴走し、常識外れの威力の魔法を披露してしまうのではないかとティナが懸念したことで、ハルトがひとりでリオンたちに魔法を教えることは禁止されていた。
「そうなんだ。……お父さまって、強いのかな? 魔法は使えるよね?」
「魔法職だから当然魔法は使える。さっきも言ったようにハルトは特殊だから、リオンたちの前では魔法を使わないよーにしてんじゃねーかな」
「お母さまの魔法は凄い。リファさんの風魔法とかマイさんの火属性魔法、メイさんの水属性魔法も。だけどお父さまが魔法を使ってるのを僕は見たことないんだ」
ハルトが詠唱できるのは最下級魔法だけ。それであの異常な威力の魔法を発動させて見せたら、リオンたちが混乱してしまう。だから彼が息子たちの前では極力魔法を使わないようにしていることをリューシンも知っている。
「……じゃあ仮にだ。仮にお前の父親が魔法を一切使えなかったとして、リオンはハルトを嫌いになるか?」
「なるわけないよ! 僕は世界で一番、お父さまとお母さまが大好きなんだから!!」
その回答を聞いてリューシンが笑顔になる。
「そうだな。ハルトもお前とティナ先生が一番大好きだぞ。アイツと酒を飲む時、俺がどれだけ惚気を聞かされてることやら」
「えへへ」
「ファナに魔法を教えたこと、ハルトには謝ったか?」
「うん」
「それじゃもう大丈夫だ。ちゃんと反省してるなら、アイツも許してくれる」
そう言いながらリューシンがリオンの頭をワシワシと荒く撫でると、リオンから不安げな表情が消えた。
「ありがと。ところでお父さまとリューシンさんって、どっちが強いの? リューシンさんが前におっきな熊の魔物を倒したのを見たことがあるけど、お父さまにも倒せるかな?」
この時、リューシンの承認欲求が悪さをした。
相手は友人の5歳の子ども。
彼は自分に憧れを抱いてくれている。
自身の強さを目にしたことがあるこの子になら、小さな嘘をついても良いのではないかと。そう思ってしまった。
「俺は世界最強の黒竜だぞ。世界で一番強いんだ。それにハルトが戦ってるところを見たことあるか?」
「ていうことは──」
「まぁ、待て。ティナ先生がハルトのことを大好きなのはリオンも分かるよな?」
「う、うん」
「女性ってのは、やっぱり強い男性に惹かれるんだ。それにここはここはハルトの家だから、実は俺の方が強くてもアイツの方が強いってことにしといてやるんだよ」
「リューシンさんって、偉いんだね!」
「あははっ」
「そ、それじゃこれからも僕に魔法を教えてくれますか? 世界最強のリューシンさんから魔法を学んで、僕も強くなりたいんだ!」
少年にキラキラした目で教えを請われる。
リューシンは気分が良くなっていた。
「任せろ。俺がリオンを鍛えてやる。ところでなんでそんなに強くなりたいんだ?」
「僕が強くなって、弟たちやお父さまを悪い魔物から守れるようになりたいの!!」
守る対象に父親が入っていた。
一瞬疑問に思ったリューシン。
だがこの時の彼は、それが子どもの戯言だと軽く考えた。




