オムツ開発
方々から安産祈願の宝具や魔具、お守りなどが贈られてくる。
本当にありがたい。
俺としてもできることは全てやった。
あとは生まれた後の準備だな。
子育て用の道具も色々と揃ってきている。
俺の両親がかなり楽しみにしているようで、来訪の度に大量の子育て道具を持ってくるんだ。
貰ったものが多すぎて、逆に何が必要かよくわからない。
はじめての子育て。ネットがあれば調べられるが、こっちの世界じゃ人から聞くか、過去の事例が載った書物を読むしかない。H&T商会が『子育てのいろは』って本を出版してたから迷わず買った。そこに記載されていたものが全て屋敷に十分な数が確保されていることは確認済み。
だから特に問題なさそうって思っていた。
「……あれ、オムツなくね?」
なんと紙オムツがなかった。
オムツと書かれた木箱があったが、その中に入っていたのは布製の小さなパンツ。
もしかして、これがオムツなの?
え、おしっこしたら漏れるよね?
不安になり、ティナの所へ向かう。
「ねぇ、ティナ。これって子供用のオムツなの?」
「えぇ。そうです」
「漏れたりしない? あとこれ、使い捨て?」
「漏れることはたまにあります。うまく着けられなかったときとか、思ったより赤ちゃんが良く動いたときとかですね。そしてそれは洗って何回か使用することが多いですね」
マジか、再利用するんだ。
オムツって元の世界のテレビCMで見た紙タイプしか知らなかった。
「魔法が使える人は身体浄化魔法で綺麗にしちゃいますから、1日に何度も取り換えることはないです」
「でもそれ、魔法が使えない人は困るよね」
俺の発言を聞いて、少し呆気に取られていたティナが急に俺の頭を撫でてきた。
「え、なんで?」
「ハルト様はお優しい方ですね。自身が魔法を使えれば、普通は使えないヒトの不便さなど気にかけません。お恥ずかしながら私もそうでした」
「俺は元の世界で魔法なんて使えなかったからね」
17年間もそれが普通の世界で生活していたんだ。
まだその感覚は失われていない。
「オムツを魔法で洗浄するサービスをH&T商会で展開していますが、一般人の方の負担をもっと減らして便利にする方法を考案すべきでした」
「俺やアカリがいた世界には紙オムツってのがあったよ。使い捨てなの」
「紙オムツ……。布よりさらに漏れやすそうでは?」
「それが漏れないんだよ。ポリマーっていう素材が水分を吸収するから」
高校生だった俺が分かるのはその程度。
CMで見たくらいの知識しかない。
こっちの世界で再現できるかな?
できればビジネスチャンスの可能性もある。
「なるほど。水分を吸収する素材……。それは乾燥したスライムで可能かもしれませんね。スライムには人体の汚れを好んで食べてくれる種もいますし。ただ肌に直接当てるのは赤ちゃんも不快でしょうから、不織布のようなものを挟む必要がありますね。それから漏れないようにするためには伸縮性の素材が必要です」
ちょっとヒントっぽいことを言っただけなのに、ティナはどうやってそれを実現させるか考え始めてくれている。一代で世界最大の商会を創り上げた天才は流石に凄い。
「大人の下着に使われてるゴムは、使い捨てするには高価だよね」
「はい。そこも要検討ポイントです。いかにコストを抑え、世界中の魔法が使えない人々に普及させるか。同時に私が考案したサービスの競合製品ってことになってしまいますから、そのバランス調整も必要です」
何百人という魔法使いがオムツの浄化サービスで生計を立てているらしい。ただ便利な道具を開発すればいいだけじゃダメなんだ。
ちょっと大変そう。
身重のティナに動いてもらうべきじゃないと思う。
本人は凄くやる気だけど。
「ティナ。紙オムツの開発は俺に任せてもらっていいかな。世間に公開するのはティナが無事に赤ちゃんを産んで、みんなも落ち着いてからにするよ」
「わ、わかりました」
子どもが生まれたらその後も大変なんだろうけど、今こう言っておかないと彼女は動き始めちゃう。
よし、異世界でオムツ作りを始めます!!