予選準々決勝
最強クラン決定戦の三回戦と四回戦は不戦勝だった。
どうやら相手クランの奴らが俺たちの一回戦と二回戦を見ていて、戦意をなくしたらしい。この最強クラン決定戦に出てくる連中にとって、大事なのは自分たちの力を見せつけること。それは自己顕示欲の現れでもあるが、人々に力を見せつけて持ち込まれる依頼を増やすのを目的としているクランも多い。
少女たちに公衆の面前でボロ負けするというのは避けるべきだと考えたらしい。
──っていう情報を、審判に棄権を申し込んでいたクランリーダーっぽい男の心を読んで把握した。
本戦も戦い抜くつもりでいる俺たちにとって、予選で戦う回数は少ない方がありがたい。俺のクランの力を世に知らしめたいって思いで参加してるわけだけど、大会の本戦で良い成績を残せばその目的は十分達成されると思うんだ。
そんなわけで俺たちのクランは準々決勝に進むことになった。
ちなみに最強クラン決定戦の予選で、俺たちは六戦勝てば優勝できる。参加しているクランの数はちょうど百だ。ランクの高いクランや前回大会で良い成績を残したクランはシードに入れられるみたいだけど、結成したばかりの俺たちは普通に一回戦から始まった。
「順調にここまで勝ち進んだな、ハルト」
「イリーナさん、見に来てくれたんですね」
グレンデール王都の冒険者ギルド。そこのトップが俺たちに会いに来てくれた。
「私が推薦したクランだから応援ぐらいするさ。と言っても、仕事が忙しすぎて会場に足を運べたのはこれが初めてだが」
俺たちのクランはイリーナさんの推薦を貰い、こうして最強クラン決定戦に参加できている。
グレンデールには大小合わせて数千のクランがある。俺たちみたいに戦闘特化型クランだけじゃなく、生産系クランや商業クランもある。そうしたクランも戦闘能力が高い冒険者を抱えていることがあって、この最強クラン決定戦に出てきているんだ。
結成したばかりで、まだCランククランである俺たちがこの大会に出られたのはイリーナさんのおかげだった。
「グレンデール最大ギルドの最高責任者から推薦を頂いたんですから。良い戦いをしてみせますよ」
「あ、あまり気張らなくて良い。ほどほどでいいんだ。君らが全力を出せば国が危なくなる」
「あはは。大丈夫です。そんなことにはなりませんよ」
一回戦、俺たちは全力で戦ったけど、この国は健在じゃないですか。
それになんとなくだけど、次の対戦で俺は本気を出さなきゃいけない気がしていた。
──***──
俺の直感はやはり正しかった。
「ハルト君。まさか君がクランを結成していて、俺の前に立ちふさがるとは……」
「できたばかりのクランなんです。それより俺のことを覚えていてくれたんですね。レイン会長」
「元会長、だよ。普通に名前で呼んでくれれば良い」
準々決勝の対戦相手の一人目として出てきたのはレインという魔法使い。俺がイフルス魔法学園に入学した年に生徒会長をしていた彼は、四年生の頃から学園最強と謂われていた存在だ。
「じゃあ、レインさんは今、冒険者なんですか?」
「いや。普段は宮廷魔導士として陛下にお仕えしている」
そうなんだ。すごいな。
魔法の実力を認められ、かつ家柄が良く人格なども適合しないと宮廷魔導士の称号は授与されない。その地位に付けばグレンデール国内で魔法に関するあらゆる制限から解放される。そんな特権を貰えるのが宮廷魔導士だ。
俺も陛下に呼ばれて王城に行ったりするけど、レインには会ったことがない。まぁ、そんなにお城の中を歩き回ることがなかったから仕方ないかも。
「宮廷魔導士様が、なんでこの大会に?」
「俺は魔導研究のための素材集めを目的とした生産系クランにも参加していてね。腕に自信のある仲間たちと参加したんだよ。特に今回、俺は陛下に参加を勧められたんだ」
そう言いながらレインが俺をまっすぐ見てきた。
「面白い奴が参加するから、その力を見極めて来いってさ。ここに来て分かったよ。陛下が言っていたのは君のことなんだね、ハルト」
さわやかな笑顔だが、レインの目は笑っていない。
「俺は以前、君に負けた。魔法学園最強の座を奪われたんだ」
彼から研ぎ澄まされた魔力が溢れ出す。
これが、この国最高峰の魔導士の魔力か……。
かなり強い殺気が含まれてる。
「怨んでいるわけじゃない。上には上がいると気づくことができた。君のおかげで俺は、魔法探求の道に進む意志が固まった」
戦闘開始の合図は既にされていた。
「君を倒して、俺の力を陛下に示そう」
レインが空に手をかざす。
「まずは……。こい! イフリート!!」
巨大な召喚陣が形成され、炎の精霊王が召喚された。
昔の対戦をなぞるつもりなのだろうか。
ただ六年前と全く同じってわけじゃなかった。
「む? 我を強制召喚、だと。しかもこれは……」
イフリートは強制召喚されたようだ。そしてその召喚主が俺じゃないことに驚いている。加えてイフリートは強化させられていた。身体に纏う炎が青く輝き、いつもより高温で燃えていたんだ。
「ただ精霊王を呼ぶだけなら昔の俺だってできた。これが今の俺の力だよ」
「此度はハルト殿が敵か。しかしこの身体は凄い。力が溢れてくる。これならば我の拳もハルト殿に届くだろう!」
イフリートも強化されてやる気になったみたい。
強制召喚された精霊には召喚者の精神状態が強く反映される。さっきは怨んでいないと言っていたが、レインからは俺を倒したいって強い意志を感じる。その影響を受けた炎の精霊王が俺に襲い掛かってきた。
魔衣を纏ってイフリートの攻撃を躱す。
「ふはははっ。昔を思い出すな、ハルト殿!!」
「ちょっとは手加減とかしてよ!」
繰り出される猛攻を躱しつつ、魔力を放出する。
「自身は強者だと驕る者に敗北を教えてやるのも精霊王たる我の務め。此度は運が無かったと諦めよ」
「くっそ! じゃあ俺も本気で──」
俺も過去をなぞろうと思った。
でも完全に同じでは面白みがない。
それに俺だって、新しい力を手に入れているんだ。
「俺に力を貸してくれ!」
前回、俺は星霊王を召喚した。
今回呼ぶのは星霊王より格下の存在。
でも俺が全力で力を注いで強化した存在だ。
「来い! シルフ! ウンディーネ! ノーム!!」
俺は風と水、そして土の精霊王をこの場に召喚した。
「……な、なん、だと?」
いつもと段違いのオーラを纏うシルフたち。
彼女らを見てイフリートが固まった。
さぁ、始めよう。
自身は強者だと驕る精霊王に、敗北を教える戦いを。