予選第二回戦
最強クラン決定戦の予選第二回戦が始まった。
「まずはうちが行くにゃ」
「メルディ、頑張れよー!」
ハルトたちのクラン、ファミリアからはメルディが一人目の選手として闘技台に上がった。対する相手クランの選手はスキンヘッドで顔に大きな傷のある男。手にはダガーと呼ばれる短剣を持っている。
「……俺は他の奴らと違って、女や子供に手を出すのは好かない。だが負けるつもりもない。痛い思いをしたくなければ棄権しろ」
彼はバイゼルというB級クランの中でもトップクラスの実力者だった。彼自身も単独でBランクの冒険者であり、その厳つい見かけとは裏腹になかなか人格者のようだ。
「ご忠告どうもにゃ。でも大丈夫にゃ。たぶんアンタじゃ──」
メルディの姿が消える。
対戦開始の合図は既にされていた。
「うちの攻撃を見ることすらできんにゃ」
「なっ…に……」
ドサっと前に倒れる男。
メルディが超高速で背後に回り込んで手刀を放ち、男の意識を刈り取ったようだ。
一試合目は僅か数秒でメルディの勝利となった。
──***──
二人目はリファが戦う。
ハルトに参戦を申し込んだ順で出るようだ。
「お手柔らかにお願いしますね」
「ひ、一人目は相手が獣人だったからだ! 獣人は強い。だからアイツが負けたのは仕方ないことだ。でも俺の相手は貧弱なエルフ族。しかも女だ。エルフの女相手に、俺は負けねぇ!!」
自らを鼓舞するように叫ぶ短髪の男。
少し気が弱いが、魔法の腕前はクラン随一。
そんな彼だが──
「ウインドアロー!」
「ふぐわぁぁぁぁ!!!?」
リファの風魔法で盛大に吹き飛ばされた。
──***──
三人目はアカリ。
「いっくよー!」
彼女は無造作に腕を突き出す。
そして指でタメを作り、狙いを定める。
「えいっ」
「──っ!?」
彼女が放ったデコピンは空気を超圧縮した弾丸となり、対戦相手を弾き飛ばした。だが今回のアカリの力加減は完璧だった。対戦相手の男は、ハルトが闘技台の周囲に張った魔法障壁に衝突することもなく、気を失い闘技台の下に倒れている。
「うん、完璧だね」
アカリは満足気に闘技台を降りていった。
──***──
「ふ、ふざけんな! なんなんだよ、お前らは!!?」
四人目の選手として闘技台に上がった男が、対戦相手である白亜に怒鳴りつける。彼はバイゼルのクランリーダーだ。仲間がまだ幼さの残る少女たちにあっさり負けてしまい、かなり気が動転している。
「お前らのクランはCランクのはずだろ!? なのに、なんでこんな」
「Cランクだからダメなの? 良くわかんないけど、あなたを倒せばハルトに褒めてもらえるの。だからね、ゴメンねーなの」
白亜が口を大きく開ける。
そこから光線が放たれた。
「あっぶねぇ!」
「……あれ?」
バイゼルのリーダーが白亜の攻撃を避けた。白亜はこれに驚く。
先ほどまでの戦いでファミリアのメンバーが弱くないとリーダーは判断していた。そして白亜が口を開けた時、言いようのない恐怖を感じてその前方から退避したのだ。結果、ハルトの魔法障壁を大きく揺らすほどの攻撃を避けることができた。
もし彼がその場に留まっていたら……。
その身体は消滅していた可能性が高い。
「白亜! やりすぎ!!」
「う、うぅ……。ハルトに怒られちゃったの」
闘技台の外からハルトに注意され、シュンとなる白亜。意気揚々と参戦を希望した彼女だったが、この世界最強の魔物である色竜という種族の彼女にとって、ヒトを壊さないように攻撃するというのはなかなかに難しいことだった。
「このくらい、かなー?」
「びへぶっ!」
白亜は右回りにゆっくり一回転しながら尻尾を出し、バイゼルのリーダーを打ち付けた。それはヒトへの攻撃としては少し強かったが、鍛え上げられたB級冒険者の命を奪うほどの威力はなかった。
こうして白亜も何とか対戦相手を死なせてしまわずに勝利した。
ファミリアに在籍する者たちにとっては全力を出して相手を倒すことより、手加減をして相手の意識を奪うだけにすることの方がよほど難易度が高いのだ。
──***──
対戦相手を死なせずに勝つという点では、リリアとサリーが優秀だった。ふたりは獣人の王国の元兵士であり、敵を殺さずに無力化する訓練なども受けている。
リリアたちの相手はどちらもC級冒険者の男で、彼女らは開始の合図がされるとほぼ同時に対戦相手を無力化してみせた。
最強クラン決定戦の予選は先に六勝した方が勝ちとなる。この時点でハルトたちの勝利が決定したのだが、バイゼルのメンバーは納得がいっていない様子。
「あり得ねぇだろ! なんで俺らがこんなガキども相手に!!」
「おい、審判! 対戦者以外の奴らが補助魔法とか使ってたんじゃねーのか!?」
女ばかりのクランにボロ負けし、会場から嘲笑されて逆上したバイゼルの冒険者たち。彼らはハルトたちが不正を行ったと言いがかりをつけて対戦自体をなかったことにしようとする。
「周りの奴らがサポートしてたに決まってる!!」
「油断させるために女ばかり出してきたんだ」
「てめーら、やり方が汚ねーぞ!!」
現在、総勢28名となっているファミリアは対戦に出る者を除けば27人でサポートすることが可能となる。バイゼルの冒険者たちはそれを指摘してきたのだ。
当然だが、ハルトたちは対戦中に補助魔法をかけたりなどしていない。そもそも実力が違うので、ルール上問題ない対戦前に補助魔法をかけることすらしていない。補助魔法に特化したルナが仲間にサポートを行えば、逆に力があり余り過ぎて対戦相手を死なせてしまう可能性があった。
とはいえ、そんな事情はバイゼルの冒険者たちには関係ない。彼らの怒りはヒートアップしていき、ついに対戦外での私闘という暴挙に出た。
「こんな奴らになめられてたまるか!」
大剣を持った男がハルトに向かって突進してくる。
「燃やし尽くせ! イクスプロージョン!!」
「穿て、アーススピア!!」
杖を持ったふたりの男はそれぞれ魔法を発動させた。
爆発と地面から伸びた槍がハルトたちの元へ。
しかしそれはふたりの少女によって吸収された。
「ふぅ」
「ごちそーさま」
「なん…だと……?」
「ま、魔法を、喰った!?」
魔法無効というスキルを持つスライムのスイとスー。彼女らにとって、他人が放った魔法は魔力回復のための食事となってしまう。
一方、大剣を振り上げた男がハルトに襲い掛かる。
「ハルト様に!」
「近づかないで!!」
「──っぐ!?」
ハルトへの攻撃はケイトとアリアが防いだ。属性竜をも倒せる彼女らにとって、B~C級の冒険者の攻撃など容易く止められる。
「戦いは俺たちの勝ちです」
「まだ殺るって言うのなら」
「「本気でやりますよ?」」
「ひっ、ひぃぃ!」
自分たちにとってグランドマスターであるハルトを狙われ、ケイトとアリアが怒っていた。強い殺気が籠った剣を目の前に付きつけられ、ハルトに斬りかかろうとしていた男は身動きが取れなくなった。
バイゼルには他にも戦う気の冒険者がいたが、ファミリアのメンバーが迎撃の構えをとったことで戦意を喪失したようだ。
「はいはーい。みんな、落ち着いて。この戦いは俺たちの勝ちだから」
最強クラン決定戦が開催されている最中のクラン同士による私闘は原則禁止とされている。それを数百人の観客の目の前で破ったのだ。バイゼルには厳しい処分が下されるだろう。ハルトはそう考え、さっさとこの場を去ることにした。
「さぁ、帰るよー」
「「「はーい!」」」
こうしてハルト率いるファミリアは、第三回戦への進出が決定した。




