最強クラン決定戦 予選(13/22)
「勝者、クラン『シルバレイ』のカイン!!」
審判のヨハンがカインの勝利宣言を行う。リューシンは半龍化して戦った。しかし超直感で彼の動きを先読みし、竜族に特攻を持つ武器を使いこなすカインの前に敗れ去った。
ちなみにアンナが率いるクランの名称は彼女の家名からとってシルバレイとしていた。
「クソっ、負けた! アンタ本当に人族か?」
「俺の家族にはヤバいのが何人かいるが、あの人らと比べると俺はだいぶ一般的な人族だぞ」
闘技台の下に落とされていたリューシンにカインが手を伸ばす。その手を取ってリューシンが闘技台の上に這い上がる。
「良い戦いだった。久しぶりに全力で戦ったよ」
「俺もだ。勝てなかったのは悔しいけど、おかげで新たな目標ができた」
「目標?」
「いつかはハルトに勝ちたいって思ってたけど、その前にまずは人族最強のアンタを倒したい」
リューシンはハルトのことを人族だと思っていない。それと同じようにアンナやアカリのことも人族だと考えないことにした。
「ハルトや母上を除いても、たぶん俺より強い人族はいると思うけどな」
「少なくとも俺が知る限り、転生者じゃない人族最強はアンタだよ。だから当面はアンタを超えるのを目標にした」
「そうか。まぁ頑張ってくれ。たまになら組手に付きやってやろう」
「いいのか!?」
今回の対戦で負けたことは非常に悔しく思っているリューシンだが、カインとの戦闘は楽しんでいた。拮抗した相手との勝負は得られるものが多い。普段ハルトと行う戦闘訓練とは違う経験値が稼げるのだ。
「事前に連絡をくれればいつでも相手をする。だから急に襲い掛かってくるとかはなしで頼む」
「死角から俺の攻撃を防ぐアンタに不意打ちとか無意味だろ」
半龍化して超高速で攻撃を繰り出すリューシンの攻撃をカインは全て受け流した。それを可能にしたのは超直感というレアスキルと彼の戦闘センスだ。この世界には超直感を持つ人族は何人かいるが、そのスキルだけではリューシンと互角以上に戦うことなどできない。
「無意味だって分かっててもやってくるのがいるんだよ。無駄な戦闘を避けるためにその日の予定を変えなきゃいけないのも面倒なんだ」
「未来予知に近い能力持ってても、全てが上手くやれるわけじゃないんだな」
「少し先のことと、どうすればそれに対処できるかが分かるだけで相手の行動を完全に制御できるわけじゃない。どうしてもできないことが出てくる」
「いいこと聞いた! そのあたりにアンタを攻略するヒントがありそうだ」
その後、少し言葉を交わしてふたりは闘技台を降りていった。
──***──
「すまん。勝てなかった」
クラン『ファミリア』の陣営に戻ったリューシンがみんなに頭を下げた。
「いや、良い戦いだったよ」
「リューシンさん、お疲れ様です」
「お疲れ様でした」
ハルトやティナ、リファが帰ってきた彼を労う。
「リューシン様、進化なされたのですね。おめでとうございます」
ヒナタが祝いの言葉を言いながらリューシンに抱き着いた。
「ありがと、ヒナタ。できれば勝って君に良いとこ見せたかった。ごめんな」
「相手はリューシン様に効果のある武器を使っていたのですから仕方ありません。次に戦う時は私が光の鎧を付与します。そしたら勝つのはリューシン様です!」
元はただの村人であったヒナタ。そんな彼女がリューシンの妻になり、エルノール一家が暮らす屋敷にやって来たことで光属性を使う魔導士としての才能を開花させた。ドラゴンキラーは闇属性が強い武器だ。ヒナタはそれをなんとなく感じ取っていた。彼女が言うように、リューシンが光の鎧を纏えば彼はカインに勝てるだろう。
「あー。とりあえずそれで一回勝っておくのもありだな」
修行を重ねていつかはカインに勝ちたいと考えていたリューシン。しかし嫁の助力があれば勝てるのだという証明もしたいと思い始めた。
「ヒナタ。俺は来月、あの人ともう一回戦おうと思う。その時に力を貸してくれるか?」
「もちろんです! ふたりで勝ちましょう!!」
リューシンとヒナタがそんな会話をしていた頃──
「母上、少しお願いがあります。この剣を光属性に変えられませんか?」
離れたハルト陣営の会話など聞こえるはずないのだが、カインはそうしておいた方が良いということを超直感で把握していた。
ドラゴンキラーは神話級の武器だ。
その属性を変えるなどできるわけがない。
それが、普通のヒトであれば……。
「変えられなくもないけど、もったいないからそれはそのまま持っておきなさい」
そう言いつつアンナが空間に穴をあける。
彼女が穴から手を引き抜いた時、手には一本の剣が握られていた。
「はいこれ。光属性のドラゴンキラーよ」