最強クラン決定戦 予選(12/22)
カインとリューシンの対戦が始まった。
「せいっ!!」
開幕一番。ドラゴンキラーを大きく振りかぶったカインが斬りかかる。リューシンはそれを竜化させた右腕でガードした。
「──ぐっ!? いっ、いでぇ゛ぇぇええ!!」
大剣がリューシンのドラゴンスキンを切り裂くことはなかったが、何故か彼はかなりのダメージを受けたようだ。
「こ、これが、竜殺しの力なのか?」
「みたいだな。俺も初めて使うから勝手が分からない。早めに降参することを勧める」
カインは超直感というレアスキルを駆使することで、今日初めて装備したドラゴンキラーの能力を最大限に引き出すことができていた。
一方リューシンは龍人に進化したことで、身体の底から湧き上がる力に酔いしれそうになっていた。この対戦は力で強引に押し切れると考えていたのだ。しかし彼の思惑通りにはいかず、カインの持つ大剣は進化したリューシンにもダメージを与える神話級の武器だった。
自信のあった防御能力が意味を成さないことを把握すると、リューシンは戦闘スタイルを即座に変更することにした。
「今日は俺の嫁が応援してくれてるんでね。簡単には負けられない」
ハルト陣営の方に視線をやり、心配そうに見ているヒナタの姿を視界に納めたリューシンの目にはヤル気の炎が燃えていた。試合に勝ったら妻がご褒美をくれるというので、彼もこの戦いに全力で望んでいたのだ。
「その歳でもう嫁さんいるのか。すげーな」
「いや、あんたの弟は俺と同い年で嫁が十四人もいるんだぞ。あ、違うな。ついさっき十五人になったんだった。それと比べたら……」
「あぁ。我が弟ながら信じられないよ」
そう言いつつカインがドラゴンキラーを構える。呼応するようにリューシンも戦闘態勢になった。
「俺も婚約者と両親、兄弟が応援してくれているから負けられない。弟の学友と言えど、本気で勝ちに行く!」
転生者を除けば人族最強の男が準最強クラスの武器を持ってリューシンに襲い掛かった。ハルトが所有する創世級の武器『覇国』と比較するとレア度は落ちるが、対竜族に関して言えばドラゴンキラーの方が攻撃力が高くなる。
高速で斬りかかるカインの攻撃を──
「おっと。あぶねー」
リューシンは余裕をもって躱した。人族最強の攻撃速度も、龍人となった彼にはそこまで脅威ではない。
「次は俺が攻める番だ」
力で押し切るのをやめた彼は、圧倒的な速度を主体とした戦闘スタイルに切り替えた。観客の視界からリューシンの姿が消える。
彼の姿を捉えられたのは会場内でほんの数人だけだった。ティナやシトリー、アカリなど戦闘能力の高い者たち。敵陣営で言えばアンナや祖龍、ダイロンなど。ハルトも魔視を用いることでリューシンの動きを把握していた。
基本的にこの世界で産まれた人族では、本気になった龍人の攻撃を見切ることはできない。それはカインも例外ではない。
対戦相手の視線が自らを捉えていないと把握したリューシンが、カインの死角から襲い掛かった。オリハルコンの鎧すら切り裂く龍人の爪がカインの背に迫る。
「ここか?」
「──なっ!?」
完全に死角だった。気づかれていないはずだったのに、爪を突き立てようとしたまさにその場所にカインがドラゴンキラーを構えたのだ。
ギリギリのところでリューシンは攻撃を中止して距離をとった。あのまま攻撃していたらダメージを受けていたのは彼の方だった。
「な、なんでだ? どうして……。まさか俺の動きが見えているのか?」
「いや。さすがにお前は速すぎる。でも俺には超直感があるからな」
「超直感、だと?」
「ハルトから聞いてないのか? 俺は普通の奴より少し勘が良いんだよ」
勘が良いという言葉で片付けられるものではない。しかし深く物事を考えることが得意ではないリューシンはそれだけで納得した。
「そうか。やっぱりバケモノの兄貴はバケモン級なんだな」
「ハルトとかと一緒にされるのは困る。俺はそこまでじゃない」
カインがチラッと自陣に目をやる。そこには二十数年ずっと一緒に過ごしながらも、力の片鱗すら感じさせなかった真の強者がニコニコしながらこちらを見ていた。カインの母アンナは神や星霊王を強制召喚するバケモノなのだが、カインの超直感をもってしてもそれを把握することができなかったのだ。彼が言った『そこまで』にはハルトだけではなくアンナも含まれている。
「なんにせよ、俺はその大剣を避けて攻撃を当てるぜ」
「なら俺はお前の攻撃をこれで防ぎ続けよう。お互い、ミスったら負ける戦いだ」
ドラゴンキラーを避けて攻撃を当てるか、攻撃をドラゴンキラーで受けることで反撃するかの攻防が開始された。
ちなみに龍人となり、全てのステータスが向上したリューシンが遠距離からドラゴンブレスを放ち続ければ彼の勝ちはゆるぎないものだった。カインの攻撃速度では逃げるリューシンに追いつけないからだ。
しかしリューシンはそれを選択しなかった。
──否。選択できなかったというのが正しい。
カインが超直感を駆使して会話やほんのわずかなしぐさなどからリューシンの思考を誘導し、近接戦闘による戦いを強要していた。表面上はリューシンが圧倒的に優位に見えるこの対戦だが、裏で流れをコントロールしているのはカインであった。