負けられない闘い
ティナと温泉に行ってから三ヶ月が経過した。
あれ以来、屋敷でもたまにティナと一緒にお風呂に入るようになった。ヨウコたちが乱入してくることもあるけど……
学園生活の方はなかなか順調だ。
俺達のクラスは実戦でも座学でも、定期テストで全員が優秀な成績を修めている。
対戦も三回あったが、全部圧勝して教室をキープできている。俺が出る幕は一度もなかった。
そろそろ戦ってティナにいいところを見せたい。そんなことを思っていたら、次の対戦は俺が戦うことになった。
相手クラスの代表と俺が、一対一で戦う。
相手に負けを認めさせるか、気絶させるか、闘技台から落とすかで勝負が決まる。また、クラスの仲間からの支援魔法などに制限はない。
肝心の相手だが、七年生の一番強いクラス──つまりこの学園で最強のクラスの代表が俺の相手だ。
その代表は生徒会長をやっているらしい。
生徒会長は学生でありながら、教師顔負けの魔法使いで、将来は賢者になれる器だと噂されている。
そんな相手だが俺は負けるわけにはいかない。
ティナにいいところを見せたいっていうのと、俺が負けたらティナが取られてしまうからだ。
どういうことか──数日前、生徒会長がティナを一目見て好きになり、自分のクラスの担任になれと迫った。
それに対してティナは、対戦で俺に勝つことができたら担任の件を引き受けると言った。
こうして、俺と生徒会長が戦うことが決まった。
──***──
「ハルト様、すみません。私のせいで……」
対戦当日、控え室で待機しているとティナが謝ってきた。売り言葉に買い言葉で、勝手に俺と生徒会長とを戦わせることにしてしまったことを、ティナは凄く後悔していた。
「もう何回も謝ってくれたろ? 大丈夫、絶対に勝つよ」
そう言ってティナの頭を撫でた。
相手の生徒会長は魔法の才があり、四年生の時には既にこの学園で最強と称されていたほどの男だ。
初めは不安があったけど、凄く申し訳なさそうにするティナを見て吹っ切れた。
全力で勝つ!
俺はティナにキスして闘技台へ向かった。
──***──
闘技台の上で生徒会長と対面した。
さすがの魔力量だ。
ティナや学園長と比べると少ないが、うちのクラスの誰よりも魔力量は多い。更にその流れは非常にスムーズだった。
彼の後ろ、闘技台の外に控える生徒会長のチームも皆、洗練された魔力を持っていた。
闘技台の外にいる全員が既に魔法陣を展開し、生徒会長への補助魔法の用意をしている。
相手は全力で勝ちに来ていた。
「君に怨みはないけど、ティナ先生を手に入れるためだ。悪いけど痛い思いをしてもらうよ」
イケメンで優しそうな雰囲気からは想像もつかないような殺気を含んだ魔力を発する生徒会長。
俺はただ、無言で対戦が始まるのを待った。
審判役の教師が闘技台に上がり、ルールを説明する。
対戦が始まった──
「ファイアランス!」
開始と同時に百発分のファイアランスを撃ち込む。
──が、生徒会長は魔法で強化した腕で、容易く俺の魔法をはじき飛ばした。
スピード優先で纏める魔法が少なかったとはいえ、一切手傷を追わせられないとは思わなかった。
「おっと、いきなりだね。ファイアランスなのにかなりの威力で驚いたよ……君も先生を取られまいと必死なんだね」
「俺も驚きました。まさかあれが容易く弾かれるなんて」
「これでも、この学園で最強と言われているからね」
「じゃあ、その称号は今日で俺が貰います」
「なかなか面白いことを言うね。この魔法を見てもまだ強がれるかな?」
生徒会長が空に手を掲げる。
巨大な召喚魔法陣が出現した。
「来い! イフリート!!」
炎の槍を持った火の精霊王が顕現した。
まじか……俺も、そいつ召喚しようとしてたのに。
「ん? なんだ、相手はハルト殿なのか」
「イフリート、アイツを知ってるのか?」
「あぁ、我の契約者のひとりだ」
そう、俺はイフリートとも契約を結んでいる。
専属契約のウンディーネとは違って、イフリートには数人の契約者が居るらしい。
その数人のひとりが生徒会長だという。
複数人と契約している場合、呼び出した方の指令が優先される。この場合、イフリートは生徒会長の命令で俺を攻撃できるのだ。
「まさか君もイフリートと契約しているとは……でも残念だったね、今回は俺の仲間として君を攻撃してもらうよ」
イフリートが燃える拳で殴りかかってきた。
その攻撃を避けながら、生徒会長の動きを確認する。
彼は魔力を練って大規模魔法を発動させようとしていた。仲間からの補助もあり、後数十秒で発動してしまいそうだ。
──まずいな。
あれだけの魔力を込めた大規模魔法は多分避けきれない。そして、防御魔法を重ねればダメージは受けないけど、場外に吹き飛ばされてしまう可能性がある。
もしそうなったら俺の負けになってしまう。
チラッと応援席を見た。
ティナが不安そうな表情で俺を見ていた。
それを見て、迷いがなくなった。
絶対に負けるわけにはいかない。
まずは邪魔者を足止めしよう。
「ウォーターランス!」
水の槍を数十本出現させ、編むようにして配置する。それは水の檻となって、イフリートを閉じ込めた。
しかし、相手は火の精霊王だ。
「ハルト殿よ、この程度で我を止められると思ったか!?」
水の檻は、すぐに破壊された。
でも、それは想定内だ。
次の魔法を発動する時間は稼ぐことができた。
ウンディーネでは単純な殴り合いでイフリートには勝てない。
だから俺は、ウンディーネより強そうな味方を呼び出すことにした。
「来てくれ! ライトニングランス!!」
上空から光の柱が落ちてきた。
「ふむ、思いのほか早く呼び出されたな。さて、初めての仕事は何かね?」
マイたちの父親、光る槍を持ったおっさんを召喚したのだ。
「アイツ倒せる?」
イフリートを指さす。
イフリートは固まっていた。
そのイフリートを見て、おっさんはニヤリと笑った。
「容易だ」
光る槍を携え、ずいずいイフリートに近寄っていった。
「ひぃ!」
イフリートは短く悲鳴をあげると、物凄い速さで生徒会長の元まで逃げた。
「す、すまぬ! 我はあの方とは戦えぬ。詠唱の時間は稼いだのだから後は何とかしてくれ」
そう言ってイフリートは消えた。
「──は? えっ!?」
生徒会長は状況が分からないようだ。
「だらしない奴よの、契約者を放置して逃げるとは」
「な、何だかよく分からんが、これで終わりだ! メテオラ!!」
生徒会長の魔法は完成していた。
上空が暗くなり、巨大な魔法陣が描かれる。
そこから巨大な隕石が現れ、俺に向かって高速で降ってきた。
こ、これヤバくないか!?
避けるのは不可能。
見た感じの質量からして受け止めるのも無理。
防御魔法を重ねがけしようとしていたら、おっさんが俺の前に出てきた。
「安心せい、我がついておる」
おっさんがでかくなった。
五十メートル四方の闘技台に片足しか乗らないくらい大きくなっている。
そして、片手で隕石を受け止め──
握りつぶした。
「───はぁ!?」
生徒会長が驚愕する。
無理もない、俺もびっくりした。
驚愕し固まっている生徒会長に、おっさんが屈んでその巨大な指でデコピンをした。
絶対不可避のデコピンだ。
生徒会長は吹き飛ばされた。
闘技台の外にいた彼の仲間たちも風圧で吹き飛ばされ、全員揃って闘技場の壁に叩きつけられた。
誰ひとり起き上がってこない。
「こんなもんかの。では、我は帰る。マイとメイをよろしく頼むぞ」
おっさんはマイとメイに手を振ってから消えていった。
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ここまで閲覧いただき、ありがとうございます。
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