新人冒険者の活躍
「ぜやぁぁぁぁぁぁああ!!」
全力で剣を振り下ろす。
ズンっと鈍い音を立てて、黒狼という魔物の首が落ちた。
「ケイト、後ろ!」
アリアが忠告してくれた。
その言葉通りに、俺が倒したのとは別の個体が襲ってくる。
でも大丈夫。ちゃんと気づいているから。
振り向くように身体を捻りながら、地面に剣をあてて溜めをつくる。集中して、後ろから俺を殺そうと迫る牙の接近を感じ取った。タイミングを合わせ──
「でやぁぁっ!」
回転しながら、斜めに斬りあげた。
ガウッ!?
俺を殺ったとでも思ったのだろう。
胴体を真っ二つにされた黒狼が目を見開いていた。
「アリア、ありがと」
「うん。それより、二体逃げた!」
俺たちに与えられた依頼は、黒狼の殲滅。
だから一体たりとも逃がしはしない。
接近戦に弱い、魔法使いという職業のアリア。そんな彼女に向かう一体の黒狼がいたが、アリアはそれを迎撃しようとはしていなかった。
俺を信じてくれているからだ。アリアを襲おうとしている魔物を、俺が倒さなくてはならない。
……大丈夫、俺ならいけるっ!!
フっと全身の力を抜いた。
身体が地面に落ちていく。
身体が前のめりになった時、脚に力を込めた。
下方向に加速した身体の動きを、アリアの近くに移動するための力に変える。
地面を蹴って、全力で走り出し──
アリアに牙を突き立てようとしていた黒狼の胴体に剣を突き立てた。
あと少しで魔物の攻撃が届きそうだったが、アリアの視線は逃げた二体の黒狼に固定されている。彼女から魔力があふれ出す。魔力を感知する能力が低い俺ですら、それがわかるくらい濃い魔力がアリアの周りに渦巻いていた。
「氷槍よ、貫け、我が敵を仕留めよ アイスランス!!」
魔力が無数の氷の槍になって、その全てが高速で飛んでいく。
遠くのほうから魔物の悲鳴が聞こえた。
「よしっ。命中した!!」
「アリア、ナイスだ」
動きの速い狼系の魔物を確実に逃がさないために、彼女は無数の槍を同時に展開していたみたいだが、飛んでいった最初の二本がそれぞれ標的を仕留めていた。
かなり距離が離れてしまっていたにもかかわらず。
「相変わらず、すげー魔力量だな。魔法の精度も凄いし」
「ケイトだってあんなにたくさん魔物がいたのに、常に私が魔法を安心して放てるようにしてくれた。最後に魔物を倒した時の動きも凄かったよ」
アリアに褒められると、やっぱり嬉しくなる。逆に俺がアリアを褒めると、彼女がそれを嬉しそうにしてくれる。
「それじゃ、シリューさんに報告しに行こう」
「うん! いっぱい褒めてもらおうね」
俺たちは魔物の討伐証明となる部位を回収し、街に向かい始めた。俺とアリアは二人だけで、Dランク中位の魔物である黒狼の群れの討伐依頼を受けていたんだ。
本来コレは、Dランク冒険者が四人以上でパーティーを組んで受ける依頼らしい。ちなみに俺たちがギルドに登録してから、およそ一か月が経過していた。
最初の二週間はクランの所有する訓練所で、シリューさんに魔物との戦い方を教えてもらった。
俺たちは故郷の村を出たときから、危険度Dランクの魔物を倒す力があった。だけどそれは、ただ倒すだけ。特に技術は使ってなかった。
シリューさんやノートリアスの先輩冒険者が教えてくれたのは、効率よくかつ安全に、そして素材としての価値を低下させずに魔物を倒す技術や知識など。
それらを学ぶことができて、俺とアリアは何段階も強くなれた気がする。
今日の討伐では、事前に黒狼の巣のそばに麻痺毒入りの餌を置いておいた。それを数体の黒狼が食べたから、かなり楽ができたんだ。黒狼が気づきにくい毒の調合方法を俺たちに教えてくれたのも、クランに所属する冒険者のひとりだった。
クランって凄い。
色んな技術や知識を持った冒険者が、惜しげもなく協力してくれる。だから俺たちも強くなれたし、冒険者としても成長できた気がするんだ。
「なぁ、アリア。俺はノートリアスに入れて、本当に良かったと思ってる」
「私もだよ、ケイト。魔法の詠唱なんてめんどくさいだけって思ってたのに、魔力の無駄もなくせるし攻撃の精度も上がるんだって知れたのはクランに入ったおかげだもん!」
最初はずっと、アリアとふたりきりで冒険者をやっていくつもりだった。彼女はどちらかと言うと人見知りだから。
でも俺は最近、アリアがクランに所属する魔法使いさんたちと魔法関係のことを楽しそうに話している様子をよく見かけるようになった。
冒険者として活動し始めてまだ二週間だけど、既に俺たちはEランクに昇級していた。ギルドポイントはすぐ貯まったし、一昨日シリューさんが俺たちの昇級をギルドに推薦してくれたから、本当なら必要な試験も免除で昇級することができたんだ。
俺たちならもし試験を受けても、ちゃんと合格できただろうって、シリューさんが言ってくれた。それも嬉しかった。きっと今日も、俺たちが依頼をこなしたって報告したら褒めてくれるだろう。
「俺、もっと頑張るよ。そんでいつか、シリューさんの右腕って呼ばれるような冒険者になる!」
「なら私は、ケイトの右腕になるね」
「アリアは強いし、これからもっと強くなるよ。だから俺のじゃなくて、シリューさんの左腕的な存在を目指したら?」
「んー、それも良いけど……。でもやっぱり私は、ケイトと一緒が良いな」
そう言ってアリアが俺の右腕に抱き着いてきた。
実は彼女、着やせするタイプなんだ。
だから、その。や、柔らかいのが……。
どうしても右腕に意識が集中してしまう。そんな俺のことなどお構いなしに、アリアが話しかけてくる。
「だからケイト、これからも一緒に頑張ろうね!」
「う、うん。がんばる」
「どーしたの? なんか元気なくない? もしかしてさっきの戦闘で、どこか痛めたの!?」
「あっ、い、いや。そんなことない! 俺は無傷だよ! ほら、この通り」
その場でクルクル回って、どこにも怪我がないことをアピールしておく。ついでにアリアの拘束から逃れた。あのままだったら、魔物と戦う時以上にピンチがやってくるかもしれない。
「そう? ならいいけど……。絶対に無理はしないでね」
「おう。何かあったら俺は絶対アリアに言うから。アリアも何かあったら教えてね」
「はーい」
「それと、これから頑張ろうな!!」
「うん! がんばろー!!」
今後もアリアと一緒に、ノートリアスでやっていく。
俺たちは、もっともっと強くなってやる!