クランの仕組み
「ケイト、アリア。お前たちふたりには悪いが、今後は冒険者ギルドから直接依頼を受けないでくれ」
「えっ!? な、なんでですか?」
「それじゃ私たち、お金を稼げないですよ……」
ノートリアスってクランのリーダーであるシリューさんに連れられて、俺たちは冒険者ギルドを出た。ギルドの敷地外に出たところで、彼がいきなりそんなことを言い出した。
「あぁ、勘違いしないでくれ。お前たちに仕事をしてもらわないわけじゃない。ケイトたちには、クランから依頼を出させてもらう」
「クランが依頼を? それはギルドから受ける依頼と、何か違うんですか?」
「依頼内容は特に変わらない。冒険者ギルドに持ち込まれた依頼を、クランを通してやってもらうことになる。ちなみにギルドから支払われた報酬をそのままお前たちに渡すんじゃなくて、クランの運営費なんかをちょっと抜かせてもらうから──」
「そ、それって俺たちが魔物を倒しても、お金をクランに奪われるってことでしょ!?」
「さすがにそれは納得できません!!」
「まぁまぁ、落ち着けって。クランを通すと元の依頼より報酬が安くなっちまうが、当然お前たちにもメリットがある」
「メリット?」
「クランがお前たちの実力を保証してやれるってことだ」
アリアと一緒に頭をかしげる。
クランが俺たちの力を保証?
それって、なんのためになるんだ?
俺たちがよく分かっていないと気づいたシリューさんが、詳しく説明してくれた。
「例えばケイトは今、Fランク冒険者だよな」
「……はい、そうです」
ついさっき冒険者登録をしたばかりなんだから当然。
「一般のFランク冒険者が受けられる依頼がどんなのか知ってるか? 薬草採取とか、下水掃除とか……そんなんばっかりだ。でもそれらをある程度こなさないと、お前たちは他の依頼を受けられない。お前たちには、信用がないからだ」
確かにさっき受付のお姉さんに魔物討伐の依頼を受けたいって言った時、断られてしまった。俺たちには魔物を倒す力があるのに、依頼を受けられなかったんだ。
「お前たちは当面、魔物討伐の依頼を受けられない。勝手に魔物を倒してその素材をギルドに納めてもいいが、冒険者ランクを上げるために必要なギルドポイントはほとんどもらえない。そーゆールールになっている」
「だから、クランを通して依頼を受けろと?」
「そうだ。俺のクランがお前たち新人に代わって、ギルドからEランクやDランクの依頼を受けてやる。それをケイトとアリアがこなしてくれたら、報酬とギルドポイントが付与されるって仕組みだ。さっきも言ったように、報酬は一部中抜きさせてもらうがな」
「クランを通せば、俺たちがDランクの依頼を受けてもいいんですか?」
「もし依頼を受けられたとしても、ギルドポイントは減らされちゃうんじゃ……」
「ギルドが冒険者にランクを設けているのは、冒険者が無理して実力以上の依頼を受けて失敗したとき、依頼者に補償金を払わなければならなくなるのを防ぐためだ」
例えば商人の護衛の依頼があったとする。冒険者がその護衛に失敗して、依頼者である商人の荷物を全て失った時、ギルドが補償しなければならない額は依頼金の何倍にもなってしまうらしい。そうなるのを防ぐために、冒険者ランクっていう制度があるんだってシリューさんが説明してくれた。
「俺はお前たちふたりには、かなりの力があると判断した。ケイトの立ち居振る舞いは熟練冒険者が纏うようなもんだったし、アリアの魔力は洗練されていて力強い。そんなふたりに、Fランクの依頼を数か月もやらせておくのはもったいないと思った。だからノートリアスに誘ったんだ」
「それじゃ、シリューさんのクランが俺たちの力を保証してくれるから、俺たちは今のランク以上の依頼を受けてもいいんですね?」
「そういうことだ。クランが報酬を少し抜くが、Fランクの依頼なんか受けるよりよほど多くの金が手に入る。もちろん依頼のランクが高い分、危険度も増すが……」
シリューさんの大きな手が、俺とアリアの肩に優しく置かれる。
「俺は、お前らならやれると思う。依頼を受ける前に少し俺がお前たちを鍛えてもやる。経験豊富な先輩冒険者たちが、お前たちの実力に適した依頼を見繕ってやる。もし仮に依頼に失敗したとしても、その補償はクランがしてやる。それがノートリアスってクランなんだ。どうだ、やれそうか?」
「は、はい! やります!!」
「私も、がんばります!」
シリューさんみたいに強いヒトが、俺たちのことを信頼してくれている。俺たちに期待を寄せてくれている。これで気分が上がらないわけがない!
「ありがとう。いい返事を聞けて良かった」
そう言って笑顔になったシリューさんは、俺たちの肩から手を離した。
「ちょっとついてこい」
冒険者ギルドの前の大通りを渡っていく。
ギルドの向かい側にある、大きな建物へ。
ギルドの倍くらいはあるんじゃないかって建物の前で、シリューさんが俺たちに向き直った。
「ここが今日から、お前たちの拠点だ」