Cランク昇級試験(13/16)
リューシンはその後、『滅竜拳』や『滅竜脚』、『滅竜砲』なる技で、ガドを圧倒し続けた。ちなみに滅竜砲は、普通のダークブレスだった。彼は竜化しなくても、ダークブレスを放てるようになったみたい。
ドラゴノイドが人型のままブレスを放てるようになるには通常、数十年の鍛錬が必要になるらしい。
人型のまま放ったブレスでガドを消滅させ、さらに俺のダンジョンの一部を完全に破壊したリューシンの姿を見て、ヒナタは満足気だった。
それは良い。すごいことだ。
しかし気になるのは、滅竜の技を、竜の一族であるリューシンが使っていることだ。以前もツッコんでみたが──
『語呂がいいからな! なんか技名って、あったほうが威力上がりそうだろ? 大声で叫びやすいから、これでいいんだよ』
リューシンは、そんなことを言っていた。
そんな彼の技だが、ダークブレス以外はスキルや魔法ではない。身体の動作に合わせて、高密度の魔力を飛ばしているだけ。
特定の攻撃スキルはスキル名を声に出すことで、その発動ができるのだが、彼の滅竜拳はそうではない。それに魔法の詠唱とは違い、技名を叫んだところで威力が変わることはない。
威力が上がるというのは、リューシンの勘違いだ。
ただ、身体の動きに合わせて魔力を放出する技だから、タイミングを取りやすくなって、それで攻撃の威力が上がるような気がするのはあるかもしれない。たぶん、そうなんじゃないかな。
「ま゛、まい゛っだ!!」
いろいろ考えているうちに、リューシンがガドから降参の言葉を引き出していた。
蘇生したてのガドの喉は、完全には治りきっていない。何度も悲鳴を上げたことで枯れた喉から、なんとか降参の意思を伝えた彼だが。
「お、俺の負げ──」
少しタイミングが悪かったみたいだ。
「えっ?」
降参の言葉がリューシンの耳に届いた時、彼はガドに向かって本日最大級のブレスを放った後だった。
当然それを止められるはずもなく、ガドの身体が消滅する。
「……なんか、すまん」
「勝者、リューシン!」
ギルドマスターのイリーナが、リューシンの勝ちを認定してくれた。
そしてガドの身体の再生が始まる。
彼の戦いは、まだまだ終わらない。
──***──
「それじゃ次は、ウチが行くにゃ!」
「がんばれよ、メルディ」
「メルディさん。お気をつけて」
応援の言葉をかけた俺やルナに少し笑みを見せると、メルディはガドに向かって歩いていった。
「お、お前は、アイツらみたいなバケモンじゃねーだろーな?」
「違うにゃ。あのふたりとは、一緒にしないでほしいにゃ」
ガドが問いかけ、メルディがそれに応えた。
アイツらっていうのは、俺やリューシンのことかな? もしかしたら、ヒナタも入るかも。普段は俺ばかりバケモノ呼ばわりされることが多いけど、この世界の一般人からしたらリューシンだってバケモノ級の強さなんだ。
そもそも黒竜になれるんだから、俺なんかよりもよっぽどバケモノじゃん。
「……ならいい。やるぞ」
ガドの口角が上がったのが見えた。
メルディなら、楽しめると思ったのかな。
「もうやっていいのかにゃ?」
「おう。かかってこ──」
言葉の途中で、ガドの上半身が消えた。
ガドが試験開始の合図を出したと判断したメルディが一瞬で間合いを詰め、極大の魔力を込めた拳を、至近距離でガドにたたきつけたんだ。
その余波で、俺がダンジョン化した闘技場の壁の一部が消し飛んでいる。
リューシンの攻撃で破壊されたから、俺はさらに魔力を込めて闘技場の壁を補強していた。メルディの攻撃はそれを、いとも容易く破壊した。
彼女は、俺やリューシンとは違うと言う。
それはあながち間違いではない。
とてつもない適性を持っていたから強くなれたヒナタとも、特殊なステータスを持っているおかげで強くなれる俺やリューシンとも違う。
メルディは、センスの塊なんだ。
俺がかなり時間をかけて習得した魔衣を、メルディは一日で纏ってみせた。
その魔衣の応用で、攻撃の瞬間に魔力を移動して絶大な威力を誇る攻撃方法がある。コレができるようになるまで、俺は二年かかった。それを彼女は、俺が教えたその日のうちに再現してしまった。
メルディは一度でもその身に受けた物理攻撃を、ほぼ完ぺきにトレースできてしまう。アカリやシトリーの技など、ステータスが足りずに再現できないものもあるが、それはほんの一部の例外だ。
俺からすれば、メルディもバケモノ級のひとり。エルノール家の中では庇護対象ではなく、戦闘員だとカウントすることのほうが多い。
そんな彼女に、暴言を吐いた『バカ』がいたらしい。
「おっ、お前もじゃねーか!!」
ちょうど『バカ』の復活が完了した。
復活したばかりの彼に──
「うっさいにゃ!!」
獣人姫の拳が、全力で叩き込まれる。