Cランク昇級試験(12/16)
「ま、魔法職だと?」
「あぁ。俺は、魔法戦士だ」
「は? お前、それって──」
ガドがリューシンの言葉に唖然とする。それはリューシンの戦闘職が『二次職』だったから。
「そう。転職してないから、俺はまだ二次職」
リューシンのレベルは200をゆうに超えていて、『三次職見習い』どころか『三次職』にまで転職することができる。この世界では職業のレベルを一定まで上げて転職することで、それまで使えなかった強力なスキルが使えるようになる。
上位の戦闘職に転職することで、もとの職より格段に強くなることができるのだ。
リューシンと同じくらいレベル上げが進んでいるメルディは、既に転職を行なっている。彼女は三次職である『魔法拳闘士』へと至っていた。
しかしリューシンは彼の意志で、まだ転職しようとしなかった。
「レベルを上げて転職すれば、技術を身に付けなくてもそこそこ強くなれる。だけど……それだとダメなんだよ。そんなんじゃ、あのバケモノには絶対に勝てねぇ!」
ハルトのそばにいることで、メルディもリューシンも、普通ではありえない速度でレベルを上げてきた。メルディはハルトの妻になったことで、昔ほど強くなることに執着しなくなっていた。これには強者の庇護下に入ることを是とする、獣人族の性が影響している。
一方でリューシンには、たとえ神をも殴り飛ばすようなバケモノが相手であっても、立ち向かえる力を手に入れなければならない理由があった。
かつてアルヘイムで、ハルトに隷属の腕輪がかけられたことがあった。この時、実はハルトが洗脳されていないと、リューシンだけが知らされていなかった。魔王軍二十個分の戦力を率いた魔王が敵になったと、彼だけが本気で思っていたのだ。
ハルトの仲間のうちでリューシンだけが、本当に絶望していた。ハルトが敵になった時の、真の絶望を知っていた。だからこそ彼は、ハルトがバケモノだからと──絶対に勝てないなどと、簡単に諦めることができない。
もしハルトが、なんらかの事情で敵になったら?
エルノール家と親交が深い者たちの中で唯一、リューシンだけが最悪の状態を想定し、自らの力を伸ばし続けている。彼がまだ独り身だったら、アルヘイムの時のように笑って諦めたかもしれない。そもそもハルトが敵になるという想定など、しなかったかもしれない。
今の彼には、それができない理由があった。
ヒナタという、守るべき存在ができたからだ。
「正直、俺が本気のアイツを止められるとは思えない。だけど……。アイツがこの世界を滅ぼそうとすることがあれば、最後までヒナタと一緒に逃げ延びる──そんくらいの力は、得ておきたい。だからこれまで、必死に修行してきた」
リューシンが半身になって、拳を引いた。
「これは、その力の一部だ」
「な、なにを言ってるんだ?」
意味が分からず、困惑するガド。
そんな彼を無視するように、リューシンは数年かけて磨いてきた技を──対最強賢者用の奥義を、全力で放つ。
「滅 竜 拳!!!」
リューシンの拳から放たれた超高密度に圧縮された魔力の塊が、一瞬にしてガドの肉体を消滅させた。
そしてその魔力の塊は、闘技場の壁をも突き破った。
ここは今、ハルトのダンジョンになっている。その壁を突き破ったということは、リューシンにはハルトのダンジョンを破壊する力があるということ。ちなみに壁の向こう側はハルトが転移魔法の応用で異界に繋げていたので、リューシンの攻撃がそれ以上何かを破壊することはなかったが──
「おぉ、マジか。かなり頑丈な壁になるよう設定したのに……。やるな、リューシン」
ここをダンジョン化したハルトも驚いていた。
「リューシン様! 素晴らしい威力です!!」
「リューシン、さすがにゃー」
「シトリーさんもアレ、できますか?」
大きく穴の開いた壁を見ながら、アカリがシトリーに問いかける。
「できますが……。六割程度は力を解放しないと厳しいかと」
ハルトの加護を受け、歴代最強の魔王となったシトリー。九尾狐と色竜の同時攻撃を軽くあしらう最強魔王の、およそ六割に近い力を今のリューシンは得ていた。
さらに彼には、まだ『転職』がある。
転職で得られるスキルにもよるが、ここからリューシンはまだまだ強くなれるのだ。
この場にいた全員が、リューシンの成長に感心していた。しかしそれと同時に、みんなが同じことを考えていた。
(((滅竜拳はダメでしょ)))




