Cランク昇級試験(10/16)
ヒナタはただの村人だったが、光属性魔法への適性があった。
百万人に一人というレベルの才能を、その身に持って生まれていたのだ。
しかし村人として過ごしていれば、それが開花することはなかっただろう。どんな才能を持っていたとしても、ただの村人ではそれを自覚することなど困難だ。この世界には、そうした才能を開花させられずにその人生を終える者も多々いる。さらに、才能を伸ばす手段を持つ者も少ない。
ヒナタはリューシンに助けられたことで、異世界からやってきた賢者に出会うことができた。
邪神を殴るという目標を持っていたその賢者は、邪神からの反撃に備えて家族や仲間たちを強化しようと考えていた。
賢者の仲間であったリューシン。ヒナタがその妻になったことで、百万人に一人の才能を持つ少女と、その才能を最大限に開花させられる存在が揃ったのだ。
ちなみにヒナタを鍛えたのは、異世界から来た賢者だけではない。もともとこの世界にいたヒトの中では最強の魔法剣士や、世界最高峰と言われる魔法学園の学長も、ヒナタの才能を伸ばすのに大きく貢献した。貢献しすぎたのかもしれない。
彼女をただの村人だと考えていた賢者は、成長したヒナタの姿を見ながらこう呟いた。
『……あれ? ヒナタ、普通に強くね?』
リューシンを守れるようにと、彼が苦手な光属性魔法を鍛え続けたヒナタ。彼女は、強くなり過ぎた。ヒナタは蘇生魔法は使えない。しかし、それ以外の光属性魔法であれば、聖女であるセイラを凌駕するほどの魔導士になった。
訓練で何度かリューシンと手合わせをして、勝ってしまったこともある。
そんな彼女のステータスボードが、いつの間にか変化していた。とある称号が付与されていたのだ。それは──
滅竜魔導士
竜を滅する力を持った者にのみ、与えられる称号だ。
しかし元はただの村人であったことから、ヒナタは滅多に自分のステータスボードを見ない。
だから彼女は、それを知らない。
もちろん彼女の夫も、賢者たちも。
夫を守れるようにと身に付けた力で、ヒナタは黒竜を消滅させられる力を得ていたということを。
そんなヒナタが、夫を『木偶の坊』と呼ばれたことにキレていた。
命の恩人で、尊敬する最愛のヒトを貶された。
我慢できなかった。
「三回……。いえ、五回ですね」
滅竜の力を得て以来、ヒナタは初めて全力を解放する。
「次の昇級試験は、私がやります」
「お、俺は、アイツを──」
「わ た し が や り ま す」
リューシンを指名しようとしていたガドは、強い殺気が含まれたヒナタの宣言を受けて、それを強制的に受け入れさせられた。否応なしに、首を縦に振るしかなかったのだ。
「それじゃいきます。いいですか? ……いいですよね」
先と同じように、首を縦に振らされるガド。
次の瞬間。ヒナタの姿が消えていた。
「ぐぼっ──」
光の魔衣を纏ったヒナタが、ガドの腹部に強烈な一撃を叩き込んだ。
ガドが勢いよく吹き飛ばされ、壁に激突する。
しかし彼は、すぐに立ち上がった。
「ふ、ふざけ──」
「残り、四回」
謎のカウントをとるヒナタ。
彼女は自分の感覚で気づいていた。
ヒナタ以外でそのことに気が付いているのは、ガドの無限復活を可能にしているハルトくらいだ。
「ハル兄。ヒナタさんって今、結構な力で殴ってたよね?」
「なんでアイツ、ぴんぴんしてるんだ?」
アカリやリューシンが不思議がっていた。
死んでもおかしくない威力に思えたのだ。
「ふたりの見立ては間違ってないよ。アイツは今、一瞬で復活したんだ」
それは、やられた本人ですら自覚できないほどの速度で行われていた。
黒竜を消滅させ得る威力がある拳で殴られた彼は、確実に死んでいた。しかし刹那ほどの時間も空けずに、ガドは復活していたのだ。賢者がこのダンジョンに設定した、蘇生魔法で。
「ちょっと顔の良い女だからって、手加減は──ごふっ!!」
「あと、三回……。手加減なんていりません。私は手加減しませんから」
二度、ガドを殴り飛ばしても、ヒナタの怒りは全く収まっていなかった。
ハルトがやったように、身体を完全消滅させれば、その肉体を再生させるのに若干の時間がかかる。そうではなくただ死んだ場合、ここでは一瞬で蘇生が完了してしまう。
もしガドが一瞬で復活したりせず、その無残な死体が床に転がれば、状況は違ったかもしれない。
殺ったという感覚はあるが、結果が見えない。多少気が晴れるが、やり過ぎたという後悔を抱くほどではないのだ。
そのためヒナタは宣言通り、計五回の事故を起こした。