ガドの秘密
Cランクへの昇級試験を受けに来た冒険者の魔法を受けて、俺は死んだ。
意味が分からねえ。
相手は、Dランクのガキだぞ!?
そんな奴に、この俺が……。
ありえねぇ。何かの間違いだ。
そう思って俺は、魔具の効果で復活した後、すぐにハルトを殺してやろうとした。
でもアイツは、それを見越していたかのように次の魔法を用意していた。
『ファイアランス』──ハルトは確かに、そう詠唱していた。その魔法で、属性竜のブレスにすら耐える俺の身体が再び消滅したんだ。
俺は昔とあるダンジョンで、蘇生の首輪という魔具を手に入れた。
これを身に着けている限り、俺は死なねぇ。その効果を利用して、俺はかなり無茶なレベル上げをして強くなった。
もちろん今も、その魔具を身に着けている。
だから俺は、こうして生きている。
あの馬鹿げた威力の魔法を受けても、俺は生き返ることができた。
知恵のある魔物の場合、俺を殺したつもりでその場を去ろうとしたり、俺を喰おうとした瞬間に俺が蘇生したら、ほとんどのやつらが驚いて動きを止める。その隙をつくことで、俺は自分より格上の魔物を倒してきた。
ヒトであってもそうだ。俺が弱かったころ、俺は自分の死を囮にして、俺をバカにしてきた奴らを殺してきた。
確実に殺したと思ったら油断するんだ。
それがヒトでも、魔物でも。
なのにハルトは、まるで俺が生き返るのを知っていたかのように、次弾を用意してやがった。
なんでだよ!? なんで油断しねぇ!?
分からねぇことは他にもある。
あの魔法を使う際にハルトは『ファイアランス』と詠唱したんだ。
威力が落ちるが、無詠唱で魔法を使える奴もいる。それでも、魔法の詠唱をしながら、別の魔法を発動させることなんて不可能なんだよ。アイツが使った魔法は確実に、ファイアランスなんかじゃねぇ!!
そして今。俺は、三度目の死を迎えようとしていた。
クソでかい炎の柱が飛んでくるのを見ながら、とある情報を思い出していた。先日、俺の部隊の副隊長をしているキールが伝えてきた情報だ。
ハルトが、あのカインの弟だってこと。
アイツはバケモノだ。
王の指示で何度か戦ったが、一度も勝てなかった。
王が止めるから、カインは俺を殺さなかった。一応、元同僚だから、殺されはしねえか。
だがもし実戦なら、俺は魔具の力でカインの隙をつき、奴を殺すのはできると思う。バケモノだとは思うが、所詮は殺せば死ぬ程度のやつだ。
まぁ、奴がバケモノだってのは間違いねぇ。
その弟もそうだと気づくまでに、俺は三回死んだ。
この場で、三度目の復活。
俺が生き返ってるっていうのに、なぜかハルトやその仲間は驚きもしなかった。
復活できるって、知ってるのか?
一応、そう思う理由がある。
キールが昨晩、帰ってこなかったんだ。あいつは、気になることがあって、ハルトの屋敷に偵察に行くと言って出ていった。それが今日になっても、戻ってきていない。
俺はキールの、諜報員としての能力を認めていた。あいつが得てくる情報はいつも正確で、普通じゃ手に入らないものばかり。そして絶対に、潜入していたという証拠を残さない。そんな奴が、戻ってこなかったんだ。
まさか、ハルトに捕まったのか?
ありえないとは思うが……。
キールだけなんだ。俺が何度でも復活できると知っているのは。
だから、ハルトたちが俺の復活に驚かない時点で、キールは捕まっていると考えるのが良いだろう。
あいつは優秀な間者だが、自分の命が危うくなればすぐに掌を返すような男だ。少なくとも、俺の部下にしてやった時はそうだった。
復活が完了した。
そして飛んでくるハルトの魔法。
さすがに四度目となれば、なんとか避けられる。
ま、完全にじゃねーけど。
でもこれで、終わらせることができる。
やられるばかりなのは、つまらねーからな。
もういいや。
自分の命が尽きていくのを感じながら、俺はハルトに降伏した。
これはゲームなんだ。
俺が負けを認めてしまえば、バケモノといえ何もできねえ。
それがこのゲームのルール。
とりあえず、復活のことを誤魔化すようなセリフを吐いた。
白々しかったか?
まぁ……。どうでもいいだろ。
さぁ、次だ。
バケモノのせいで溜まった俺の怒りを、アイツの仲間で晴らさせてもらおうか!!