Cランク昇級試験(8/16)
俺たちの昇級試験を担当してるガドって男。
彼が復活するのを待ってる間、俺は昨日のことを思い出していた。
俺はこれまでに出会った悪魔を、何体も消滅させてきた。中には俺に勝てないと悟り、魔界に逃げようとした悪魔もいる。だけど俺は、そいつが展開しようとした転移門を魔力で強引に潰して逃がさなかった。
転移門を使い、人間界と魔界を自由に行き来する悪魔という存在は本来、この世界において大きな脅威だ。いつどこに現れるのかもわからず、何とか追い詰めたとしても奴らは転移で魔界に逃げてしまうのだから。
人族は魔界では生きられない。だから普通は、魔界に逃げた悪魔を追うことはできないんだ。
──普通はね。
俺は自ら編み出した転移魔法で魔界に行けるし、ステータス固定の呪いのおかげで、魔界でも普通に行動できるから、悪魔が魔界に逃げようが関係ない。
そもそも、逃がさないけど。
魔界を散策している途中、襲い掛かってきた悪魔も何体か討伐した。
俺の妻になったシトリーと彼女の友人である数体を除けば、今この世界には上位悪魔って存在は、ほとんどいない。
ほぼすべての悪魔を消滅させてきたから。
遭遇した悪魔を、逃したことはなかった。
俺は、悪魔を捕縛可能な魔法障壁を展開できる。どんな特殊能力を持つ悪魔でも逃さないよう、様々な阻害魔法を無数に組み合わせて生み出した、対悪魔用の魔法障壁。
これから逃れた悪魔はいない。もちろん魔人や魔族、不定形の魔物にも効果がある。
そんな俺の魔法から、逃れた奴がいた。
そいつは俺の屋敷を遠くから眺めていた。
後でルアーノ学長に確認をとったけど、昨晩学園に入る許可を新たに得た者はいなかった。つまりそいつは、魔法学園に無断で侵入していたってことだ。
あまり強そうには思えなかったけど……。悪魔すら無力化する魔法から逃れ、賢者ルアーノの監視魔法をも欺くそいつの存在は、意識しておくべきだろう。
そんなことを考えているうちに、ガドが光とともに復活した。
ついさっき、二回目の事故が起きたばかり。うっかり力加減を間違えて、彼を消滅させちゃった。
だけど大丈夫。
ここは今、俺のダンジョンになってる。
もしここで死んでも、何回でも復活できる。
俺の魔力が尽きない限り、何度でも。
……まぁ。俺は、強めの魔法を二度放ったことで、割とスッキリしていた。
ルナをナンパした件と、メルディを罵倒した件。その二件の償いをしてくれたから。
もちろんこれは、事故だ。
たまたま俺の放った魔法の数と、俺がガドにイライラしてた件が同数だっただけ。
うん。ただの偶然。
「──っ!? く、クソがぁぁあ!!」
地面に仰向けに倒れた状態で復活したガドが、何かに気づいて慌てて飛び起き、俺に飛びかかってきた。
二回身体が消滅したことは、どうやら記憶があるみたい。
だから多分、コレを止めなきゃいけないって思ったんだろうな。
もう、遅いけど。
「ファイアランス!」
急に飛びかかってくるから、驚いて三度目の事故を起こしてしまった。放つつもりはなく、とりあえず用意していた炎の槍を……つい、うっかり。
仕方ないよね。
ちなみにルナやメルディ以外にも、ガドのせいで傷ついた者たちがいるらしい。この三発目は、その人たちの分ってことにしとこう。
そう思いながら俺は、次の魔法を用意し始めた。
三度、闘技場の中心に光が集まると、白い簡素な服に身を包んだガドが現れた。ちなみに二回目の時から、彼の服はそれになっている。
俺の魔法で衣服も全て消滅しているので、そのまま蘇生すると全裸なんだ。俺の背後には妻たちがいる。彼女らに、他所の男の全裸を見せるのは嫌だった。
だから蘇生時に、適当な服を与えてる。
その服自体は<クリエイトアームズ>ってスキルを再現した魔法で創った。俺の妹だったアカリが、元の世界の神様から貰った破格のスキル。
コレ、すげー便利なんだ。
覚えて良かった。
「……あぁ、そーゆーことね。よし、理解した」
三度目の復活を果たしたガドが、今度は俺に飛びかかってくるでもなく、その場で何か納得した様子だった。
少し不気味だったので、念のために魔法を放っておく。
なんとそれを、ガドは避けた。
とはいえ、完璧にではない。
避けきれず、身体の半分は消し飛んでいる。
なのに、ガドは笑っていた。
目の奥に俺への恨みを秘め、言葉を発する。
「参った。俺の負けだ」
一切心のこもっていない声でそう言うと、ガドは後ろに倒れた。
四度目の事故。
そして、ガドが復活した。
「あー。参ったまいった。なんで俺、まだ生きてんのか知らねぇが……。まぁ、いいさ。ハルトって言ったか? お前は合格だ」
あっさりし過ぎている。
何か気味が悪い。
しかし彼が負けを認めたので、俺はこれ以上魔法を撃つことはできない。
「そうですか。ありがとうございます」
「おう。お前には、どう足掻いても勝てなさそうだ。だから──」
ガドが近づいてきて、俺の耳元で囁いた。
「この恨みは、お前の仲間にぶつけることにするよ」