魔法の制限
学園長との対談を終えて、ティナと屋敷に向かっている。
「ティナ、呪いのこと……ずっと黙っててごめん」
俺の横を歩く彼女の方を見ることが出来ず、歩きながら謝罪した。ティナの反応が怖かったんだ。
「私は別に、怒ったりしていませんよ」
「……ほんとに?」
「えぇ。ですがもっと私を信頼して欲しかったな、と」
ティナが足を止め、少し下を向いた。怒ってはないけど、自分が信じられていなかったという寂しさを感じているらしい。
「何があろうと私はハルト様の味方だと、昔から言ってきたでは無いですか」
「う、うん……ごめん」
「これからは今まで以上に、私を頼ってください」
「わかった。そうするよ」
ティナが手を差し出してきた。
その手をとって歩き出す。
「ハルト様は既に私が逸らすので精一杯なレベルの魔法を使えますが、さらなる強さを求めていますよね?」
「うん。前も言ったけど、俺はティナを守れるような存在になりたい。守護の勇者よりも強く。この世界を守れるくらい強くなりたい」
「でしたら私は、そのお手伝いをさせていただきます!」
「ありがと、ティナ」
「はい。そのお手伝いをさせていただくために、もう少し詳しくハルト様の状況を教えていただいたいのですが……」
「もちろんいいよ」
ティナやルアーノ学園長には俺が転生者であること、邪神に呪いをかけられステータスがレベル1で固定されていること、魔力が実質無限で最下級魔法を複数同時発動させて攻撃力を上げていることなどを説明した。
それ以外に伝えていないこと、何かあったかな?
「ハルト様は魔力量もレベル1のステータスである10で固定されているのですよね?」
「うん、そう」
「最下級魔法を組合わせて強力な魔法にしているとおっしゃっていましたが、魔力消費が10以下の下級魔法は使えないのでしょうか?」
「使えない。なんでかは分からないけど、俺は最下級魔法しか使えなかった」
この世界には魔力消費量が2の最下級魔法、一発で3~29の魔力を消費する下級魔法、30~99の魔力を使う中級魔法などがある。100以上の魔力を消費するのが上級魔法と呼ばれ、ルークが使っていたアルティマサンダーのような究極魔法は一発で500もの魔力を消費する。
ちなみに魔法の発動には最低必要魔力と言うのがあり、それ以上の魔力を込めておけば魔法は発動する。詠唱や魔法のイメージができていることなどの条件もあるが。
俺は魔力が10で〘固定〙なので、下級魔法の中でも消費魔力量が10以下のモノなら使えるのではないかと思い、これまで何度も使おうとしてきた。魔力消費が2でも10でも、俺が魔力を放出する速度は変わらない。だから最下級魔法のファイアランスを千発撃つより、魔力消費10の下級魔法であるファイアブラストを千発撃った方が威力が強くなる。
でもそれができなかったんだ。
ちなみにできないというのは詠唱しても魔法が発動しないということで、『ファイアランス!』と詠唱しながら本来必要になる数倍の魔力を利用すればファイアブラストを模倣した魔法を使うことは可能だった。
「そ、そうなのですか……」
「これは俺の考えなんだけど、賢者になったこととステータスの〘固定〙が同時だったからこうなったのかなって」
賢者って全属性の魔法が使えるんだ。だから今の俺も全属性の最下級魔法が使える。でも本来賢者って、魔法使いや魔導士って職業を経てからなる職業なんだ。魔法使い見習いの時、火属性魔法はファイアランスしか使えない。それが魔法使いになったとき、ファイアブラストを使えるようになる。
俺はいきなり賢者になってしまったから、本来覚えるはずだった下級魔法が使えなくなってしまったのではないか──俺はそう考えていた。
とはいえ魔法のイメージができてさえいれば、今の俺はどんな魔法でも模倣できる。だから下級魔法が使えないところで、大した問題ではなかった。
「と言うことは、ハルト様がこれからもっと強くなるための課題は魔法の重複展開や、発動速度の高速化ですね」
「そうなるかな」
さすがティナだ。
俺が考えていたことをすぐに理解してくれた。
「わかりました! 重複展開の方は魔法剣士である私の領分ですので頼りにしてください。魔法の高速発動は、学園長に相談してみましょう」
「うん、ありがと」
やるべきことが見えてきた。
ティナの表情も晴れている。
どうなるか不安だったけど、ステータス〘固定〙の件をティナに打ち明けて良かった。隠し事がなくなったことで心の中にあったモヤモヤが消え、身体が軽くなった気がする。