シャルルの読心術(2/6)
収穫祭に参加するため、お父様と一緒に王都までやってきた。お父様は他の貴族のところに挨拶に行かなきゃならないらしく、私は数人の護衛を連れて先にお祭りを見てまわることになった。
ちなみにお母様のお腹には赤ちゃんがいてお腹が大きいから、今年の収穫祭には不参加。今はメイドさんたちと、屋敷でゆっくりしてる。
お土産を買ってくるねって言ったらお母様には、『お土産なんかいいからお祭りを楽しんで』って言われた。
とはいえ──
(あー、うぜぇ。さっさと死ねや!)
(はぁはぁ、やっと見つけましたよー。祭りの人混みは厄介ですが、いつもより至近距離で貴方を観察できます。さ、本日もバッチリ貴女の行動をチェックさせていただきますぞ!!)
(ふひひっ、どいつを刺してやろうかな?)
やっぱり王都は『強い心の声』がたくさん聞こえてきて、気分が悪くなる。
誰かに恨みを持ってる人や、ストーカーみたいなやつ。それから、誰でもいいからヒトを殺そうって考えてるやつもいる。
……こんなんじゃ、お祭りを楽しめないよ。
ちなみに隠し持ったナイフで誰かを刺そうとしてた男は、私たちと一緒に王都に来てる護衛さんたちに捕まえてもらって、ここの憲兵さんに引き渡すことにした。
誰かを襲うつもりの悪者がいるのを知ってるのに、なにもしないなんてできない。私は、お父様の娘だから。
ここは王都で、お父様の領地ではないとはいえ、私たち貴族は一般人を守ってあげる義務があるの。まぁ、そんな風には考えない貴族のほうが多いけどね。
ナイフを持った男が私を襲いやすいように、わざとそいつの視界にひとりで入ってやる。そしたら案の定、そいつは私に近づいてきた。
完全に素人だったみたいで、上着のポケットに手を入れながら近づいてきたから、怪しんだ私の護衛さんが男を捕まえてくれたの。
ナイフの男は私にしか意識が向いてなかったから、少し離れた場所にいた屈強な護衛さんたちには気づかなかったみたい。護衛さんたちの心の声を読んで、彼らがナイフの男の視界に入りにくいように私が調整したってのもあるけどね。
そいつがナイフを隠し持ってたのを護衛さんが気づいて、その男を憲兵の所まで連れていってくれた。
なにかしたわけじゃないけど、ナイフを隠し持って伯爵の娘である私に近づいできたのだから、少なくともこのお祭りの間はどこかに拘束されることになると思う。
とりあえず、一番危なそうな奴はなんとかした。
刃物を取り出す前に護衛さんたちが取り押さえてくれたから、そんなに大騒ぎになってない。お祭りは、何事もなかったかのように続いてる。
こうした平和をこっそり守るのも、読心術ってスキルを持った私の役目なんじゃないかって思う。
でも私は、まだまだ弱い。
早く強くなって、護衛さんや他の誰かに頼らなくても、危ない思考を持った奴を止められるようにならなきゃ!
そう思うのだけど、やっぱり王都は強い心の声を持ったヒトが多すぎるよ……。
スキルを完全に使いこなせてないせいで、いくら意識しても心の声を遮断できない。ヒトの負の感情をずっと聞いてるのって、かなりキツい。
もう……限界。
「シャルル、久しぶり」
「カインお兄様!」
ふっ、と周囲の心の声が聞こえなくなった。
それはカインお兄様の心の声がすごく綺麗で、とても力強かったから。
カインお兄様とお話しする時は、どれだけ周りに強い心の声があっても、それが聞こえなくなるの。私がお兄様の声だけ聞きたいって、無意識にそうしてるのもあるのかも。
こーゆー時だけはちゃんと制御できてるあたりが、私のスキルにはまだまだ伸び代があるって思える理由でもあったりする。
「大丈夫か? 顔色が優れないように見えるが……」
(相変わらず俺の妹は可愛いなぁ。でも、なんで体調が悪そうなんだ? なにかあったのか?)
私が可愛いって……。
お兄様はいつも、口でもそう言って褒めてくださるけど、心の中でもそう言ってくれる。それが、すっごく嬉しい!
「実はさっき、ナイフを持った男に襲われそうになりまして……」
「な、なにっ!?」
(よし、そいつは抹殺しよう)
「あっ、あの! その男はもう既に、護衛さんが捕まえてくれていますから、ほんとにもう大丈夫なんです。ただ……怖かったです」
心の声が読めるから、場当たり的にヒトを襲おうって考えた素人の攻撃なんて、今の私の身体能力でも回避できる。
それでもやっぱり、自分が囮になるって言うのは──襲われるかもしれないっていうのは、かなり怖い。
襲ってくる奴を、倒せるだけの力がまだないから。
「そうか……でも、もう大丈夫だ。シャルルが王都にいる間は、俺がお前を守るから」
(絶対に誰にも、俺の妹は傷つけさせない!)
あぁ……。
私を想ってくれるカインお兄様の心の声が、すごく心地いい。心がポカポカするから、私はお兄様との会話が大好き。
王都でお兄様と会ったことはなかった。だから、お兄様の心の声で周りのヒトの心の声が聞こえなくなるなんて知らなかった。
お兄様に会えるからって理由だけで我慢して王都に来たけど、これなら──お兄様の声しか聞こえない状況なら、ホントにお祭りを楽しめそう。
「お兄様、ありがとうございます。それじゃ、お祭りをまわりましょ! 久しぶりなんですから、今日は一日付き合っていただきますからね?」
そう言って私は、お兄様の手を引いて屋台が並ぶお祭りの中心部へと走り出した。
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