表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
325/448

世界樹と、強き者

 

「な、なんだったんだ。アレは……」


「どうやら悪魔が、世界樹のフリをしていたようですね」


 シルフが生まれ変わる時期を狙って、悪魔が世界樹の意思に乗り移ったのだろう。


 ただ悪魔と言えど、創世記から世界に根を張っていた世界樹を、そう簡単には乗っ取れるわけではない。


 だから世界樹の周りに()()()()()()を作り、大地を侵食することで世界樹の力を弱めていたんだと思う。


 俺が森を焼いたことで世界樹の力が戻り、世界樹が自ら悪魔を追い出したんだ。



「いや、それも驚いたが……それより、あの炎だ! あの森を、一瞬で焼き尽くした炎はなんなんだ!? そ、それに、ヒトではありえんほどの膨大な魔力を持っていたり、オリハルコンの塊を斬ったり──エルノール、お前は本当にエルフなのか?」


「まぁまぁ。その辺は、ちょっとした秘密があるのです。コレあげますから説明は、なしでお願いしますよ」


 そう言って俺は、ダイロンに複数の世界樹の実を強引に持たせた。


 俺が世界樹の実を採りに来たってのは嘘だ。

 実なんて、はじめから必要としていない。

 だから全部、ダイロンにあげるんだ。


 たぶんこれで、サイロスは救われるだろう。


 悪魔も無事、消滅させることができた。


 森からも邪神の気配がしていて、なんとなくイライラしていたから、もやし尽くせてスッキリした。


 ちなみにダイロンは、世界樹の実を手に持った状態で固まっていた。


 まぁ、普通は千年に一個しか入手できないはずの世界樹の実が、およそ十個も手に入ったんだから無理ないか。



 俺は世界樹に近寄る。


「実をくれて、ありがとな」


⦅え、えぇ……どういたしまして⦆


 さっきまでの悪魔の世界樹とは違い、優しい声が応えてくれた。


 その声を、俺はどこかで聞いたことのあるような気がする。


 あと、俺に怯えているようだった。


「脅して悪かった。本気で燃やすつもりなんてなかったんだ。許してくれ」


⦅わたしは、あなたが本気で燃やそうとしてるように感じました⦆


「燃やそうとしてたのは、あの悪魔だよ」


⦅あなたも悪魔ではないのですか? わたしには悪魔同士が、仲間割れしていたようにしか見えなかったのですけど……⦆


「え!? ち、ちがうよ!」


 あっ、もしかして俺の身体が、邪神の呪いで作られたやつだからかな?


 なんとなく自分自身も、邪神のオーラを纏ってる気がしていたんだ。


 そうなると世界樹が言ってることも、そんなに間違ってないってことになるな。



⦅まぁ、あなたが違うと言い張るなら、わたしはどうしようもありませんね。あの炎を扱えるあなたの前では、わたしはただの巨大な薪でしかありませんから⦆


 さすがに、それはないだろ。


 俺に話しかけてくれる巨木は、この世界とともに生きてきた世界樹なんだ。


 邪に侵食された森がなくなって、悪魔も消えたんだから、世界樹も自衛手段があるんじゃないかな?


 でもとりあえず、確認してみるか。


「自分の身を護る手段って、ないの?」


⦅あるにはあるのですが……それはまだ幼く、定期的に生まれ変わりをしなければ、成長できない精霊なのです⦆


 たぶんそれは、シルフのことだ。

 彼女は精霊王としてはまだ若い。


 シルフは世界樹の化身って言われてるけど、実は世界樹の子どもみたいな存在なのだろう。


 彼女が俺の屋敷に入り浸ったことで、世界樹の一部が枯れたことがある。


 それって、シルフが長期間戻ってこなかったせいで、寂しくなった世界樹が()()()から起きたことなんだ。



 んー。


 またシルフが寝てる時に、世界樹が悪魔に乗っ取られる可能性があるのは困るな。


 ここで俺は、あるひとつの案を思いついた。


「俺の身体を使わない?」


⦅……はい?⦆


「世界樹の意思が、俺の身体を使って自衛すればいいんだよ。この身体は悪魔が欲しがるくらい強いから、たぶん役に立つよ」


 この世界では『肉体』と『魂』と『意思』がそろってはじめて、そこにヒトが存在できる。


 邪神の呪いで作られたこの身体から俺の意思が消えると、残された肉体も魂も消滅してしまうんだ。


 でも俺の意思の代わりに世界樹の意思が肉体に入れば、この身体は再利用が可能だ。


 俺にはコレ、要らないしな。

 どうせなら活用してほしい。



⦅い、いいのですか?⦆


「うん!」


「お、おい! エルノール、お前は正気なのか!? 世界樹に身体を与えるということは、お前が死ぬということなんだぞ!?」


 ダイロンが世界樹の実を地面に投げ出して、俺に掴みかかってきた。


「もちろん、わかってますよ」


 俺は死にたいんです。

 最後の一回なんですから。


 これでようやく、みんなのところに帰れる。



「お、お前は俺に仕えると約束してくれたではないか! 勝手に死ぬなど、俺は許さんからな!!」


 あぁ……。

 そう言えばそうだったな。


「ねぇ、世界樹。俺の身体に入ったら、ダイロンに仕えてくれない?」


「──なっ!?」


「それから、エルフ族が世界樹の世話をするからさ。エルフを護ってあげて。その代わり世界樹は、俺の身体が護るから」


⦅……いいでしょう。あなたの身体を頂く代償として、わたしはエルフ族を、未来永劫護ると誓います⦆


「あと、ヴィムリス病ってのが流行ってるみたいなんだけど──」


⦅それもなんとかします。全てのエルフが、わたしの実を食べればその病気にも耐性がつくでしょう。エルフ族を護るという、あなたとの約束の範囲内ですから⦆


「そっか、ありがと」


「エルノール、お前……」


「ダイロン。少しの間だったけど、一緒に戦えて良かった」


 覇国を地面から抜いて、ダイロンに渡す。

 彼はそれを、簡単に持つことができた。


 ダイロンも、覇国に認められた──ということだろう。


「こ、これは──」


「それ、すっごい剣なんだ。魔人や悪魔と戦う時に使って。それから、魔王を倒しに行く勇者がダイロンを訪ねてきたら、貸してあげて」


「……わかった。俺が作る国の宝として、大切にしよう。勇者がきたら貸すことを検討するが、俺が認めた者にしか渡さぬぞ?」


「うん。それでいい」


 それから俺には、もうひとつやらなきゃいけないことがある。


「コレを、世界樹の中で大切に保管して。いつか必ず、俺が取りに来るから」


 世界樹に赤く輝く宝石──竜王の瞳を見せながらお願いしてみた。


 竜王の瞳は本来、二個でセットらしいけど、ひとつを祖龍様が、もうひとつを記憶の女神様が持っていたみたい。


 俺は世界樹内部のダンジョンをクラスのみんなと攻略した時に、この竜王の瞳を入手している。


 何千年か後の俺が手に入れてティナにプレゼントするため、コレは世界樹に預けておこう。


⦅いいでしょう。あなたが来るその時まで、このアイテムはわたしが守ります⦆


「うん。よろしく」


 よし。

 これで全部上手くいったな。


 案外、邪神の呪いでこうして過去に来られたのは、良かったのかもしれない。


 まぁ、それでも殴るけどな。



⦅それでは、あなたの身体をもらいますね⦆


「……うん」


 世界樹がら光の触手が伸びてきて、俺の身体を包み込みはじめた。



⦅最後に──⦆


「なに?」


⦅エルノール。あなたの名前を、私が頂いていいでしょうか?⦆


「それはなしで!」


 なんか、違う気がした。


 エルノールじゃなくて、俺の身体にはもっといい名前があると思ったんだ。


⦅そ、そうですか……では、とても強い身体と心を持ったあなたに倣い、私は──⦆




サリオン(強き者)と、名乗りましょう⦆


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


本作『レベル1の最強賢者』は──

書籍1~8巻、漫画1~5巻
好評発売中!!!

下の各画像から公式サイトに繋がります。



i467546
書籍1巻
i467547
書籍2巻
i463555
書籍3巻
i506684
書籍4巻
i551602
書籍5巻
i598585
書籍6巻
i1005000
書籍7巻
i1005001
書籍8巻
i478523
漫画1巻
i528961
漫画2巻
i598587
漫画3巻
i1005003
漫画4巻

i1005004
漫画5巻

Twitter でも色々と情報公開中!
#レベル1の最強賢者 で検索してね

i683693
― 新着の感想 ―
[一言] サリオンてだれだっけ
[一言] 執事が使い捨てキャラじゃなかった…だと?
[良い点] 伏線回収がハンパねぇ〜
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ