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勇者と人族の国

 

「テト、こっちでいいの?」


「うん!」


 アカリはテトの案内に従い、森の中を歩いている。


 女神の指示通り、まずは近くにあるという人族の国に行ってみることにしたのだ。


 整備された道などなく、普通の少女にはかなり厳しい移動だったのだが、女神から様々なスキルをもらったアカリにとって、まったく苦ではなかった。



 しばらく歩いて、森を抜けた。


 アカリとテトの眼前に、見晴らしの良い草原が広がっている。


 さらにその先に、大きな都市が見えた。

 都市の周りは、高い壁でぐるっと囲われていた。


 アカリが元の世界のアニメや漫画で見た、異世界の都市そのものの姿だった。


「すごい……異世界っぽい!」


 アカリがもといた世界でも、似たような都市が中世から残っている国もあるのだが、海外旅行に行ったことのない彼女にとって目の前の都市は、ここが異世界であると彼女に認識させるのに十分な外観をしていた。


「そういえば私、身分証とか持ってないや……」


 兄が読んでいたラノベを、アカリもこっそり読んでいた。


 そのラノベには異世界に転生した主人公が、まず近くにあった街に入ろうとして衛兵に止められるという場面が描写されていた。


「衛兵さんは──っと」


 アカリは眼を凝らして、都市を囲う壁の一部に設けられた門を見る。


「……いる、よね。そりゃそうだよね」


 普通の人族であれば視認できる距離ではないのだが、アカリには衛兵の表情や、衛兵が身に着けている装備の模様までハッキリ見えていた。


 彼女は無意識に、スキル<神眼>を使っていたのだ。


 この<神眼>、眼に関することであれば、なんでもできてしまう。


 遠方を見通す<千里眼>。

 相手の思考を読む<心眼>。

 障害物の向こう側を見る<透視>。

 少し先の未来を見る<未来視>。

 過去に起きたことを見る<過去視>。


 一瞬だが、時を止められる<魔眼>などのスキルが使用可能だ。


 ちなみにアカリの<魔眼>は、聖騎士のシンが持っているスキルの上位互換で、時を止めるのに寿命を削る必要はない。


 さらに、その眼を見たものを支配下におく<魅了>や、強制的に『恐怖』状態にさせる<威圧>といったサブスキルも内包している。


 とある賢者がこの世界にいなければ、アカリは<神眼>だけで、この世界を支配できる力を持っていた。


「テト、どうしよう?」


 スキル(神眼)で衛兵を洗脳したり、時を止めてその間に都市に入り込むなど、やりようはいくらでもあるのだが、自身のスキルを把握できていない彼女は、どうやって都市に入るか悩んでいた。


「アカリなら、だいじょうぶだよ。めがみさまからもらったスキルがあるから」


 テトはこのまま進めとアカリに促す。


「で、でも私、スキルの使いかたなんてわからないよ……」


「アカリがこうしたい──って、ねがえばいいんだよ」


 現にそうして彼女は、無意識に千里眼を使っている。


「もしダメでも、テトがなんとかする。テトをしんじて!」


「う、うん。わかった……それじゃ、いくね」


 自分のスキルには自信がないが、神の一柱であるテトがなんとかしてくれるというので、アカリは都市に向かって歩き始めた。



「ん? お嬢ちゃん、ひとりか?」


 衛兵のひとりが、門のそばまでやってきたアカリに気づき、声をかけてきた。


「は、はい。ひとり、です」


 アカリはもとの世界で、帯剣している兵士など見たことない。


 スキルのおかげで恐怖は感じないが、不安は少しあった。


 テトを抱く手に力が入る。


「私、ここに入りたいです!」

「おう。いいぞ」


「……えっ?」


 アカリが衛兵の目をまっすぐ見て、都市に入りたいと伝えたところ、それはすんなり許可された。


 この国の一般的な街や町では身分証明など不要だが、ここは王都であり、本来であれば住人であっても出入りには身分を示せるものが必要だ。


 それをアカリは、ノーチェックで通過できてしまった。


 本人の意思とは無関係に<魅了>が発動していたからだ。


「王都滞在中に、困ったことがあればいつでも頼ってくれ」


「わ、わかりました。ありがとうございます!」


 スキルで魅了されているから衛兵はアカリに親切にしてくれるのだが、そんなスキルを使用した自覚のない彼女は、それが衛兵の優しさによるものだと勘違いしていた。


「あの……さっそく質問しても、いいですか?」


「なんだ? なんでも聞いてくれ。ちなみに俺には妻がいるから、『付き合ってください』ってのはダメだぞ」


 そう言って衛兵は、豪快に笑う。


「ち、違います! 身分証を作りたいのですけど、どうすればいいか教えてほしいんです」


「身分証か……この王都に住むなら、住民登録証がもらえる。しかし、新たにここで住もうとすると審査が必要になるんだが──お嬢ちゃん、両親は?」


「い、いません……」


 アカリがこちらの世界に転生した際、女神がこちらの世界に肉体を作った。貴族の三男の肉体に転生したハルトとは違い、こっちに両親はいなかったのだ。


「そうなると、厳しいな」


「住民登録証以外ではなにかないんですか? 例えば……ギルドカードとか」


 アカリが読んだラノベには、ギルドカードが身分証になるというストーリーもあった。


「もちろんギルドカードも、王都の出入りに使える身分証になるが……お嬢ちゃん、歳はいくつだ?」


「今年、十五歳になりました」


 アカリが答えたそれはもとの世界での年齢であり、今の実際の年齢はわからなかったのだが、転生してもあまり体形が変わらなかったこともあり、彼女はそう答えた。


「そうか。だったら、ギルドに登録はできる。あぁ、歳をごまかそうとするのは無駄だぞ? ギルドには真偽を見抜く魔具があるから」


「そうなんですか」


「まぁ。それさえクリアしちまえばギルドの登録は簡単だ。お嬢ちゃんなら、生産系ギルドに登録するのがいいかもな」


「生産系……ほかにも、冒険者のギルドとかあるんですか?」


「ある。でも、お嬢ちゃんが登録するなら、生産系ギルドにすべきだ。冒険者ギルドは、粗暴な連中が多い」


「わかりました。色々教えてくれて、ありがとうございました!」


「おう。俺は一日おきにここに立ってるから、なんかあれば声をかけてくれ」


「はい。なにかあったら、衛兵さんを頼らせていただきますね」


 そう言って衛兵に手を振りながら、アカリは門をくぐる。


「お嬢ちゃん、言い忘れてた」


 門を通過したアカリに向かって、衛兵が声をかけた。



「ようこそ、アプリストスへ!」


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