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魔人と炎の騎士

 

 サイド:リューシン


「ぐっ!」

「リューシン」


 リュカがこちらに走ってくる。

 俺は無くなった左手の付け根を押さえて止血を試みていた。


「どうやら人違いだったようだ」


 俺の左手を切り落とした男が、悪びれる様子もなく話しかけてきた。



 ──***──


 少し前まで、俺とリュカは、鋼の森の東側へ向かい、オークやゴブリンマジシャンといったCランクの魔物を順調に倒して回っていた。


 そこへ突然、黒いマントを纏った黒髪金眼の男が現れた。


 空間を切り裂くようにしてその場に現れた男は、いきなり俺に襲い掛かってきたんだ。


 気づいた時には、俺の左腕は男の手刀で切り落とされていた。



「お、お前はなんなんだ!?」


 痛みに耐えながら、男に問いかける。


 ドラゴノイド特有の自動防御スキル、ドラゴンスキンは発動していた。スキルによりドラゴンと同等の防御力を誇る俺の腕を容易く切り落とすなど、並大抵の攻撃力では無い。


「下等種族と会話する趣味はないが……まぁ、我の復活祝いだ。特別に会話に付き合ってやろう。我は魔人ヴァルフ」


 男は自分のことを魔人だと言った。

 魔物や魔族を束ねる存在、それが魔人だ。


 外見は人と変わらないが、内包する魔力がとんでもなかった。


 リュカが俺を守るように前に出た。その身体は魔人の魔力にあてられ、震えていた。


「な、なんで私たちに攻撃してくるの!?」


「懐かしい魔力を感じたものでな。結果人違いだったわけだが、まぁ細かいことは気にするな。ところでヴォルガノ=リューデンという男を知っておるか?」


「……リューデンは俺の父だ」


「なんと! 貴様、リューデンの子であったか。それで、リューデンは息災か?」


「父は、俺が産まれる前に死んだ」


「なんだ、奴め死におったのか。となると貴様は奴の忘れ形見ということか」


 何かに納得した様子の魔人。

 次の瞬間、魔人の姿が消えた。



「──っ!? ぐわぁぁ!」


 右腕が燃えるように熱い。

 見ると血が噴き出していて、俺の右腕が無かった。


 魔人に、右腕を切り落とされた。


「ふむ。リューデンとは違い脆いな、貴様。それでも奴の息子か?」


 魔人は俺の右手をくるくると回して弄びながら、落胆の表情を見せる。


「リ、リザレクション!!」


 リュカが俺に回復魔法をかけてくれた。


 切られた腕の根元から、白い泡が吹き出し、俺の両腕が再生する。


「ぐっ、す、すまない、リュカ」

「ううん。それよりリューシン、逃げよう」


「ほぅ、再生できるのか。だが、我からは逃げられんぞ」


 腕はリュカのおかげで再生したが、この魔人から逃げられるとは思えなかった。


「リューシンと言ったな。貴様に怨みはないが、貴様の父には百年もの間、封印されたのだ。リューデン亡き今、我の苦痛を貴様に返してやることにした」


 ──思い出した。

 里の長から昔聞いた記憶がある。


 昔、魔王の傘下に加わらなかったドラゴノイドの一族を、ひとりの魔人が殺しに来た。


 その魔人は圧倒的な強さで、ドラゴノイドの里の猛者たちを殺戮して回った。


 当時、里で最強だった父が、命を賭してその魔人を封印したという。


 その魔人ヴァルフの封印が解けてしまったようだ。


 目の前に悪意の塊が立っていた。


「貴様は殺す。だが直ぐにではない。生まれてきたことを後悔するほどの苦痛と絶望を味わわせて、ゆっくり殺してやる」


 そう言って魔人は掌をリュカに向けた。

 魔人が何をする気か分かってしまった。


「や、やめろ! リュカ逃げろ!」

「ひっ、──ぐぅ!?」


 リュカの首に見えない何かが張り付き、リュカの首を締め上げる。リュカは(もが)くが、その首を締める何かは外れそうにない。


「くっ! 竜化ぁ!!」


 右手を竜化させ、魔人に殴り掛かる。


 ──が、俺の拳は魔人に届かなかった。


 何をされたのか分からない。

 俺は地面に伏していた。


 立ち上がろうとするが、魔人に頭を踏みつけられ、土に顔を埋めることになった。


「なんだその中途半端なドラゴン化は? 奴の息子だろ? そんなものか」


「りゅ、リューシンにげて」


「まだ、この女の方が胆があるではないか。こういう奴こそ殺しがいがあるのだ」


 魔人が腕を掲げると、無数の黒い杭が空中に現れた。


 鋭い杭の先端が、全てリュカに向く。


「ま、まってくれ、頼む! 殺すのは俺にしてくれ!」


「ふん、待てん。弱い己を怨むが良い」


 黒い杭がリュカに向かって放たれた。


「リュカ!!」




 ジュッ


「なにっ!?」


 杭がリュカに届くことは無かった。


 リュカの前に立ちはだかった炎を纏った騎士によって、全ての杭が燃やし尽くされた。


「なんだアイツは? 魔物、いや、貴様らの魔法か?」


「ぐっ」


 魔人が俺の頭を踏む足に力を入れる。


 ──突然、俺を踏む力が無くなった。



「ぐぶっ!?」


 奇声を上げ、魔人が吹っ飛んでいった。炎の騎士が俺の上の魔人を超高速で殴りつけたのだ。


 炎の騎士が俺を見下ろす。


 た、助けてくれたんだろうか?


 リュカを見ると、地面に座り、こっちを驚いた目で見ていた。首を締めていた何かは無くなったようだ。



「なんなんだ貴様ァ!!」


 復活した魔人が、炎の騎士に殴りかかった。

 炎の騎士がそれに応戦する。


 魔人が炎の騎士を殴る度、その拳は火傷を負う。


 しかし、魔人は超速再生で拳を治し、直ぐに殴り掛かる。


 一方、炎の騎士は、魔人に殴られる度にその鎧を剥がされていった。




「ぜぇぜぇ、はぁ、や、やっと死んだか?」


 数分の戦闘で、魔人は炎の騎士のコアらしきものを抜き取ることに成功した。炎の騎士はコアを抜き取られると、その場に霧散していった。


 魔人は疲労しているものの、俺たちからしたら、その魔力はまだ圧倒的なものだった。


 俺たちでは勝ち目がない。


 炎の騎士が勝ってくれるのを期待していたのだが……


「なんだったんだ、奴は?貴様らの魔法か?いや、そんなことはもうどうでもいい。やはり貴様らは直ぐに殺す」


 絶望が、向かってくる。



 ──が、その歩みはすぐに止まった。


「あっ、あ、あ、あぁぁあ!」


 魔人の顔に絶望が浮かぶ。

 魔人を苦しめた炎の騎士が再び現れたのだ。



 その数を()()に増やして。


「ふ、ふざけるなぁぁあ!!」


 その魔人の叫びを合図に再び戦闘が始まった。


 ──いや、戦闘などではなかった。炎の騎士たちによる、一方的なリンチが行われた。


 数十秒間、絶え間なく繰り出された炎の騎士たちの攻撃によって、魔人はその回復限界を迎えたようだ。


 魔人の黒かった髪が真っ白になり、肌は干からび、目は窪んだ。


 そして、五体の騎士が同時に槍を魔人に突き刺すと、それがとどめとなったようで、魔人はサラサラと砂になって消えていった。


 魔人が消えると、炎の騎士達は俺とリュカを一瞥し、それぞれバラバラの方向へと走り去っていった。



「た、助かった」


「リューシン、大丈夫?」


「リュカこそ、首は平気か?」


 リュカと互いの無事を確かめ合う。


「なんだったんだ、あの騎士は」


「分からない。でも、私たちへの敵意は無かったね」


「あぁ」


 そうだ、それが気になる。


 あの騎士はリュカと俺を守ってくれたように思えて仕方ない。


 ティナ先生の魔法? いや、明らかにティナ先生よりあの騎士の方が魔力が高かった。


 となると、ハルトか?


 ……いや、まさかな。


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