Fランクの依頼
冒険者ギルドに登録して数週間。
俺たちは魔法学園の授業がない日に、Fランクの依頼をこなして、順調にギルドポイントを稼いでいた。
ギルドポイントが一定以上貯まると、昇格試験を受けることができ、それに合格するとひとつ上のランクになれる。
昇格試験は試験官との模擬戦だったり、指定された魔物の討伐だったりする。
ちなみにFランクの依頼で、俺たちがやったのは薬草の採取だけ。駆け出しの冒険者でも受けられる、最も簡単な依頼だ。
強い魔物を倒して、その討伐を証明できればギルドポイントもすぐに貯まるらしい。
でも薬草採取とかの依頼も、誰かに必要とされてるから発注されるんだ。だから俺はFランクでいる期間はできるだけ、他の冒険者が忌避するような依頼を受けることにした。
薬草採取は年中依頼が出されるほど必要とされる依頼だが報酬が安いため、本当に駆け出しの冒険者しか依頼を受けない。
ギルドの所有する薬草の在庫が尽きそうになった時、報酬が上がることがある。その時は初級から中級の冒険者が、薬草採取の依頼を受けることもあるようだ。
冒険者も生きるためにギルドからの依頼をこなしている。だから、報酬が安すぎる薬草採取の依頼をやろうとする者が少ないのも納得できる。
俺は、ティナのおかげでお金に困ってない。
薬草採取は報酬は安いが、ギルドポイントが他の依頼より少し多めに稼げる。
それに──
「ハルトさん、今日も薬草の納品ですか?」
「はい。三袋分、採ってきました」
ギルドの素材買取りカウンターの上に、背負って持ってきた大袋三つを置く。
中身は全て薬草だ。
「さ、三袋も!? 助かります。いつも本当に、ありがとうございます」
受付のお姉さんに、こうして感謝されるのも悪くない。
「それで、その……いつものように申し訳ないのですけど──」
「報酬の件ですよね。いいですよ、いつも通りで」
「すみません。五つのパーティーを取り纏めているハルトさんに、これだけしか渡せなくて……」
受付のお姉さんから、スピナの入った小袋を受け取った。
冒険者はだいたい、四人でひとつのパーティーを組んで依頼を受ける。
だから俺たちも、パーティーを組んだ。
俺、ルナ、キキョウ、シロ
ティナ、メルディ、マイ、メイ
シトリー、リファ、リュカ、シルフ
ヨウコ、白亜、セイラ、エルミア
ルーク、リエル、リューシン、ヒナタ
──こんな感じ。
一番左に名前があるのが、それぞれのパーティーのリーダーってことになってる。
戦力として、同じくらいにしたつもり。
あとは相性とか、夫婦とかカップルとか。
いろいろ考慮して、こうなった。
一応、どのパーティーが魔人や悪魔と遭遇しても、なんとかなると思う。もちろん全員に、俺の分身と炎の騎士を入れたブレスレットを渡してある。
リューシンにブレスレットをあげた時、なぜか号泣していたのが印象的だった。
パーティーを組んだのだから、それぞれ好きに行動してもいいって言ってある。それでも俺がどこかに行く時は、必ず他のパーティーも俺についてくる。
まぁ、ティナとは常に一緒にいるって約束したから仕方ないかな。
ヨウコとシトリーのパーティーも、リーダーの意志とかじゃなく、全員一致で俺についてくる。
ルークのパーティーはたまに別行動をとることもあるけど、俺たちと行動を共にすることがほとんどだった。
俺としてはみんなとワイワイしながら、薬草探してるのとか好きだし、なんか下積みしてるって感じがするから、これでもいいのだけど……。
「ごめん。今回も、報酬はこれだけだった」
ギルドを出たところで待っていたみんなに、受け取った報酬の小袋を見せる。
依頼の受注や報酬の受け取りのために全員でギルドの中に入ると、その度に注目されキキョウの洗脳魔法に頼らなくてはいけなくなる。
だから依頼の受注や報酬の受け取りは全て、俺が代表して行うことになっていた。
「えっ、それだけ……」
「少なっ!」
「あはははっ。マジかよ、ハルト」
報酬の小袋を見たティナは唖然とし、ルークは声を上げ、リューシンは大笑いしていた。
「薬草って、安いですからね」
「ウチらはお金には困ってないから、報酬が安いのは別にいいにゃ。それより──」
「そろそろ魔物倒したいの!」
「白亜の言う通りじゃ」
さすがに数週間、王都のそばの草原で薬草を探し続けていたら、飽きてきたメンバーもいる。
報酬が少なすぎるってのも、モチベーションの維持には繋がらない。
だから今回は、少し違う依頼も受けてきた。
「ちょっと王都から離れた所にある村が、ゴブリンの被害にあってるらしい」
「おっ、それの討伐行くのか?」
リューシンが興味をもった。
ゴブリンはEランクの魔物で、本来はFランクの俺たちに回される依頼ではない。
しかし、俺たち全員の装備がしっかりしているのを見た受付のお姉さんが、五つのパーティーで挑むのであれば問題ないと判断し、依頼を受けさせてくれた。
特にエルミアとか、歴戦の戦士って感じの格好してるもんな。着てるのはヒヒイロカネの鎧だし、武器は創造神様の祝福を受けた聖剣だ。
そんな彼女ももちろん、ギルドカードの上では俺と同じFランクの冒険者。
「まだ家畜が襲われたり、農作物が荒らされるくらいの被害らしい。でも放っておくと今後、被害は増えると思う」
ゴブリンは数体集まった程度では、直接ヒトに危害を加えない。
他所から来た者と合流したり、繁殖したりして十体を超える群れになると、山に入ったヒトを襲い始める。
そしてそこから、爆発的に数を増やす。
百体を超える群れになれば、巣穴から飛び出し、周辺のヒトの村や町に攻め入るようにもなっていく。
この世界では、ゴブリンに滅ぼされた村や町がいくつもあるのだ。
一体一体は弱いが、数が集まれば決して油断できない──それがゴブリンという魔物。
「みんなで薬草集めるのも割と楽しかったけど、俺はそろそろ戦いたい」
「うむ。我も薬草の匂いを辿るのは飽きてきたところだ」
「ゴブリンか。この鎧には不釣り合いだが……まぁ、剣を振れるのならなんでもいい」
ルークとシロ、エルミアはゴブリン討伐に乗り気な様子。
「この数週間で、かなり薬草を納品しましたからね。王都のギルドと言え、当面は薬草が不足することはないでしょう」
「ティナ様の言う通りですね。私もそろそろ別の依頼がやりたかったです」
ティナは、薬草採取の依頼を受けることの重要性を理解してくれた。H&T商会で薬草の安定供給のために薬草の栽培をやろうとしているのだが、どうしても上手くいかないらしい。
だから冒険者に薬草採取の依頼がくるんだ。
とはいえリファの言うように、さすがに飽きたというのも頷ける。
「今更だけど、ノーム呼んで薬草を生やし──むぐぅ!?」
なんかシルフが、俺たちの数週間の行動を全て無駄だったと結論付けるような発言をしようとしていたので、とりあえず口を塞いでおいた。
そっか。ノーム、お前。
薬草も生やせるのか……。
今後、どこかで薬草が足りてないって噂を聞いたら、ノームに協力してもらうことにしよう。
「それじゃ、ゴブリン討伐にしゅっぱーつ!」
「むぐぐっ、むー!」
俺はシルフの口を押さえたまま抱きかかえ、ゴブリンの被害にあっているという村のそばに繋がる転移魔法陣の中に足を踏み入れた。