サプライズパーティー
「ティナ様、お誕生日おめでとうございます!」
「「「おめでとーございます!!」」」
リファの声に続いて、エルノール家のみんながティナを祝う声をかける。
ここに集まったのは、うちの家族だけじゃない。
「ティナ、おめでと」
「ヒトの誕生日を祝うのは初めてだ」
「イフリート、わしもじゃよ」
ウンディーネ、イフリート、ノームも来てくれた。
シルフが呼んだんだ。
ちなみにシルフは既に、エルノール家の一員としてカウントされている。
四大精霊王がそろっているので、もちろん──
「ティナ、おめでとう」
マイとメイの父親、星霊王も来ている。
「ティナ様、おめでとっす!」
「おお、おめでとう、ございます」
聖都サンクタムから、聖騎士のシンさんと、ヤン伯爵が来てくれた。
ヤンはもともと子爵だったけど、サンクタムの統括者になったので伯爵になったみたい。
なんかよくわからないけど、このパーティーにシンさんを呼んだ方がいい気がして、エルミアを通して誘ってもらったんだ。ヤン伯爵はそのついで。
それから、この人たちもティナのお祝いに駆けつけてくれた。
「ティナー! おめでとー!!」
「「おめでと、ティナ」」
俺の姉のシャルルと、兄のカインとレオンだ。
「サプライズパーティーと聞いて」
「私たちも来たぞ」
グレンデール王とエルフ王も来てくれた。
正直、この人たちは呼んでない。
グレンデール王は、カインを誘ったらついてきた。
パーティーの準備ができるまで、ティナをアルヘイムで引き留める役割をサリオンに協力してもらっていた。そこからサプライズパーティーのことがエルフ王にバレて、『私がハルトの屋敷にいたらティナも驚くはずだ!』と言って強引に俺の転移に割り込んできた。
ちなみにエルフ王は、俺の屋敷でくつろいでいたシルフを見て、声も出せなくなるほど驚いていた。
「ティナ様、おめでとうございます」
当然ながら、サリオンもここにいる。
「ハルト様、こ、これは──」
ティナが驚いてる。
作戦成功かな?
今日、彼女の誕生日だと気づいている素振りを一切見せないようにしていた。
誕生日のことを、完全にわすれているふりをしたんだ。
もちろん、俺がティナの誕生日を忘れるわけがない。
これまでもティナの誕生日を祝ってきたけど、彼女はいつも『あっ、今日、私の誕生日でしたね』って、自分の誕生日に興味がなさそうだった。ハーフだと言っても、ティナは千年以上の時を生きるエルフの血を引いている。だから、誕生日とかの興味が薄れちゃうみたい。
なんだかんだで、お祝いされるのは嬉しそうだったからいいのだけど、せっかくの誕生日なのだからもっと楽しんでほしい。
だから今年は、サプライズパーティーにしてみたんだ。
少しでも、ティナの記憶に残る日にしたかったから。
「今日はティナの誕生日だよ。みんなティナのお祝いに集まってくれたの」
「う、うそ……忘れていたわけじゃ」
忘れていた?
あれ? 今年はちゃんと、自分の誕生日って気づいてたのかな?
「忘れるわけないじゃん。俺の大事な人の生まれた日なんだか──」
言葉の途中で、ティナが抱き着いてきた。
ちょっと涙目だった気がする。
「……ティナ?」
「わ、私、今年はもう、お誕生日をお祝いしてもらえないのかと」
ティナが泣いている。
えーっと……。
もしかして、毎年誕生日を気にしてないふりをしてた感じ?
「いつも強がってごめんなさい。毎年、ハルト様にお祝いしてもらうのが楽しみで仕方なかったんです。誕生日が近づいてくると、楽しみすぎてお仕事が手につかなくて……」
あぁ、そうなんだ。
だからか。
「ごめんな。ティナも、楽しみにしてくれてたんだな」
サプライズパーティーなんかにしないほうが良かった。
特にサリオンには、嫌な役回りをやらせてしまった。
生まれた時からティナの世話をしてきたサリオンが、彼女の誕生日を忘れるわけがない。
それなのに今日、サリオンには誕生日のことをティナに話さないようにしてもらったんだ。
ティナが自分の誕生日を覚えていたなら、きっと今日のサリオンに、いい感情を持たないはず。
ティナを抱きしめながら、ちょうど俺の前にいたサリオンに謝るポーズをする。
彼は笑顔で手をあげながら、声を出さずに『大丈夫です』と言ってくれた。
──***──
少ししてティナが泣き止んだので、改めて誕生日のお祝いをスタートした。
みんなの前で泣いてしまったので、ティナは恥ずかしそうにしていたが、みんなが普段と変わらないように接してくれたので、彼女もすぐにパーティーを楽しみだした。
ひとつ残念なことがあるとすれば、ティナが主役のパーティだと彼女の手料理がないってことだ。
他の妻たちには悪いが、やっぱりティナの料理が一番おいしい。
「そうか……予想はしておったが、今回もティナの料理は食えんのか」
星霊王がそう呟いていた。
彼が前回こちらの世界で食事をとったのは、俺とティナ、リファの結婚披露宴の時。
あの時もティナが主役のひとりだったので、彼女は料理をつくらなかった。
たぶん、マイとメイからティナの料理の話を聞いて、楽しみにしていたんじゃないかな。
シルフ以外の精霊王たちも、ティナの手料理を楽しみにしていたみたい。
全員があからさまに落ち込んでいた。
また今度、ティナが料理当番の時に召喚してあげるって約束したら、みんな元気になった。
「ティナ、これは我からの誕生日プレゼントだ。これと引き換え──というわけではないが、次回ハルトが我を召喚してくれた時は、飯を頼む」
「「お、お父様、それは──!?」」
なんか光る手のひらサイズの石を星霊王がティナに手渡していたけど、それを見たマイとメイが驚いていた。
なんだろう?
マイたちはアレがなにか知っているみたいなので、後で聞いてみよう。
「星霊王様があんなものを渡した後だと恐縮なのだけど……」
ウンディーネは液体の入った小瓶。
イフリートが火のともったランプ。
ノームが白い花束を、ティナにプレゼントした。
それらすべてから、とてつもないエネルギーを感じた。
一番ヤバそうなのは星霊王がくれた光る石だけど。
なんだろう、詳細や用途を聞くのがちょっと怖い。
精霊界とかに隔離して保管しておくべきアイテムだと、俺の直感が告げている。
受け取ったティナが困っていたので、俺が預かることにした。
直感に従い、精霊界に保管しておく。
その後、俺の屋敷に集まったみんなが、ティナにプレゼントを渡していった。
最後は俺の番。
「ティナ、俺からは──」
「ハルト様でお願いします!」
えっ。
「誕生日プレゼントで、私はハルト様がほしいです!」
「……結婚してるんだし、俺は既にティナのだけど」
「明日一日でいいです。今日、すごく寂しかったので、明日は私だけのハルト様でいてください!」
あー、そういうことね。
理解した俺は、用意していたプレゼントをポケットに戻した。
ティナにあげる予定だったのは、俺の魔法を封印した『竜王の瞳』という宝石。
魔法学園に入学してすぐの授業で、俺が壊してしまったティナの思い出の品を修理したものだ。
これは明日、いい雰囲気になった時に渡すことにしよう。
「わかった。明日は一日、ずっとティナと過ごすよ」