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元聖女のお仕事

 

「わたし、この学園の救護職員として働いているのですけど……ハルト様、ご存知なかったのですか?」


「う、うん。ごめん」


 全く知らなかった。


 平日、俺たちはティナの授業を受けているから、日中はほとんど屋敷にいない。


 その間、セイラやエルミア、白亜、キキョウ、シトリーがなにをやっているのか全く把握していなかった。


 そもそも──


「救護室って、どこにあるの?」


 俺は怪我をしたことがないから、救護室を使ったことがない。


 それにウチのクラスで誰かが怪我をしたとしても、ティナやリュカ、俺がその場で治癒できてしまう。


 だから、救護室の場所すら知らなかった。


「救護所は学園のあちこちにありますが……私が勤めているのは、一の壁内側の第五救護所というところです」


 この学園には救護室ではなく、まるで病院のようなひとつの建物になっている救護所が、多数あるらしい。


 ひとつの壁の中に、第五とかまであるのか……。

 やっぱりこの学園、すごいな。


「セイラが働いてるのに、それを把握してなくてごめんね」


「いえ、それは大丈夫です。わたしこそ、ハルト様にちゃんとお伝えせずに働いてしまって、すみません」


 ちなみに、お金に困っているから働いているわけではないようだ。


 セイラは聖女の時の給金にほとんど手をつけていなかったようで、貯金がたくさんある。しかも俺の屋敷に住んでいる彼女は、家賃や食費などが必要ない。


 働いているのは、暇だったから。


 二百年も聖女として働き続けてきたのだから、最初はゆっくりしようと思ったらしい。


 しかし、二日も俺の屋敷でゴロゴロしていたら、無性に仕事をしたくなってきた。


 二百年も仕事を続けてきて、身体に染み付いた習慣は、簡単に抜けるものではなかった。


 それでティナに相談して、怪我をした生徒や教師の治療を行う職に就いたのだという。



「あの、ハルト様。もしよろしければ、わたしの職場に遊びに来ていただけませんか?」


「第五救護所に? いいよ。俺もセイラが働いてるとこ、見てみたい」


「ありがとうございます! それでは、お待ちしておりますね」


 そう言って、セイラは歩いていった。


 ちなみに今日、本当なら授業がある日だ。


 だけど俺たちは先週、課外活動で一週間休みなく行動していたので、今日は振替休日で授業はない。


 ティナに呼ばれていたので、その用事を済ませたら、セイラの職場を見に行こうと思う。



 ──***──


 セイラの職場である第五救護所の場所を調べて、約束通りにやってきたのだけど──


「うわ、マジか……」


 救護所の前に、三十人くらいが列を成していた。


 生徒だけじゃなく、教師まで並んでいる。


 血を流してる生徒も数人いた。

 そのうちのひとりは、かなりヤバそうな顔色をしている。


 俺がヒールかけてあげた方が、いいんじゃないかな?


 ──そう思うレベルだった。


 回復系の白魔法使いは世界的に見てもそんなに人数がいない。ここが魔法学園だとはいえ、全てのクラスに治癒魔法が使える先生や生徒がいるわけではないんだ。


 かといって、流血したまま救護所まで来るのはどうかと思う。


 止血して、回復薬とかでとりあえず傷を塞ぎ、それから救護所まで来て完全に回復してもらうべきなのではないだろうか?


「あの、大丈夫ですか? 良ければ俺が、ヒールかけますよ」


 今にも倒れそうな男子生徒に声をかける。


「……ほっとけ。回復なんて、すんじゃねぇ」


 とても不機嫌そうに断られてしまった。


 ちょっと意味がわからない。

 善意で回復させようとしただけなのに……。


 その時、救護所に並ぶ列の前の方が騒がしくなった。


「あっ、セイラ先生!」


 顔色の悪かった男子生徒が、急に元気になった。


 彼の視線の先を見ると、白衣に身を包んだセイラが、コチラに向かって歩いてきていた。


 普段見ない白衣姿のセイラは、凛としていて、とても綺麗だった。



「セイラ先生、今日も……美しい」

「先生、怪我しちゃいました。回復、お願いします」

「お、俺も! ヒールかけてください!!」

「私もお願いします!」

「あぁ、セイラ様。なんてお綺麗な……」


 セイラが前を通ると、列に並んでいる生徒や教師が、彼女に声をかける。


 ちなみに列に並んでいるのは男だけじゃなく、女子生徒も何人かいた。


 男子生徒も女子生徒も、セイラが前を通るとなぜか顔を赤く染めている。


 生徒たちの声に笑顔で応えながら、セイラは真っ直ぐ俺の所までやってきた。


「セ、セイラ先生が、俺のところに!?」


 俺のすぐ隣にいる顔色の悪かった男子生徒は、セイラが近付いてきたことにテンションが上がっているようだ。


「あの、セイラ先生……俺、また──」




「ハルト様、本当に来てくださったのですね!」


 そう言いながら、セイラが俺に抱きついた。


「「「「──えっ?」」」」


 列に並んでいた全員から、同時に声が上がる。


 そして、俺に突き刺さる厳しい視線。


「おっ、おい、セイラ」

「ハルト様の魔力が近付いてくるのを感じて、待っていられず、出てきてしまいました!」


 俺に向けられた視線など気にもとめず、セイラは俺の身体に回した手にギュっと力を込めてきた。



「ふぅ……ハルト様、こちらへどうぞ」


 少しハグして、満足したらしいセイラが、俺の手を引き救護所の方へとつれていこうとする。


「セイラ先生!? なんでそいつをつれていくんですか? お、俺も、怪我して──」


「あら、()()君ですか……もう、仕方ないですね」


 セイラが魔力を放出した。


「ディバインブレス!」


 回復の息吹が、救護所付近に優しく流れた。

 列を成していた全員の怪我が、完全に回復していく。


 最上位の回復魔法を、セイラが行使したんだ。


「はい、これで皆さん元気になりましたね! 今日はこれ以降、第五救護所は閉鎖しますから、もし怪我しちゃったら他の救護所に行ってくださいねー」


「そ、そんな……そいつは、セイラ先生のなんなんですか!?」


「ハルト様のことですか? そうですね──」


 俺の手を離したセイラが、今度は腕に抱きついてくる。


「わたしの、旦那様です!」


 笑顔で、そう宣言した。


「なっ!?」

「そ、そんな……」

「うそ、だろ?」


 セイラの発言で、そこにいた全員に絶望がひろがっていく。


 何人かはその場に、膝から崩れ落ちた。


「さ、ハルト様。いきましょ!」


「う、うん」


 怨みや妬みといった視線を浴びながら、俺はセイラに手を引かれ、救護所の中へと入っていった。



 ──***──


「あんな感じの対応で良かったの? 救護所もお休みにしちゃって……」


「ハルト様が来てくださったのですから、その()()に全力を尽くすため、救護所を閉めるのは問題ないです。きっと、学園長先生も認めてくださいますよ」


 なんか、意味のわからない単語が聞こえた気がする。


「俺は、どこも悪くないよ?」


「では、どうして救護所にきたのですか?」


「えっ、それは……セイラに呼ばれたから」


「そうでしたっけ? でも、せっかく来ていただいたのですから、本当に治療が不要か検査しますね。ベッドに寝てください、ハルト様」


 イタズラっぽい笑みを浮かべながら、セイラが俺を救護所に設置されたベッドへと案内する。


 とりあえずセイラの指示に従った。


 ベッドの上に横になる。

 枕が、すごく硬かった。


 元の世界では怪我や病気で、病院のベッドで寝ることがあった。その時と同じように、こちらの世界の救護所の枕も硬かった。


 病院とか医務室の枕って、なんでこんなに硬いんだろうな?


 そんなことを考えながら、セイラを待つ。


 なにやら動き回っているので、もう少し時間がかかりそうだ。


 目を閉じて、ゆっくり彼女を待つことにした。



 少しして、セイラに声をかけられた。


「ハルト様、ちょっと頭を上げてください」


「ん、これでいい?」


「はい、ありがとうございます」


 頭を上げると枕が引き抜かれ、代わりに枕より柔らかいなにかが差し込まれた。


 おぉ!

 これは柔らかくて、気持ちいいな。


「寝心地は、いかがですか?」


「うん、いいね。これ」


 ──あれ?


 なんか、セイラの声が近い。


 目を開けると、セイラが俺の顔を覗き込んでいた。


「えっと、ハルト様の診断結果ですが……寝不足です。ですから、このままお昼寝してください」


 そう言われた。

 セイラが、少し頬を紅潮させている。


 ああ……そういうことか。


 柔らかい枕の正体に気づいた。


 コレは──



 セイラの太ももだ。

 しかも、生足。


 俺は今、セイラに膝枕してもらっているんだ。


「……重くない?」


「大丈夫です」


 問題ないらしい。


「じゃあ、せっかくだから少しだけ寝させて」


「はい。おやすみなさい、ハルト様」


「おやすみ、セイラ」


 柔らかくて、すべすべなセイラ(救護職員さん)の生足を堪能しながら、俺は意識を手放した。


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