リューシンの庇護
ヒナタをつれて、彼女の村まで飛んできた。
およそ二百人が住む規模の村だ。
その村の中心にある広場に四体の影竜がいて、その付近に住人たちが集まっていた。
「お、おい! お越しになられたぞ」
「リューシン様だ!!」
上空にいる俺に気付いた住人たちから、声が上がる。
俺は、影竜たちから少し離れた場所に着地した。
着地して、ヒナタを降ろしていると、俺の前に住人たちがやってきた。
「我らの村をお救いいただき、誠にありがとうございました」
村の長っぽい人族が俺の前に膝をつくと、それに倣うように集まっていた全員が膝をつき、頭を下げた。
俺は黒竜の姿なのだが、住人たちは俺を見てもあまり怖がっていないようだ。
この村にはずっと邪竜の眷属がいたのだから、竜の姿には慣れているのだろうか?
「主よ、邪竜の眷属は全て倒しました。我らが来た時は少し暴れておりましたが、村の住人に死者はおりません」
「そうか、よくやってくれた。ありがと」
「勿体ないお言葉」
そう言いながら、影竜のリーダーは俺の影の中に消えていった。
影竜と俺の影が触れた時、その思念が俺に流れ込んできた。
俺が邪竜を倒し村を救ったのだと、住人たちに説明してくれたようだ。
「そ、それで、生贄の件ですが──」
「ん?」
生贄?
邪竜を倒したのに、なんで生贄が必要なんだ?
「私どもとしては、そ、その……ヒナタを差し出すことを、拒否するつもりはありません」
──は?
ヒナタを、生贄に?
な、なんでだ!?
「おい、それはどういう意味だ?」
「──ひッ!?」
あっ、やべっ!
村長が、ヒナタを生贄に出すとか言うから、つい殺気が漏れてしまった。
黒竜の殺気を受けた村長の身体が、尋常ではないほどガクガク震えていた。
ちょっと申し訳なく思う。
……でも、仕方ないだろ?
俺が邪竜から助けたヒナタを、生贄にするなんて、許せるわけがない。
「「リューシン様! どうか、お怒りをお鎮めください!!」」
村長の周りにいた老人たちが、すごい勢いで頭を下げている。
「あー、ごめん。ちょっと殺気が漏れた。そこまで怒ってるわけじゃないんだけど……」
「い、生贄の娘が、お気に召しませんでしたか?」
いいわけないだろ!
俺が、ついさっき助けたばっかりなんだぞ!?
それに、こんなに可愛いヒナタを、生贄になんてさせてたまるか!!
──ん?
あれ?
ちょっと、まてよ。
「……なぁ」
「は、はい。なんでしょうか?」
「ヒナタを生贄に──って、誰への生贄なんだ?」
「えっ」
「そ、それはもちろん──」
「リューシン様への、生贄でございます」
「…………」
あぁ、そーゆーこと。
盛大に勘違いしてた。
……え?
な、なんで、そんなことになってるんだ?
『主がこの娘を気に入っていたようでしたので、この村を助けた報酬として娘を差し出すよう、村の住人に交渉いたしました』
影竜の思念が伝わってきた。
どうやら、勝手なことをしてくれたらしい。
てか、交渉したんだよな?
きょ、脅迫じゃ、ないよな?
『この村を支配していた邪竜は、我が主、リューシン様が倒した。その邪竜よりお強いリューシン様が、邪竜への生贄だった娘をご所望である──そう、説明いたしました』
うおぉぉいぃぃぃぃ!
なにやってんのぉぉぉぉおお!?
絶対それ、交渉じゃないから!
アレじゃん。
俺、完全に悪役じゃね!?
「あー、ごめん。別に生贄とか求めてないから。てゆーか俺、ドラゴンじゃないし……」
魔物じゃないから、ヒトを喰ったりしない。
「生贄は不要? ひとりでは、足りないと──ま、まさか、この村を滅ぼすおつもりですか!?」
そ、そんなつもりはない!
早とちりしないでほしい。
「ひ、ひぃぃ!」
「ダメだ。俺たちもう、お、終わりだ……」
「とーちゃん、こわいよぉ」
「し、静かにしなさい。リューシン様の気に障るだろ!」
「どうか、どうか娘だけは、お助けください」
村全体に、恐怖がすごい勢いで伝播していった。
ヤバい……。
こんなはずじゃなかった。
アルヘイムを救ったハルトのように──とまではいかないけど、俺はヒナタの村を救って、みんなに感謝してほしかっただけなのに……。
恐怖で村を支配したいわけじゃない。
「リューシン様、私が貴方のモノになります。ですから村のみんなを、赦していただけませんでしょうか?」
ヒナタも俺の前に土下座した。
違う、違う違う、ちがーう!
俺はヒナタと、デートを楽しみたいだけだ。
俺のモノになってほしいとか、思ってない!
ど、どうすればいいんだ?
俺はいったい、どうするのが正解なんだ?
こんな時、ハルトなら──
はっ!
そ、そうか!
ハルトだ。
アイツがやるようにやればいいんだ。
「生贄はいらない。だけど、俺はここの村を守ってやるよ。その代わり、頼みたいことがある」
この村は長い間、邪竜に支配されていた。
俺が生贄を不要だと言ってこの村から離れたとしても、住人たちは俺の影に脅えて過ごすことになるだろう。
だから支配ではなく、守護してやることにした。
その代償に──
「ひと月に一回くらい、ここに来るから飯を食わせてくれ。その時、できればヒナタがそばにいてくれると嬉しい。俺の眷属から聞いたと思うけど、俺は彼女を気に入ってるから」
くっそ恥ずかしい。
でも、言ってやったぞ!
ちょっと、ハルトっぽくなかった?
アイツ、こんな恥ずかしいことを何度もやってるんだから、すごいと思う。
「そ、それだけでよろしいのですか?」
「あぁ。今日からこの村は、俺の庇護下に入れる。ヒナタ、ご飯の件……大丈夫?」
「は、はい。その、私なんかで、よければ……」
照れてるヒナタは、可愛いなぁ。
住人のために、生贄になろうとした健気さも、俺の庇護欲を掻き立てる。
新たな楽しみができた。
そのうち、ヒナタと村の外にデートも行きたいな。




