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リューシンと生け贄の女の子

 

「ン……おまえ゛、竜か? オレとおナじ、ニオい、すル」


 邪竜に話しかけられた。

 堕ちた竜ではあるが、ある程度の知能は残っているらしい。


「……俺はリューシン。竜人族だ」


「あ゛あ゛、ゴミの種族か」


 ちょっとイラッとした。

 色竜や属性竜の中には、竜人族を見下すヤツらがいる。


 邪竜は元属性竜で、俺は色竜である黒竜になれる。


 つまり、俺の方が格上の存在だ。


 ただ、色竜に竜化できる竜人族なんて、滅多に生まれない。だから邪竜が、竜人族である俺を格下だと思っても仕方ない。


 邪竜になると知能が低下する代わりにかなり強くなると聞いたことがあるが、目の前にいるコイツは、俺からしたら全然たいしたことなさそうに思える。



 ──いや、ダメだな。


 相手を格下だと見下したら、コイツと同レベルになってしまう。


 それに俺は、嫌というほど学んだはずだろ?


 己の力を過信するのは良くないってことを。



 敵の見た目が弱そうでも、油断はダメだ。

 秘めた力がなさそうでも、相手が俺の能力を欺いている可能性だってある。


 俺は、自分のクラスにいる人畜無害そうな見た目をしたバケモノに、その教訓を体の髄まで叩き込まれた。


 だから、油断はしない。


 そもそも俺は、邪竜を倒しに来たわけじゃない。


 邪竜も、俺を襲うつもりはなさそうだ。


「まぁ゛、オなじ竜の一族ダ。そレに、ぎょうは気分がイ゛イ。歓迎シヨう。ついでコい」


 邪竜が、住処である洞窟の奥へと入っていく。


 俺は、ヤツが邪竜になる前に生み出した宝石などが落ちていることを期待して、後をついていった。


 宝石が落ちていなかったとしても、もしかしたら、邪竜になった今でも宝石を生み出す力が残っているかもしれない。


 邪竜と交渉してみる価値はあると思った。


 しかし俺はすぐに、この判断を後悔することになる。



 最悪な光景が広がっていたからだ。


「──こ、これは!?」


 洞窟の最深部には、ヒトの骨が山のように積まれていた。恐らく全て人族の骨だ。


 見える分だけでも、その数は百人分を軽く超えていた。


 酷い腐敗臭がする。



「おまえ゛、ソの様子だど、ヒトを喰っだことない゛な?」


「あ、あるわけないだろ!!」


 吐き気をこらえる俺を見下ろす邪竜が、気持ち悪い笑みを浮かべながら話しかけてきた。


 竜人族は人族と同じ食事をとる。


 竜族は空気中から魔力を取り込めるので、食事を取らない竜も多い。


 ただ、竜は魔物だから、中にはヒトを襲うヤツもいる。それでも好き好んでヒトを喰うヤツは少ない。


 基本的に、竜族は怠惰な種族だ。


 ずっと寝ているだけでも生きていられるので、わざわざ食事のために動く必要がない。


 でもコイツ(邪竜)は、ヒトを喰うために、ヒトを襲っているはず。


 それがコイツを襲ってきた冒険者なら、まだ理解はできる。


 生きるため──自分を殺しに来た相手を返り討ちにして、それを喰っているのなら、俺がとやかく言える問題ではない。


 しかし──



「ぐぐぐっ、こん゛カいの生け贄は、アダりだ」


 邪竜が、地面に倒れていた、なにかをつまみ上げる。


「──なっ!?」


 それは、両手と両足を鎖で拘束された女の子だった。


「うま゛そーダろ?」


 手に繋がれた鎖を、邪竜に強引に引き上げられ、女の子の身体が俺の前に晒される。


 邪竜に弄ばれていたのかもしれない。

 彼女の身体は、至る所に傷があった。


「…………」


 ヒトの姿をした俺を見た時、少しだけ表情を変えたが、女の子は生を諦めた目をしていた。



「……お前、まさかこの周辺の村に、生け贄を出させているのか?」


「ぞうダ、五年に゛一度、ダガな。昔ハ、もっト喰ってい゛たが、強イ冒険者が来るト、厄介ダからナ」


 コイツは、この洞窟の周辺にある五つの村を支配し、その村から五年に一度生け贄を出させていたらしい。


 さらにその五つの村に自身の眷属を配置し、村の者が逃げないようにしている。


 昔、この周辺には八つの村があったが、そのうちの三つの村の住人は全て、邪竜によって喰われていた。



 邪竜が饒舌に語ってくれた。


 恐らく、五年ぶりの生け贄に舞い上がっているだけではないのだろう。


「……ここまで丁寧に教えてくれるってことは、俺も、殺す気なんだよな?」


「グギギっ、よぐわガっだな。オでは、昔がら、お゛まえらが、嫌イだった。出来損なイノ種族が、調子にノリやガって」


 邪竜が、女の子を俺に投げつけてきた。

 なるべく優しく受け止める。


 彼女からは、酷い血の匂いがした。


「お゛まえ、人族が好きなンだろ? オデに゛は、わガるぞ。だっだら……そいづを、まも゛っデみせろ」



 ……そうか。


 どうやらコイツは、俺と遊びたいらしい。


 五年間待ちわびた生け贄を、ただ喰うだけじゃつまらないんだ。だから、この子をここまで痛めつけた。


 それでも飽き足らず、ちょうどこの洞窟にやってきた俺で遊ぶことを思いついたから、俺をここまで連れてきたんだ。



 なるほど。


 いいだろう。望みを叶えてやる。


 でも、その前に──



「君、生け贄だったんだよな? 今から俺がアイツをぶっ飛ばして君を助けるけど、この洞窟から出たら俺とデートしてくれない?」


「……ぇ?」


 これはチャンスだ。


 命の危機を救えば、少しくらいは俺の願いを聞いてくれるだろう。


 さすがに付き合ってくれとか、結婚してほしい──ってのは無理だと思うけど、デートくらいは相手をしてもらってもいいだろ?


 女の子の身体は酷くボロボロだけど、なかなかのスタイルで、顔も可愛かった。


「どうかな?」

「あ、あの……私は──」


 女の子が答えようとしてくれた時、邪竜が俺たちにブレスを放とうとしてきた。


 俺の言葉に、怒ったらしい。



「オデを、ぶっ飛ばスだド!? フザけ──」


「うるせぇ! 今、彼女と交渉中なんだから、少し黙ってろ!!」


 ちょっと邪竜を黙らせるため、右手だけを竜化させて、飛拳でヤツを牽制しようとした。


 牽制のつもりだった。


 ブレスを弾いて、ヤツの身体を少し吹き飛ばし、女の子と交渉する時間を稼ぐだけのつもりだった。



「グギャッ──」


 俺の放った飛拳が、邪竜の頭部を粉砕した。


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