精霊姉妹の分身魔法
お昼ご飯も美味しかったと、ハルト様に褒めていただきました。
私とメイを褒めてくださったあと、ハルト様はヨウコさん、キキョウさんと一緒に食堂を出て、ハルト様のお部屋の方へ歩いていきました。
食堂を出る前、ヨウコさんがハルト様に耳打ちしていました。
も、もしかして……ご褒美と称して、えっちなことを要求したのではないでしょうか?
妻の皆さんの多くは、ハルト様がしてきてくださった時を除いて、無闇に彼の身体に触れたりはしません。
それが、暗黙のルールだからです。
例外はティナさん、それからヨウコさんです。
ティナさんは昔からハルト様の恋人ですから、仕方ないでしょう。
問題はヨウコさんです。
彼女は、ハルト様に対する性的なことへの積極性が強いのです。
危険なのです。
それはまぁ、私たちだってキスくらい、たまにねだることもありますけど……。
でも、ヨウコさんは積極的すぎるのです。
危険なのです。
さらにヨウコさんのお母様であるキキョウさんも、やはり危険な匂いがします。
キキョウさんは成体──そして完全体になった九尾狐です。
九尾狐はヒトを魅了し、堕落させる種族です。
ハルト様は、ヨウコさんたちに言い寄られても平然としていらっしゃいますが、これからもずっとそうだとは言えません。
なにせ、キキョウさんの艶やかなお身体は、同じ女である私たちが見とれてしまうほどの……。
と、とにかく、とても危険なのです。
そんなおふたりに、ハルト様が襲われないか心配で、私とメイはヨウコさんたちのあとを、こっそり尾行しました。
結論として、ヨウコさんたちはハルト様のお部屋には行きませんでした。
食堂からハルト様のお部屋に行く途中、中庭を通った方が早いのですけど、その中庭に植えてある木の陰に、ヨウコさんとキキョウさんが座りました。
そしておふたりの腰あたりから、尻尾が現れたのです。
ふたり合わせて十八本の尻尾。
すごく柔らかそうで、モフモフなそれが、まるで椅子を形作り──
その椅子に、ハルト様が腰掛けました。
「んくっ──ど、どうじゃ。んんんっ。き、気持ちが、良いじゃろう?」
「んあっ、ハ、ハルトさまぁ。そ、そこは──んっ。だっ、ダメです!」
「ごめん、キキョウ。肌触り良すぎて、止めらんないわ」
ハルト様の手が、ヨウコさんとキキョウさんの尻尾を撫で回していました。
「コレって、俺は気持ちいいから嬉しいんだけど……いいの? 俺が尻尾に包まれるってのが、ヨウコたちへのご褒美で」
あっ、そーゆーことですか。
それをご褒美に選んだのですね?
「よい、よいのじゃ。んんっ、主様は我らの尻尾で癒されるがよい」
「こ、心ゆくまで、お楽しみください」
「そう? じゃあ、遠慮なく」
ハルト様が、お身体を囲むおふたりの尻尾をモフりはじめました。
とても気持ちよさそうです。
ヨウコさんたちも、気持ちよさそうでした。
気持ちよさのあまり、ハルト様の手から逃げたヨウコさんの尻尾が、キキョウさんの尻尾を押しのけました。
そのせいでキキョウさんの尻尾が、ハルト様の目の前にやってきて──
ハルト様が両腕で、それに抱きつきました。
「──っ!!?」
キキョウさんが声にならない悲鳴をあげて、悶えています。
ハルト様の腕が、尻尾に大きく沈みこんでいるので、私たちが見ているここからでも、それがすっごく柔らかいっていうのがわかります。
いいなぁ、ハルト様。
たぶん、コレがヨウコさんたちの狙いなんでしょうね。
親子で協力して、ハルト様をもふもふの虜にしようとしているのです。
私たちも、あのもふもふの中に飛び込みたいと思わせるほどですから。
……ズルいです。
きっと、今回は楽しませるだけハルト様を楽しませておいて、次にハルト様がもふもふを求めてきた時は、性的なことを見返りに要求するのでしょう。
私も、尻尾が欲しくなりました。
隣をみたら、メイが腰の辺りに水の尻尾を出現させてました。
私たちは双子ですから。
考えてることは、同じみたいですね。
でも、残念ながらメイの尻尾は、全くもふもふしていませんでした。ひんやりしていて、気持ちよさそうではあるのですけど……。
彼女もそれに気付いたみたいで、しょんぼりしていました。
この中庭での出来事を見ていたのは、私たちだけではありませんでした。
ハルト様のお屋敷に住む彼の妻全員が、中庭を監視していたのです。
ヨウコさんとキキョウさんの暴走に注意しなくてはいけないというのは、どうやらエルノール家の共通認識のようです。
ティナさんが見ているので、ヨウコさんたちが先走ることはないでしょう。さすがに中庭で、事に及ぶってのはないと思いますし。
私とメイは、監視の続きは他の方に任せることにしました。
食堂に戻って、食事の後片付けをしなくてはいけませんでしたから。
──***──
「ハルト様になにかあった時のために、やっぱりアレを完成させよう」
お皿洗いと食堂の清掃を終え、自室に戻ってきた私は、メイに話しかけました。
「そうだね。いざと言う時のために」
メイも賛同してくれました。
私たちは手を繋いで、魔力の放出をはじめました。
これから、あの魔法を使います。
「「クリエイトアバター!!」」
この世界に存在する、全ての魔法をご存知だった星霊王様──つまり、私たちのお父様に教えていただいた魔法です。
ハルト様の分身魔法とは違う、本物の分身魔法です。
私とメイの前に、もうひとりずつ私たちが現れました。
同じ顔が四人いるって、なんか変な感じです。
とにかく、無事に分身魔法は成功しました。
分身魔法は魔力を等分した自分自身を創り出す魔法ですから、私もメイも魔力量が半減してしまっています。
ただ、半減したところで、ハルト様から膨大な魔力をいただいた私たちには、あまり影響はありません。
半分の魔力量になっても、魔人程度なら簡単に倒せる力はあるでしょう。それに、ハルト様に触れられれば、減った魔力もすぐに回復してしまうはずですから。
さて、そろそろ分身魔法を使った本当の目的を果たしましょうか。
「「貴女たちには、コレに入ってほしいの」」
そう言って分身のふたりに、青と赤に輝く小さな宝石を見せました。
お父様に貰った、すごく貴重な魔石です。
ティナさんが昔、勇者様から貰った竜王の瞳という魔石と同じ効果があります。
つまり、どんな魔法でも保存できるのです。
「「うん。わかった」」
そう言って分身魔法が、私たちの持つ魔石に触れると、ふたりはそれに吸い込まれていきました。
「「ハルト様を、お願いね」」
魔石に話しかけると、声は聞こえませんでしたが、分身たちの意思が伝わってきました。
『『任せて』』
さて、ここからは私たちのお仕事です。
このふたつの魔石を、ハルト様が常に身につけていただけるように交渉しなくてはいけません。
理由はふたつあります。
一つ目は、ハルト様をお守りするためです。
ハルト様がピンチになった時、私たちの分身が、彼をお守りするのです。
とても強いハルト様が、ピンチになるなんてことはまずないと思いますが、備えあれば憂いなしです。
また、ハルト様をピンチに陥れるのが、敵だけとは限りません。ヨウコさんや他の方が、強引にハルト様に迫ることも、あるかもしれないんです。
そんな時、私たちの分身がいち早く状況を把握して、私たちに伝えてくれるようにしたいのです。
もちろん、ハルト様を常に監視しようなんて思ってないですよ?
あくまで、非常時のためです。
それから、二つ目の理由ですが、分身魔法を入れた魔石をハルト様が身に付けてくだされば、それは常に、私たちと肌を接しているのと同じことです。
ハルト様が、私たちをずっと抱いてくださっているのと、同じことなのです。
本物の分身魔法は、自分自身を創り出す魔法ですから。その分身魔法が入った魔石を身につけるというのは、そういうことなのです。
実はこっちが、メインの目的です。
下準備はできました。
あとは魔石を、ネックレスかブレスレット、もしくはピアスに加工してハルト様にプレゼントしましょう。
ハルト様、ピアスも似合うと思うのですけど……どうでしょうか?




