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ルークの過ち


四章で省略した部分が、少し入ってきます。


だいぶ前のお話ですので、よろしければ四章後半(80ページ~)も読み返してみてください。


 

「学園祭のお詫び? ……あっ! もしかして、アレですか?」


「うん。たぶん、リエルが思ってるのだよ。俺さ、どうしてもあの時のことを、ちゃんとリエルに謝りたくて──」


 俺はリエルと、昨年末くらいから付き合い始めた。


 ちょうど魔法学園の学園祭が行われる少し前だったんだけど……学園祭で俺は、リエルを傷つけてしまった。



 ──***──


 学園祭二日目


 俺は今、前日と同じように執事服を着て、お嬢様──お店に来てくれた女性たちの相手をしている。


 俺たちのクラスは『メイド&執事喫茶』をひらいていた。


「お嬢様、紅茶をお持ちしました」

「ありがとう、ルーク」


 ちなみに俺が相手をしているのは、マダムでもなんでもなく、魔法学園の女子生徒だ。ローブの模様からして、三年生かな?


 ただの女子学生が、俺の態度や場の雰囲気に影響されて、優雅に紅茶を飲んでいる。


 こちらが完璧な執事を演じると、俺が接しているお客さんも、まるで本当の貴族令嬢かのような態度をとるので、ちょっと面白い。


 お客さんに、この場の雰囲気を最大限楽しんでいただいてるって実感できる。


 俺って執事、向いてるんじゃないかな?


 ──そう錯覚するほど、楽しかった。



 それに俺は、クラスの男子の中で一番人気だった。


 長身でガタイがよく、ワイルド系イケメンのリューシンより──


 美人ハーフエルフのティナ先生や、美少女エルフのリファを奥さんにしてしまうハルトより──


 俺の方が、圧倒的にお嬢様たちから指名を受けていた。


 最高にモテた。



 だから少し、調子に乗ってしまったんだ。


「ルーク、今日は楽しかったわ」


「お楽しみいただけたようでなによりです。本日は誠にありがとうございました」


 差し出された手をとり、その手の甲にキスをした。




 ガシャン──と、何かが落ちて割れる音がした。


 出入口が見える席に座っていた女の子が、手に持っていたカップを落として割ってしまったようだ。


 その子は、目元まで深くフードを被っていた。


「お嬢様、大丈夫ですか?」


 ハルトが対応していたお客さんのようで、彼がその女の子の所に駆け寄る。


「すみません、もう……帰ります」


 女の子はハルトに押し付けるようにお金を渡すと、お店の出入口のそばにいた俺の前を通って早足で出ていった。


 その子の頬に、涙が伝っているのが見えた。

 俺は彼女の声に、聞き覚えがあった。


 ま、まさか──


 でも、そんなはずはない。


 だって()()は今、ここから遠く離れたアルヘイムにいるはずなんだから。


 俺が呆然としていると、リファが近づいてきた。


「ルークさん、彼女を追いかけた方がいいかもしれません……まだ、付き合い始めたばかりなのでしょ?」


「えっ!? じゃ、じゃぁ、彼女は──」


「……リエルです」


 リファの言葉を聞いた俺は、執事服を着たまま走り出していた。


 仕事中だというのも忘れ、賢者見習いのスキルのひとつである魔力探知を全開にして、リエルの居場所を探した。


 手の甲とはいえ、女の子にキスしているのを見られてしまった。


 まだ付き合い始めて数週間の、俺の彼女に。


 間が悪すぎる。

 キスしたのなんて、アレが初めてだ。


 女の子にいっぱい指名されて、浮かれてた。

 手を差し出されたから、つい──


 いや、今は言い訳なんて考えてる場合じゃない。


 とにかく、リエルを探さなきゃ!!




 ──いた!


「おい、お前。ひとりだろ?」

「俺らと一緒に、学園祭を回ろうぜ」

「こちらの御方はゾルディ男爵の御子息、ナード様です。私たちと一緒に回れば、いっぱい良いことがありますよ?」


「い、いいです。けっこうです!」


 見覚えのある三人組に絡まれているエルフの女の子──俺の彼女、リエルを見つけた。


 リエルははっきりと断っているのに、ナードたちは引き下がろうとはしない。


 周りで見ている生徒もいるが、ナードが貴族関係者であるとわかるローブを着ているせいで、リエルを助けようとする者はいなかった。



「リエル!」


「ル、ルークさん!」


 近づいて声をかけると、俺に気付いたリエルが走ってきて、俺の後ろに身を隠した。


「この子は俺の彼女です。申し訳ありませんが、お引き取りください」


「あ"? 執事が、こんな可愛いエルフの彼氏? ふざけるな!」


 あっ、俺、執事服のままだった……。


「執事とか、関係ないだろ」


「関係あります。こちらの方は、男爵家のご子息ナード様です。ナード様がそちらのお嬢様と学園祭を回りたいとお願いしているのです」


「黙ってそいつを寄越せよ」


 メガネをかけた細身の男と、小太りで背の低い男が、俺に詰め寄ってくる。


「お前から彼女を取ろうって言うんじゃない。学園祭を一緒に回りたいと言っているだけだ」


「貴方はご自身の主の所に、戻られてはいかがですか? 彼女のお相手は私たちがして差し上げますので」


「そうだ。だからお前は俺たちと来い」


 ナードが強引に、リエルを連れていこうと手を伸ばす。


「おやめください。それ以上近づけば──」


「あ? どうしようってんだ? 貴族である俺に、手を出すのか?」


 俺は学園長の孫とはいえ、貴族ではない。

 そんな俺が貴族に手を出すと、色々まずい。


 だからといって、言われたとおりにリエルを差し出せるわけがない。


 だから──



「それ以上近づけば、雷に撃たれてしまうかもしれません」


「は? なにを言って──」


「ナ、ナード様!」


 メガネの男が気付いた。


 彼の視線につられて、ナードが上を見上げる。


「なっ、なんだ? なんだあれは!?」


 さっきまで晴れ渡っていた空に雷雲が広がり、何本もの稲妻が雲の中を走っていた。


 範囲殲滅型の究極魔法、アルティマサンダーだ。俺はこの魔法で、好きな場所にだけ超級の破壊力を持った雷を落とすことができる。



「あまり俺たちに近づくと、()()が落ちてくるかもしれません」


「お、お前の魔法か!? 俺は貴族だぞ!! 俺に向けて魔法を放てば、ど、どうなるか──」


「嫌だなぁ。あんなのが個人の魔法なわけないじゃないですか。天候を支配するのなんて、それこそ究極魔法クラスでしか無理です」


 一歩、ナードたちに近づいた。

 俺から逃げるように、彼らは二歩後ずさる。


「もしですよ、仮に貴方たちがアレから落ちてきた雷に撃たれたとして、それは絶対に俺のせいにはなりません。だって、ただの執事である俺が、究極魔法なんて使えるわけないんですから」


 ニタリと笑う。

 ナードたちの顔は、引き攣っていた。


「お引き取り、願えますよね?」


 全力で首を縦に振ったナードたちは、我先にと俺たちのもとから走り去っていった。



「ふぅ」


 やべぇ。めっちゃ緊張したぁ。

 逃げてくれて、良かった。


 もしかしたら、後でじいちゃんに怒られるかもな……。


 でも、いいんだ。

 彼女に、貴族なんかの相手をさせずに済んだのだから。



「あの、ルークさん」

「……リエル。来てたんだね」


 リエルと向き合う。

 頭の中で俺は、必死に謝罪の言葉を考えていた。


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