新妻は魔王様
ヨウコと白亜を守るように、ハルトがシトリーの前に現れた。
その彼が、死の魔法を手のひらから吸収する。
「だ、旦那様!?」
シトリーが激しく狼狽えていた。
自身が放てる中で最悪の魔法を、主人であるハルトに当ててしまったからだ。
「す、すみません旦那様。わたし、魔法を止められなくて……」
「大丈夫、問題ないよ。途中で止めてごめんね。今回はシトリーの勝ちでいいから」
数万のヒトをまとめて屠れるだけの『死』を込めた魔法だったのだが、それを吸収したハルトに変化はなかった。
「ありがとうございます。旦那様がご無事で良かった……やはり、さすがですね」
ホッとした表情を見せながらも、シトリーはハルトの異常性を再認識する。
どうせハルトの力で生き返る──そう考え、シトリーは本気でヨウコと白亜の肉体を消滅させようとした。
そうでもしなければ、彼女たちが負けを認めないと思ったからだ。
シトリーは現在、自身がこの世界で最強の生物であることを認識していた。
その最強生物の本気、全力の魔法をハルトは容易く止めたのだ。
シトリーは彼のことを生物でないなにか──神族の類であると考えはじめていた。
それもただの神族ではなく、この世界の最高神である創造神、その化身なのではないかと。
しかしそう考えれば、魔王であったシトリーをテイムできたのも、邪神の加護を消し去ることができたのも全て納得できてしまう。
彼に、歯向かう気など起きない。
その気になれば世界を改変する力を持つのだから。
ハルトにテイムされた当初は、邪神に対して後ろめたい気持ちがあった。
しかし今は、彼のそばにおとなしく身を置くことが最善であると理解していた。
「旦那様……その──」
「ご褒美?」
「そ、そうです」
「わかった。俺でできることなら、可能な限り叶えるよ。なにがいい?」
「それでは、わたしもヨウコ様たちと同じように旦那様の御屋敷で一緒に暮らしたいのですが……よろしいですか?」
「いいよ」
シトリーの願いはあっさり認められた。
魔王を超える力をもつ自分を、近くに置くことに一切の抵抗がないらしい。
「でも、このダンジョンのボス役もお願いね。誰か来た時だけでいいから。その時は、俺が転移魔法で連れてくるよ」
「承知いたしました。何人たりともここを通さぬことをお約束しましょう」
歴代最強の魔王が確固たる信念を持ち、ハルトの頼みに応えることを誓った。
自分の頼みのせいで、このダンジョンがクリア不可能な魔境となったのだが──そんなこと、ハルトはこの時点で理解していなかった。
「それから移動の件ですが、旦那様の転移魔法を見て覚えましたので、必要な時は自分でここまで来るようにいたします」
「おぉ! それは凄いね。もしかして俺が設置した転移用のマーキングも使えたりする?」
「可能です」
「だったら、頼まれた時は俺の家族の転移もしてほしいんだけど、大丈夫? 魔力がいるなら俺が渡すからさ」
「旦那様の御家族を転移させるのは問題ありません。魔力も当面は不要です。既に旦那様からたくさん頂いてしまいましたので」
「そう? じゃ、よろしくね」
「はい。あの……旦那様にひとつお願いが」
シトリーがもじもじしていた。
その姿は彼女が魔王であるなどと想像できない、ひとりの可愛らしい女性の仕草だった。
「わたしを旦那様の御家族に紹介していただけませんか? みなさまを転移させるとき、面識は必要になると思うのです」
「もちろん! シトリーも今日から俺の屋敷で暮らすんだから、みんなに挨拶してもらうよ」
「は、はい。よろしくお願いします。それから──」
シトリーは申し訳なさそうな顔をして、フロアの壁のそばで互いに背を預けて座り込んでいるヨウコと白亜を見た。
「やりすぎてしまったようですので、彼女たちとの仲裁もしていただきたいのです」
「あー、そうだね」
ハルトがヨウコと白亜に近づいていった。
「ふたりとも、お疲れ様。俺が用意したラスボス、強かったろ?」
「強すぎじゃ」
「し、死ぬと思ったの」
「危ない目に遭わせてゴメンな。でも、彼女も今日から俺の屋敷で暮らすことになるから」
ハルトはしゃがんでふたりを抱きしめ、ヒールをかけながら、失われた魔力も回復させていった。
「今後はシトリーとも、仲良くしてほしい」
「……存在の格は、彼奴の方が圧倒的に上じゃ。しかし、主様のそばで暮らし始めたのは我らの方が先なのじゃ。先輩として接しても、いいのかの?」
「いいんじゃない? シトリー、いいよね?」
「はい。わたしは家事などをしたことがございませんので、至らぬ点が多々あると思います。何卒、ご指導よろしくお願いします」
シトリーがヨウコと白亜に対して頭を下げる。
彼女の言葉を聞いて、ヨウコは笑顔になった。
「うむ。では、主様にお仕えする先輩として我が、主様の好物であるだし巻き玉子の作り方を伝授してやろう」
「だ、だし巻き玉子? ……なんでしょう、とてつもない困難が待ち受けている気がします」
「私もシトリーに、お料理教えるの!」
「白亜様も、よろしくお願いしますね」
「はいなの!」
こうして、エルノール家に魔王が嫁いできた。
八章はこれで終わりです。
次回から九章に入ります。
あまり触れられてない設定だったり、各登場人物たちの日常などを書いていきます。
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