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頂上決戦を統べる者

 

 白竜が羽ばたき、高さ五百メートルほどある最終フロアの天井付近まで飛翔した。


 シトリーの視界から外れるのが目的だ。



 ヨウコも白亜も、シトリーの強さを認めていた。


 最強の色竜(しきりゅう)である白亜と、魔族の頂点に立ち魔人すら圧倒するヨウコが、シトリーには個人で勝てない──そう判断したのだ。


 だからヨウコと白亜は、連携をとることにした。


 これまでふたりで協力して戦ったことはないが、歴代最強と言っても過言ではない魔王が目の前にいる。


 共闘しなければ勝てない。


 そしてハルトからご褒美をもらうためには、なんとしても、その最強魔王を倒さなくてはならないという共通認識が、自然とヨウコたちに最適といえる行動をとらせていた。



 突如飛び上がった白亜の姿を目で追ったシトリーの隙を、ヨウコは見逃さなかった。


 九本の尾に溜めた魔力を、超高密度に圧縮してシトリーに向け放ったのだ。


 それは聖都サンクタムの郊外で、魔人の半身を一瞬にして溶解させたレーザーだ。


 それを──



 シトリーは片手で払い除けた。


「なっ!?」


 これにはさすがにヨウコも驚いた。


 魔人に攻撃した時の数倍の魔力を込め、さらに確実に当てるため、ほとんどの予備動作を省略して放った最強最速の一撃だったからだ。


「さすがですね。手の甲が、少し痺れました」


 そう言ってシトリーが手をひらひらと振る。


「……バケモノめ」


「あら、それはお互い様で──」

「喰らえなのぉぉぉお!!」


 シトリーの言葉の途中、上空から超高速で白亜が()()()()()


 最終フロアの上空を旋回し最大限まで加速した白亜は、自身に重力魔法と硬化魔法を幾重にもかけて、シトリーに突撃したのだ。



 そんな白亜の捨て身の突撃を、シトリーは容易く受け止めた。


「──は?」


 白亜は意味が分からず狼狽えた。


 数百メートルクラスのクレーターができてもおかしくない速度で突撃したにもかかわらず、シトリーはそのか細い腕で白竜の巨体を受け止めたのだから。


 そして彼女の足元には、全く衝撃が伝わっていなかった。



「ここは旦那様が、私のために作ってくださったフロアです。ですから、あまり大きく破壊しないでほしいのです」


 シトリーはハルトが作ったこのフロアに、巨大なクレーターを残さないよう、()()()()白亜を受け止めた。


 彼女は白亜の行動に気付いていた。

 そして、白亜の突進を避けることもできたのだ。


 しかしシトリーは反重力魔法を使い、白亜の速度と重量を軽減した。


 さらに白亜の身体にかかる負荷も軽減するため、彼女の頭を優しく受け止めていた。


 それは、圧倒的な実力差があって初めてなせる技。



「は、離せなの!」


 頭を掴まれ、逃げることもできなかった白亜が、その尾をシトリーに叩きつけた。


 悪魔グシオンを打ち据えた白竜の尾の一撃。



 ──これすら、今のシトリーには児戯に等しいものだった。


()()()をする子は、こうです!」


 白亜の頭から手を離し、代わりに高速で向かってきた尾を掴んだシトリーが、白竜の巨体を振り回し、ヨウコに向かって投げつけた。


「──っ!? す、すまぬのじゃ!」


 ヨウコは高速で飛んでくる白亜の身体を避けた。


「ふぎゅ!」


 白亜は遠く離れたフロアの壁まで飛んでいき、壁に激突して悲鳴をあげた。



「貴女にはさっき、手の甲を痺れさせられたお返しをしませんと──」


「えっ?」


 シトリーに投げ飛ばされた白亜の様子を見ていたヨウコが声に反応して振り返ると、デコピンを構えた笑顔の魔王がいた。


「ね?」

「ふぐぁぁぁぁああ!!」


 九尾狐の眉間に、世界最強のデコピンが叩き込まれ、ヨウコも白亜と同じくフロアの端まで吹き飛ばされた。


 ヨウコはシトリーの指が当たる直前、額に千層の魔法防壁を展開して防ごうとしたのだが、それはほとんど意味をなさなかった。




「まだ、やりますか?」


 フロアの壁付近で倒れているヨウコと白亜に、魔王シトリーが近寄る。


「ま、まだじゃ……まだ、我らは負けておらぬ」

「そーなの、このくらい、なんともないの」


 なんとか立ち上がるふたりだったが、その身体は震えていた。


 その震えは与えられたダメージ、そして恐怖によるもの。


「そうですか……そうですよね。旦那様のご褒美、嗚呼、なんて素敵な響き。貴女たちが諦められない気持ち、痛いほどわかります。ですが──」


 シトリーが魔力の塊を右手に出現させた。


 それは、歴代最強の魔王が極限まで己の力を高め、なんとか具象化に成功した死の塊。


「時には諦めも肝心です」


 死の塊を、シトリーが頭上に構える。


「あ、あ、ぁぁぁあ!」

「い、いや、いやなの……し、死にたくないの!!」


 ヨウコと白亜は、自分たちが死ぬ未来を見ていた。


「安心してください。このダンジョンで死んだ者は、旦那様のお力で何度でも復活できるそうです」


 笑顔のシトリーが、手を振り下ろした。


 死が、ヨウコと白亜に襲いかかる──




「はい、ここまでね」


 ヨウコたちの前に現れたハルトが、死の塊を受け止めた。


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