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覇国と賢者

 

 突如現れた六体目のバケモノ。


 いや、そいつは──そいつだけは、バケモノなんかじゃなかった。


 姿かたちは、完全に他の五体と同じなのに、奴が内包する魔力量はゴミ同然だった。


 しかし──


「あ、本体さん、おつかれっす」

「待ってたよー」

「こいつら以外は予定通り、アレしたっす」


 なぜか五体のバケモノたちが、新たに現れた奴に対して腰が低いのだ。


 い、意味がわからない。


 だが、チャンスかもしれない。

 一縷の望みにかけてみよう。


 シトリー様を、お救いするために。


「そ、相談したいことがある」


「ん、なに?」


 俺が六人目の男に話しかけると、そいつは俺の言葉に反応した。


「先程、俺をテイムしたいとそいつらが言っていた。確かに魔力で干渉されたが、俺はそいつら程度の力では絶対にテイムされない」


「ふむふむ、で?」


「お前は、そいつらの親玉なのだろう? 俺と戦わないか? もし、お前が俺に負けを認めさせれば、テイムを受け入れてやる」


「……俺が負けたら?」


「その場合でも、俺はテイムを受け入れてやる。代わりに、この御方を逃がしてほしい」


「ぞ、族長、なにを言っているのですか!?」


 シトリー様が騒ごうとするが、俺はそれを視線で制した。


「なんで俺に勝てても、テイムを受け入れるの? 俺に勝てたなら、その子と一緒に逃げればいいじゃん」


「……お前を倒しても、残る五体のバケモノに勝てると思い上がるほど、俺は敵の力がわからぬ愚者ではないつもりだ」


「なるほど、俺ひとりなら勝てると」


「可能性は、あると思っている。少なくとも、お前たちが俺をテイムしたいのであれば、お前が俺と戦うしかない。俺の提案を受け入れないのであれば、俺は死んでもテイムを受け入れない」


 さぁ、どうだ?


「おっけー、いいよ。戦おう」

「──っ!!」


 望みが、繋がった。


「か、かたじけない。俺の提案を受け入れてくれたこと、感謝する」


「だって、俺が貴方に負けを認めさせられなくても、貴方は俺の仲間になってくれるんでしょ? そこの美人さんも強そうだけど、フロアボスとしては貴方みたいな、()()()()って魔物が欲しかったからね」


 フ、フロアボス?


 いったい彼が、なにを言っているのか意味がわからない。


 しかし、シトリー様を逃がすチャンスを手に入れたのだ。そんなことはどうでもよかった。


 立ち上がって、六人目の男と向き合う。


「ちなみに俺が負けても、その子を逃がさないかもって心配はしないの?」


「そればかりはお前を信じるほかない。それに……こんなことを人族に言うのは初めてだが、お前からは武人の気配がする。約束を反故にするような男ではないはずだ」


 たいして強そうには思えないが、コイツを前にすると、なぜか嘘をつくのが得策ではない気がした。


 だから、本心を打ち明ける。


「わかった、ありがと。それじゃ、約束だ。貴方が負けを認めない限り、俺たちはあの子に手を出さない。お前たちも、それを守ってくれ」


「おっけー」

「りょーかい!」

「本体、がんばれー」

「そいつ、ほんとに強いから気をつけて」

「腕、巨大化してくるから」


 五体のバケモノが、俺とシトリー様の囲いを解いて一箇所に集まった。


 もちろん、逃げようなどとは思わない。


 俺はコイツに勝って、シトリー様を逃がすのだ!!


「ちなみに、俺はハルト。ハルト=エルノールだ」


「……悪いが、俺に名乗る名はない」


 人語を話せるとはいえ、俺たち魔物に個体を識別するための名は存在しない。


 例外は竜族。

 アレらはヒトの真似をする酔狂な種族だ。


「んー、名前がないのは不便だな。よし、俺が勝ったら貴方に名前をつけて呼ぶけど、いいよね?」


「好きにしろ」


 名前などどうでもいい。

 コイツに勝って、シトリー様を逃がすこと以外は些細なことだ。



「あ、ちなみに武器は使っていい?」


「もちろん構わぬ」


 見たところハルトは素手だった。


 俺の皮膚はオリハルコンの刃すら通さぬのだ。どんな武器を使われようが問題はない。


 先程、俺と戦ったバケモノが持っていた棒切れでも使うつもりなのだろうか?


 アレはなかなか痛かったが、耐えられないほどではない。


 そんなことを考えていると、ハルトが()()()()()()()()


 コ、コイツ……勇者の類いか?


 俺はハルトの行動に、見覚えがあった。


 かつて戦った勇者が、ハルトと同じように空間に穴をあけ、そこから様々な武器を取り出して俺に攻撃してきたのだ。


 まぁ、その全ての武器が、俺に傷ひとつ付けることはなかったのだが。


 だから、どんな武器が出てこようと恐れる必要はない。



 ハルトが空間から手を引き抜いた。


 巨大な、ハルトの身丈ほどある剣が、姿を現した。


 ()()を目にした瞬間──



 俺の腕が、胴が、脚が、頭が、一切の抵抗を許すことなく粉々に切り刻まれた。



「──がはっ!?」


 膝をついた。


 お、おかしい……。


 俺は今、粉々に切り刻まれたはず──


 なのに、俺の身体は無事だった。


 ど、どうなっているんだ!?


 状況を確認しようと視線をあげようとするが──



 前を見ることができなかった。


 魔物としての本能が、頭を上げるなと言っている。


 身体が小刻みに震えている。


 こ、これは……恐怖?


 ば、馬鹿な!


 俺が、あの剣に恐怖しているというのか?


 ……いや、違う。


 剣ではない。


 ()()()()()()()()()()、俺の本能が全力で警鐘を鳴らしていたのだ。


 ──勝てない。


 シトリー様のために一矢報いるとか、そんな次元じゃない。


 俺が立ち上がった瞬間、先程見せられた幻が現実になる。


 一切の抵抗を許されず、俺は身体を切り刻まれるのだ。


 これは予想とか予感とか、そんなのじゃない。



 確定した未来だ。



「シ、シトリー様……も、申しわけありません」


「ぞ、族長? どうしたというのですか!?」


 ハルトの前に膝をつく俺を、シトリー様が心配してくださる。


 人族に頭を下げているというのに、彼女の声には怒りの感情はなかった。


 純粋に、俺を心配してくださっている。


 きっとシトリー様は、俺がこれからする行為を咎めることはないだろう。


 それが俺を苦しめる。


 わかっている。


 それでも俺は、自分の行為を止められない。



「ハルト様、俺の負けです……テイムを、受け入れます」


 俺は、愚者だった。


 目の前に立つハルト様の力を、なにも理解していなかったのだ。


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