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母狐と竜神

 

「リュカ、白亜、大丈夫?」


 真っ黒に焦げた竜を呆然と眺めるふたりに、ハルトが話しかけた。


「どうしよう……わ、私、なんてことを」

「お、終わりなの。さすがに、おこられるの」


 まるでこの世の終わりかのような表情をするふたり。


「怒られる? 誰に?」


 ハルトは意味がわからなかった。


 彼としては、竜に連れ去られそうだった妻を助けただけなのだから。


 ハルトはまだ気づいていなかった。


 焼き尽くすことはできなかったにせよ、一切動かなくなるまで魔法を叩き込んだ相手が、神であったことを。


 だから、リュカと白亜の言葉に驚いた。


「ハルトさん、実はこの竜──いえ、この御方はこの世界の神の一柱、竜神様なのです」


「えっ!?」


「襲われてたわけじゃなくて……ただ、運ばれてただけなの」


「は? えっ、じゃあ俺は、か、神様を──」


 サーっと、ハルトの顔から血の気が引いていく。


 自分の犯した過ちに気付いてしまった。



「ヒール!!」


 ハルトは慌てて、自分の持てる全力で回復魔法を竜神にかけた。


 神である竜神には、魂がない。

 ただ、神という存在がそこにある。


 その存在は、神を信仰するヒトがいる限り消えることはない。


 また、今ハルトたちの目の前にある竜の巨体は、竜神がこの世界で活動するためのもの。


 ハルトはその竜神の肉体を、動けなくなるまで攻撃し続けたのだ。


 つまり、肉体さえ回復させればいい。



 数十秒で、竜の肉体は完全回復した。


「うぐ……か、回復、恩に着る」


「す、すみませんでした!!」


 ハルトが竜神に土下座する。


「神様だと知らなかったといえ、俺、とんでもないことを──」


「貴様には……たいして怒りはない。むしろ神の肉体を動けなくなるほどの攻撃は、さすがであった」


 竜が立ち上がる。


「問題は貴様らだ、リュカ、白亜!」


「ひっ」

「ご、ごめんなさいなの!」


 リュカと白亜が、ハルトの少し後ろで土下座して謝り始めた。


 そのふたりに対して、竜神が話しかける。


「なぜオレを助けてくれないのだ!?」


「……はい?」


「酷いではないか! オレはお前たち竜や竜人の神なのだぞ!? 十分も攻撃され続けてたのだ。途中でコイツを止めてくれてもいいではないか!!」


「そ、それは……」

「うぅ、ごめんなさい、ごめんなさいなの」


「あの、あまりふたりを攻めないでください。実際に竜神様を攻撃してしまったのは俺です。罰は俺が受けますから──」


「それは無理だ」


「えっ」


「オレは先程、お前に反撃した時、本気でお前を殺す気で攻撃した。なのにどうだ? お前は全くダメージを負っておらんではないか。そんなお前に、どうやって罰を与えれば良いというのだ?」


「そ、それは」


 竜神の爪は確かにハルトに当たっていた。


 それで服の一部は引き裂かれていたが、ハルト自身にダメージは全くなかった。


「それにお前、オレの転移の妨害をしたよな? アレはいったいなんなのだ? お、お前はまさか、神なのか!?」


「俺はただの人族です。転移を妨害したのは転移用の文字に、少し干渉しただけですので」


「普通はそんなことできん! 神の文字なのだぞ!? ……貴様、名はなんという?」


「ハルトです。ハルト=エルノールと言います」


「ハルト、ハルトか……ん? お前、もしや!?」


 竜神はハルトという名前に聞き覚えがあった。


 百年前、自分を倒した守護の勇者。


 その勇者と一緒にいたハーフエルフの女が、勇者のことを確か『はると』と呼んでいた。


 まさかと思いながら、竜神がハルトの魂の匂いを嗅ぐ。


「お、お前は、守護の勇者」


 魂の香りは、まさしくその勇者のものであった。


「ご存知なのですね。俺は昔、守護の勇者でした。転生して、今は賢者になっています」


「そ、そうだったのか」


 竜神はこの時、ハルトにリベンジすることを諦めた。


 勝てるわけがない。


 ハルトに攻撃した時、神の力を解放して本気で攻撃したのに、ハルトはその場から一歩も動かなかった。


 本人は『ただの人族』などとふざけたことを言っているが、この世界のどこに最上位の色竜が神格化した存在の一撃を受けて、ダメージを一切受けない人族がいるのか。


 ──いるはずがない。


 たとえ、レベルカンストの勇者であっても、そんなことはありえない。


 『物理攻撃無効』というスキルもあるが、そのスキルを持った者が暴走し、神界に侵攻してきた時、竜神や武神はそれらを止められるよう()()()()()()()()()()()()()能力を、創造神から与えられている。


 竜神の一撃を防げる者など、この世にいない。

 いてはいけないのだ。


 しかし、それができるバケモノが竜神の前にいた。そんなバケモノ、たとえ神界で戦ったとしても勝てない。


 神界のみで使用できる魔法もあるが、発動前にハルトに神字を崩され、発動を妨害されるに決まっている。


 竜神はハルトへのリベンジを諦めた。


 しかし、それでは怒りがおさまらない。


「リュカ、お前は竜の巫女の役目を解く。また、竜人としての力にも枷を付ける。白亜、お前は今後一切、竜の神殿への出入りを禁ずる」


「はい……」

「わ、わかったの」


 竜は成体になる時、竜の神殿で祈りを捧げる必要があった。そして、成体になることで、その力は格段に向上する。


 竜の神殿に入れないということは、白亜が成体になれないことを意味していた。


 しかし、リュカも白亜も竜神の決定に素直に従う。それだけの過ちを犯したという自覚があったからだ。


 ハルトも、リュカや白亜が傷付けられるのでないのなら、竜神の沙汰を受け入れるつもりでいた。


 しかし、それを良しとしない者がいた。



「小娘に助けられなかったからといって罰を与えるなど……相変わらず、器の小さい男ですね」


「なっ、なんだお前は?」


「おや、この姿ではわかりませんか。妾はキキョウです」


「キキョウ……ま、まさかキキョウ、お前なのか?」


「ん? 妾はお前に、呼び捨てを許した覚えはないのですけど」


「あっ、す、すみません、キキョウさん──って、オレは神になったのだぞ!? 呼び捨てくらい許せよ!」


「あら、神になったのですか。それはそれは、偉くなったものです……で?」


 笑顔のキキョウから、とてつもなく冷たい殺気が竜神に向けて放たれる。


「ひっ! ご、ごめんなさい。キキョウさん!」


 巨体の竜が瞬く間にヒトの姿になり、キキョウの前に土下座し始めた。


「えっと……キキョウ、さん、これは?」


 ハルトは目の前の状況がよくわからなかった。


 神である竜神が人の姿になり、ヨウコの母であるキキョウの前に、土下座しているのだから。


「あら、ハルト様は呼び捨てでよいのですよぉ。キキョウとお呼びください」


 甘えるような声でそう言いながら、キキョウがハルトを立たせて抱き着いた。


「な、なんでオレはダメなのだ? か、神なのに……」


 竜神のその呟きは誰にも聞こえることはなかった。


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