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母狐の魅了魔法

 

「相変わらず主様は、やることがめちゃくちゃじゃのう」


「そう?」


「母様はやめてと言うておった。それを無視して、主様のを無理やり入れられたら……()()なってしまうのも仕方ないのじゃ」


 ピクピクと身体を小刻みに震わせながらグッタリしているキキョウを支えながら、ヨウコがハルトに呆れた顔を見せる。


「えっと、大丈夫?」


「以前、主様にめちゃくちゃ入れられた時、我は半日起きられんかったのじゃ。まぁ、母様は我より格段に魔力操作を得意としておったから、すぐ主様に入れられたものを制御できるじゃろうが──」


 最低でも数分は休ませなければいけないらしい。


「そうか、じゃあヨウコのお母さんはヨウコに任せるよ。一応、顔色は良くなってるみたいだし。俺はエルミアとセイラに呼ばれたから、彼女たちを迎えにいってくる」


「わかったのじゃ」


 ハルトは、エルミアとセイラのもとへと転移していった。



 ──***──


 数分後、ハルトがセイラとエルミアを連れて戻ってきた。


 そのセイラとエルミアは、真っ黒に焼け焦げた竜の巨体を見て固まっていた。



「主様、おかえりなさいなのじゃ」


「ただいま。そちらは……ヨウコのお母さん、ですよね?」


 ヨウコの隣に、ハルトに向かい頭を下げる女性がいた。


「はい。ヨウコの母、キキョウと申します。此度は(わらわ)の蘇生と回復をしていただき、ありがとうございました」


 そのうっとりとした声に、つい聞き惚れてしまう。


 キキョウは頭をあげて、ハルトを見つめながら、顔の前に垂れた髪を耳にかける。


 その所作のひとつひとつが、優雅で美しい。


「いえ、妻の頼みですから」


「娘から聞きました。貴方様は、娘が九尾狐だと知っていながら契りを結んだと……怖くは、ないのですか?」


「んー、怖くはないです。ヨウコは初めて知り合った時から、いい子ですから」


 魔法学園で教室に入学した時、リファの次にハルトに話しかけてくれたのはヨウコだった。


 当時のハルトは学園で仲の良い友達をいっぱいつくって、ティナとふたりで過ごすには少し寂しい屋敷に、その友人たちを招きたいと考えていた。


 初対面でも自分から話しかけてくれたヨウコを、ハルトは簡単に『良い奴』認定していた。


 それはヨウコが九尾狐だと知っても、変わることはなかった。そもそもハルトが、九尾狐の危険性をあまり認識していなかったというのも一因である。



「そう、ですか……不出来な娘ですが、大事にしてやってください」


「はい。ヨウコを、幸せにすると誓います」

「あ、主様!」


 ヨウコが嬉しそうにハルトに抱き着いた。


「娘のそんな顔を見られて、妾は幸せです……では、私はこれで。妾の力が必要になればいつでも呼んでください。此度の恩に、必ず報いましょう」


「は、母様は我らと一緒に暮らさんのか!?」


「妾は完全体となった九尾狐。存在が知れれば、きっと多くのヒトが討伐しにくる。だからヨウコ、貴女と一緒にはいられないの」


 キキョウが悲しげな表情でヨウコを見つめる。


「くれぐれも、戦場に行ってはダメよ。そこで負の感情を含んだ魔力を吸収すれば、貴女もハルト様のそばにいられなくなる──」


「我は、完全体の九尾になったのじゃ!」


「……えっ?」


「主様とシロの魔力で我は満たされておる。だから、母様が心配するような暴走はせぬのじゃ。それにもしヒトが討伐に来たとしても、必ず主様が守ってくれるのじゃ!」


 ヨウコがハルトを振り返ると、彼はヨウコの言葉を肯定するように笑顔で頷いた。


「我は、母様と一緒に暮らしたいのじゃ」


「ヨウコがこう言っていますし、俺の屋敷には部屋が余っています。キキョウさんが良ければ──」

「キキョウ、で結構です。まだ完全に全盛期程の力がないので、匿っていただけるというのは大変魅力的なご提案です」


 九尾狐は完全体になるまで、存在を隠匿する魔法や洗脳魔法をメインで駆使し、時にはヒトに取り入って成長していく魔族だ。


「それに、貴方様の魔力はとても心地よかった。ですが──」


 キキョウがハルトに身を預け、その肩に手を置く。


「あまり妾を誘惑せぬことです。娘のことを愛してくださっているのでしょう? 妾がその気になれば、貴方様は娘のことなど忘れて、妾の虜になってしまう」


 彼女から色香が溢れ、ハルトにまとわりつく。


 それは成体、そして完全体となった九尾狐の本気の魅了魔法。これにかかってしまえば、対象はキキョウに夢中になり、その言いなりになってしまう。


 もちろんキキョウが本気でハルトを堕とそうとしたわけではない。


 ほんの少し、魔族に対して油断するなと警告するつもりだったのだが──


「俺がヨウコを忘れることはないです。俺の大切な、妻のひとりなんですから」

「──っ!? な、なんで?」


 まるで魅了魔法が不発だったのかと思えるほど、ハルトが自然に受け答えしたのでキキョウは驚いた。


「母様、主様に魅了魔法は効かんのじゃ。もちろん催眠や洗脳も全て」


「えっ、そ、そんな……」


「主様は我ら九尾狐の魅了魔法すら効かず、我の主従契約印すら一方的に破棄するほどのバケモノじゃ。だから、主様と一緒におるのがこの世で一番安全なのじゃ!」


 魅了魔法が効かないのも、主従契約の印を破棄できたのも、全てハルトのステータスが呪いによって〘固定〙されているからだ。


 それによって、ハルトが誰かに操られるようなことはない。



 先程ハルトから送り込まれた大量の純度の高い魔力。それからハルトがかなり強いということを、キキョウは理解していた。


 また、彼女は完全体の九尾狐であったが、全快状態ではないため、強者(ハルト)の下で身を寄せるという提案に心が動かされてしまう。


 キキョウには、ひとつ不安があった。


 もし自分が、このハルトという男を本気で愛してしまったら──


 たとえ魅了魔法が効かずとも、男を堕とす(すべ)は身につけている。


 それは性技であったり、細やかな仕草のひとつひとつ。彼女は男を悦ばせる技に精通していた。


 また、美貌も娘に劣るとは思えない。


 自分が、本気でハルトに愛してもらおうとした時、愛娘が悲しむことになるかもしれない。


 そんなことを考えたのだが──


「ハルト様。妾も、貴方様の御屋敷に居候させていただけませぬか?」


 キキョウはハルトのそばにいることを決めた。


 先程自分を襲った、これまで経験したことのないほどの快楽──彼のそばにいれば、アレをまた味わえるかもしれない。


 キキョウは愛娘の幸せより、女としての悦びをとったのだ。


 そんなこと、ハルトは知りもしない。


「うん、いいよ。エルノール家にようこそ、キキョウ」


「よろしくお願いします。ハルト様」


 キキョウはハルトから離れると、ヨウコのそばに移動し、その耳元に口を近づけた。


「ヨウコ、くれぐれも妾に彼を盗られないように、頑張ってね」


「は、母様、何を!?」


 それは、キキョウからヨウコに対しての宣戦布告であった。



 しかし、キキョウはまだ知らない。


 ライバルとなるのはヨウコだけではないことを。


 ハルトのそばにはヨウコ以外にも、美女や美少女が十人もいることを。


 いくらハルトを魅了しようとしても、十二番目のハルトの女として、ティナを除く十人の妻たちと対等に扱われることに悶々とする日々を送ることになるなど──


 キキョウは思いもしなかった。


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