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妻たちの奔走(7/9)

 

 ヨウコは、黒い感情に呑まれそうになっていた。



 人族を、殺そう。


 ──ダメじゃ。


 母を殺した人族を、ひとり残らず。


 ──母様を殺した冒険者はもう死んでおる。


 今の『(われ)』には、人族を滅ぼす力がある。


 ──やめろ、やめるのじゃ。



 ヨウコの中で、ふたつの意志が戦っていた。


 人族への復讐を望むヨウコの意志が、尾に溜めた魔力を解放しようとした。


 そのまま九尾狐の姿となり、まずは霊山近くの人族の村を滅ぼす気でいたのだ。


 暴走する気のないヨウコの意志には身体の主導権がなく、どうすることもできない。


 しかし、魔力の解放はできなかった。


「なんじゃ、これは」


 魔力を解放し、九尾の姿に戻ろうとする度に、右手の甲が酷く痛む。


 そのせいで上手く魔力を解放させられずにいた。


 人族と結んだ主従契約が、ヨウコの暴走を止めていた。


「こんなもの!」


 契約を破棄するため、自らの右手を切り落とそうとした時──


 頭の中で言葉が響いた。


『じゃあ、ヨウコは俺が許可した時以外はヒトに悪意を持った攻撃するのは禁止な』


「あ、主様……」


 ハルトの言葉で、暴走する気のないヨウコの意志に、彼女の身体の主導権が移動した。



 忌々しい人族がっ!

 まずは、彼奴(あやつ)から殺そう。


 ──お主には無理じゃ。


 『我』は完全体の九尾狐だ。

 人族なんぞに負けるわけがない。


 ──完全体になろうと、あの御方には敵わぬ。


 う、うるさい!

 お前は、人族が憎くないのか!?


 ──確かに、人族は憎い。


 だったら!


 ──母様の仇はもう死んでおる。


 だから、ほかの人族を殺すんだろうが!


 ──そんなこと、主様が許さぬ。


 ──たとえお主が、我が身体を乗っ取ろうとも、必ず主様が我を止めてくださる。


 ──だいたい、主様の命令がちょっと頭に響いた程度で、お主は我に身体の主導権を渡しておるではないか。


 ち、違う!

 お前がもっと、人族を怨むべきなんだ!!

 そうすれば『我』が人族を滅ぼしてやる。


 ──人族を怨むのは無理じゃ。


 ──我が、主様を好きだからじゃ。



 人族のハルトが好きだから、人族に牙を剥くつもりはない。


 それだけではなかった。


 これまでずっと、ハルトの異常とも思える力や様々な能力を見てきたヨウコは、彼を頼ればだいたいのことはなんとかなると信じていた。


 なんとかなるという、希望を持っていた。



「母様を……蘇生できるやもしれぬ」


 あ、ありえない。

 母は死んだ、殺されたんだ!

 百九十年も前に!


「確かにそうじゃ。しかし、我はすぐに母様の遺体を封印した。母様が我の記憶を奪うと同時に、残っていた力の全てを我にくれたから、力の制御ができなかった我は、魂すら束縛する封印術を使ってしまったのじゃ」


 ヨウコがキキョウの封印に触れる。


「ここに、母様の魂が眠っておる」


 ほんの微かだが、キキョウの魂が封印に囚われていることを感じられた。


「母様、長らくこんな所に閉じ込めてしまって、すまぬのじゃ」


 意図してやったわけではないが、およそ二百年も魂を束縛してしまったことを心から謝る。



「しかし、そのおかげで母様を蘇生できるのじゃ」


 た、たとえ魂が残っていたとしても、百年を超える時を別れて過ごした肉体と魂を結び付けられるわけがない! 


「なんじゃ、まだおったのか。そろそろ消えてもよいぞ? もう、我が暴走することはない」


 黙れ! 母が戻るなんて幻想だ。

 できるわけがない!

 蘇生にいったいどれほどの魔力と複雑な魔力操作が必要か、お前もわかっているだろ!?


「もちろんじゃ。逆にお主も、母様の蘇生に必要なものを知っておるのか……まぁ、そうじゃろうな。お主は、我じゃからな」


 あぁ、そうだ!

 それに、お前は当時自分の力をよく理解もせず、封印をかけた。

 そのせいで今のお前でも解けない封印となってしまっているじゃないか!


「ふん。我の(つたな)い封印程度、主様なら苦もなく解いてしまうのじゃ」


 なっ!?

 し、しかし、封印が解けたとしても、その者が母の蘇生をしてくれるわけがない。

 膨大な魔力が必要になる。

 それこそ、完全体となった『我』ですら足りないほどの魔力が!

 それに──母は災厄、九尾狐なのだから……


「はぁ、お主はなにもわかっておらぬな。主様の魔力は正真正銘、バケモノ級じゃ。そして、主様は稀代の女人好き。来るものみな拒まぬ男じゃ。そんな主様が母様のような美女を見て、蘇生を試みないわけがないのじゃ」


 ヨウコは自分の頭に手を当てる。


「とゆーわけで、我はこれから色々することがあるでな。人族に仇なそうとする『悪い我』には、眠っておいてもらおうかの」


 なっ!? やめ──


 ヨウコは自分自身を洗脳することで、負の感情に呑まれ暴走しようとする自分を封印した。



「さて、帰るとするかの」


 ヨウコはキキョウが封印されている氷柱を軽く持ち上げると、洞窟の外へと出ていった。


 この洞窟にはキキョウが遺した書物が複数あり、ヨウコはそれに分身魔法のヒントがないか探しにきたのだ。


 しかし、その書物を残した母を蘇生できれば、本人に聞くのが一番だ。



 洞窟を出て、ヨウコは九尾狐の姿に戻った。


 そして、尻尾で丁寧にキキョウの封印を包み込むと、来た時と同様に空を翔けて霊山を後にした。


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