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妻たちの奔走(5/9)

 

「リュカ、なんでアナタが白竜様と?」


「ただいま戻りました、お母様。私も竜の祠に用事があって、白亜様に送り届けていただいたのです」


「送り届けて──って、もしかしてリュカ、白亜様の背中に!?」


 ククルカから殺気が放たれる。

 それを受けて、リュカが身を震わせた。


 竜族はたいして気にしない者が多いのだが、ドラゴノイド族は上位の竜に対して礼節を重んじる者たちが多い。


 ドラゴノイドが竜に、ましてや最上位の色竜(しきりゅう)の背に乗るなど、年配のドラゴノイドたちからすると到底、許せることではなかった。


 この世界の竜族は、最上位が色竜と呼ばれる赤竜、白竜、青竜、黒竜の四種。


 次いで上位の竜が、各属性を冠した火竜、水竜、土竜、風竜、雷竜、光竜、闇竜だ。これらは属性竜と呼ばれる。


 属性竜の中には、複数の属性を持つ竜もいる。

 火と風の属性を持つ炎竜や、水と風と雷の属性を持つ氷嵐竜──別名ブリザードドラゴンなどだ。


 いくつの属性を持っていようと、基本的に属性竜では色竜に勝てない。


 属性竜以上であれば人語を理解し、ヒトとの会話が可能だ。


 その属性竜の下に、通常種の竜がいる。

 通常種の竜にも序列があり、最下位の竜はワイバーンとよばれる。


 そのワイバーンですら、Aランクの魔物を瞬殺できるほどの力を持つ。


 この世界において、竜は魔物の頂点に君臨する種族なのだ。



「ククルカ、そんなにリュカを怒らないでほしいの。断るリュカを、私が無理やり背中に乗せてきたの」


「白亜様が、そうおっしゃるのであれば」


 ふっ、とククルカからリュカに向けて放たれていた殺気が消えた。


「それに、リュカは私と同じ白竜に()()()の。だから私と、ほとんど同格なの」


 ドラゴノイドが竜化することを、竜族は『竜に戻る』と言っていた。


「そ、それは、そうなのですが──」


「あとね、今は私もリュカも家族なの。同じヒトを旦那様にしたの。だから私とリュカの立場は、たいとーなの」


「……は、はい?」


 ククルカは、白亜の言葉を聞いて固まった。


「お母様、ご報告が遅れてすみません。この度、私は人族のハルト=エルノールさんと夫婦の契りを交わしました」


「じ、人族!? リュカ、自分の役割を忘れたの? アナタは竜の巫女なのよ。()()()()()()──」


「ククルカ、それ以上の発言は気をつけた方がいいの。いくらリュカの母でも、ハルトを見下す発言は許さない」


「──ひっ!?」


 リュカとリューシンの父、リューデンほどではないが、ククルカもドラゴノイドの中ではかなり強く、里長に選ばれるほどの実力者であった。


 そのククルカが、恐怖で動けなくなる。


 可愛らしい少女の姿をした白亜が、その見た目からは考えられないほどの冷たい殺気を発していたからだ。


「白亜様、すみません。殺気を鎮めてください。里のみんなが、恐怖してしまっています」


 白亜がククルカに向けて発した殺気は、ククルカだけでなく里にいる全員に死を想像させるほどの恐怖を与えていた。


「うぁ、ちょっとやりすぎた。ごめんなの」


 白亜の殺気がおさまる。

 それと同時に、ドラゴノイドの何人かがその場で気を失った。


「お母様、私はしっかり竜の巫女としての務めを果たしました」


「それは、どういう意味?」


「ハルトさんは完全竜化したリューシンを、殴って倒しました。そのハルトさんと、私は結婚したんです」


「リューシンが完全竜化? そんな……早すぎる。い、いや、それより、完全竜化したリューシンを倒した? そんなわけない。だってあの子は──」


「リューシンは黒竜になりましたよ。立派でした。ですが、ハルトさんはそのリューシンを、拳ひとつで吹き飛ばしたのです」


「なっ!?」


 色竜の中でも最も攻撃力が高く、凶暴な竜──それが黒竜だ。


 そんな黒竜に完全竜化した息子が、人族に倒されたなど、ククルカが信じられるはずがなかった。


「ちなみに私も、ハルトには勝てないの。だから、ハルトに敵対しちゃダメだよ。これは私からの忠告」


「そ、そんな……えっ、では白亜様がそのハルトという者と結婚されたというのは、事実なのですか!?」


「うん。リュカも一緒に、なの!」


 そう言いながら、白亜はリュカの腰に抱きついた。



 ──***──


 白亜とリュカは、里の最奥にある(ほこら)の前まで来ていた。


 竜族とドラゴノイド族の信仰の対象──竜神が祀られた祠だ。


 この祠の周囲には強力な結界が張られており、普段は竜族であっても近づくことができない。


 竜神の加護を受けた竜の巫女がいる時のみ、祠の側まで来ることができる。


「白亜様って、竜神様とお知り合いなのですよね?」


「うん。私は赤竜のおじちゃんに、戦い方とか教えてもらったの」


 竜神は、神ではあるが神族の中では地位が低い。


 竜神を信仰するドラゴノイドと竜族の数が少ないのが原因だ。そのため、神であっても希に存在が消えることがある。


 そして竜神が消えると、創造神によって次の竜神が竜族の中から選ばれるのだ。


 竜神は神族としては珍しい、代替わりする神であった。


 そして現在は、白亜の知り合いであった赤竜が竜神となっていた。


「竜神様、顕現していだたけるでしょうか?」


「どうだろう? 私たちのお話、聞いてくれるかな?」


 リュカと白亜は、分身魔法のヒントを探すためにここにやってきた。


 竜族やドラゴノイドは長寿の種族だが、記憶力が良いせいで、基本的に書物を残すようなことをしない。


 そのため、ふたりが分身魔法のヒントを探すとなると、本を探すのではなく、魔法に詳しい竜やドラゴノイドに直接話を聞かなくてはならないのだ。


 白亜は分身魔法の存在を知らなかった。

 となれば、白亜以上に長くこの世界に生きている竜の話を聞くしかない。


 しかし色竜は個体数が少なく、白亜ですら仲間がどこに生息しているのか、把握していなかった。


 そこで思いついたのが、リュカと一緒に竜神の祠に来ることだ。


 竜神の祠からなら、かつての知り合いであった赤竜に声をかけることができる。


 そう思い、ここにやってきた。


「とりあえず、おじちゃんを呼んでみるの!」

「そうですね。やるだけやってみましょう」


 リュカが、魔法学園のローブを脱いだ。

 全裸になった彼女の身体が光り出す。


 彼女の身体に点在していた白い竜の鱗が、少しずつ大きくなり、彼女の身体を覆っていった。


 リュカは、まるで純白の巫女装束を纏っているかのような姿となった。


 その彼女が、透き通るような声で神に呼びかける。


「竜神さま、リュカです。お尋ねしたいことがございます」

「おじちゃーん! ちょっとでてきてほしーのー」


 リュカに合わせて、白亜も祠に向かい声をかけた。


 正装を纏った竜の巫女と、最上位の竜である白竜の呼びかけで、竜神を祀った祠が輝き始めた。


 そして──


「リュカ、それに白亜か。懐かしいな」


 真っ赤な髪と瞳のイケメンが現れた。

 竜神である赤竜が、人化した姿だ。


「竜神様」


 リュカは竜神の前に膝を突いた。


「おじちゃん、お久しぶりなの!」


「あぁ。ふたりとも元気そうで何よりだ。リュカ、学園はどうだ? 良い相手は見つかり──ん?」


 リュカたちに話しかけていた竜神が、あることに気付いた。


「なにか……お前たちから、懐かしい匂いがするな」


「に、匂い、ですか?」

「私、匂うの?」


「いや、普通の匂いではない。なんというか、これは、魂の匂いだ」


 竜神はこの匂いが嫌いではなかった。


「そうだな……ありえるはずがないのだが、お前たちから俺が昔、負けた勇者の魂の匂いがするのだ」


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