家族紹介(?)
目の前に創造神様がいる。
俺が以前に会った時と変わらない、優しそうなおじいさんの姿だった。
「お久しぶりです、創造神様。俺、転生して戻ってきました。この世界に」
「そのようだな……儂の子が、悪いことをした」
「創造神様の子? 邪神様のことでしょうか?」
「そうだ。アレがお前を、無理やり転生させたのだろう?」
俺は女の子を助けようとして、車に轢かれて死んだ。その女の子は邪神が俺を殺すために創り出した幻影だった。
確かに、最初は邪神を恨んでいた。
「死ぬのは怖かったです。でも今は、そこまで邪神様を恨んでいません。この世界に来ることができて、本当に良かったと思ってますから」
「ほう……それは、お前の後ろにおる者たちが関係しておるのか?」
創造神様に言われて後ろを見る。
ティナ、リファ、ヨウコ、マイ、メイ、メルディ、ルナ、白亜、それからシロが俺を見ていた。
「はい! 俺の、自慢の家族です」
「家族ができたのか……では、この世界で生きていくつもりなのだな」
「そのつもりです」
元の世界に戻りたくないわけではないが、その世界の俺の身体は既に火葬され、葬儀とかも終わっているはずだ。
それに俺は、ティナのそばにいられる今が、最高に幸せだった。
色々あってティナ以外にも家族が増えてきたが、俺はみんな大好きだ。だからみんなとずっと一緒にいたい。
この世界で生きていくことは、かなり以前から決めていた。
「しかし、ハルトよ。お前の家族……その、少し特殊じゃないか?」
「んー、そうですか?」
「まぁ、エルフふたりと獣人の娘はまだいい。人族とエルフや獣人が添い遂げることも最近は増えてるからの。本当にティナと一緒になったのには驚いたが」
創造神様は俺が戻ってきて、ティナを好きになると宣言したことを覚えていたようだ。
創造神様がヨウコの前に移動した。
「お前、九尾狐だろう? しかも魔力を見る限り完全体になっておるのに、なんで暴走しないのだ?」
「そうじゃ、我はヨウコと申す。暴走せんのは主様とシロが、邪悪な意志を含まぬ魔力をくれたおかげなのじゃ」
ヨウコはその尻尾に魔力が溜まり、完全体になると暴走して世界に破滅をもたらす九尾狐という魔族だ。
九尾狐の討伐のために、創造神様が勇者を転移させたこともあるという。つまり、完全体の九尾狐は魔王と同レベルの災厄扱いなのだ。
「シロ……シロとは、もしや──」
「我のことです。創造主」
我が家のペット的存在であり、俺の肩の上をお気に入りのポジションとしている白い子狼のシロは、フェンリルという神獣だ。
「フェンリル……お前、なんで起きておるのだ?」
本来、神の使いである神獣は人間界の各地で眠りについている。そして神からの指令があった時、起きて神のために働くのだ。
「ハルトに起こされたのです。あぁ、それから、我はハルトにシロと名付けられましたので、今後はシロとお呼びください」
最初は俺の付けた名前に文句を言ってたが、今は創造神様にそう呼べと言うほど気に入ってくれているようだ。ちょっと嬉しい。
「そうか、なかなかお前に似合った名ではないか。良かったな、シロ」
「はい! それから……あの、我はもうしばらくハルトの家族でいたいのです」
シロは創造神様に会うことで、眠りにつかされるのではないかと心配していた。
「シロがそうしたいのなら好きにするといい」
「感謝します。創造主」
創造神様に許しをもらったことと、名前を呼んでもらえてシロは嬉しそうにしていた。
「さて、いつの間にか儂の神獣すら家族に取り込んでおったことも驚いたが……こちらのお嬢さん方は精霊王ではないのか? そなたたちもハルトの家族なのか? それから儂、精霊王が代替わりしたとか聞いてないのだが」
創造神様がマイとメイの存在に驚いていた。
「「私たちもハルト様の家族です」」
「精霊王の代替わりはしてません。その、なんて言うか、魔力を渡しすぎたら彼女たちの存在の格が上がってしまったようです」
「人族ひとりの魔力を受け取ったくらいで、精霊が精霊王級になれるなど信じられん……それが、アイツの呪いの効果か」
アイツとは、もちろん邪神のこと。
「はい。邪神様からステータス固定の呪いを貰いましたので、俺には無限の魔力があります」
ずっと確認したかったことを、創造神様に聞いてみることにした。
「創造神様が下さった加護で、邪神様が呪いの種類を間違えたのだと思うのですが、違いますか?」
勇者として世界を救った時、またこの世界に戻ってくると宣言した俺に、創造神様が加護を下さった。
俺はその加護の効果で、邪神が呪いをかけ間違えたのではないかと推測していた。
「儂がハルトに与えた加護は『幸運』だな。神が与える加護としてはありふれたものなのだが……どうやらお前の場合、最も重要な場面で最大限の効果を発揮したようだの」
創造神様が言うには、俺にかけられた呪いは創造神様でも解呪できないレベルのものだそうだ。
それほどまで強力な呪いをかけるのに、邪神がミスをするとは思えない。そのありえないはずのミスを、創造神様がくれた加護が引き起こしてくれた。
そのおかげで俺は今、ここにいる。
「お前はただの人族に見えるが……魂の輝きが儂の世界の者と少し違う。転生者か?」
創造神様が今度はルナのもとへ移動した。
「はい。私もハルトさんと同じ世界からやってきました。ルナといいます」
「ふむ。ルナよ、お前は神語で書かれた文字を解読したと聞いておる。もしや、お前を転生させたのは元の世界の知識を司る神か?」
「そうです。私は女神様に転生していただく際に、言語理解というスキルをいただきました」
そのスキルのおかげで、ルナが遺跡のダンジョンの石碑に記された文字を読むことができた。その結果、俺は記憶を取り戻すことができたのだ。
「この世界にも言語理解というスキルはあるが、神語を読めるほどのものではない。お前たちの世界の神は、よほど力があるようだ」
へぇ、そうなんだ。
まぁ、七十億人が様々な言語を使う世界だから、神様が言語に関する力をつけていても、おかしくはない。
とにかくルナのスキルが、この世界ではかなり貴重だということがわかった。
「さて、最後に気になるのはお前だ白亜。なぜハルトたちと共におるのだ? まさか、お前までハルトの家族になったとかは言わんよな?」
「わたし、ハルトのお嫁さんになるの!」
「ブッ!?」
思わず吹き出してしまった。
遺跡のダンジョンから魔法学園の屋敷に帰った時、白亜もついてきた。
ダンジョンの管理もあるので、すぐに帰ると思ったのだが、今日までずっと俺たちと一緒にいた。その間、俺と結婚したいなどと言ったことは一度もなかったはずだが……
「ハルトさんのお嫁さんになれば、ティナのご飯がずっと食べれるの。幸せなのー!」
あぁ、そういうこと。
なんか、俺が好きだから結婚したいとかではないらしい。そういえばエルノール家には、ティナのご飯に釣られて俺の家族になることを決めたヤツらが他にもいた。
猫系獣人娘のメルディと、神獣のシロだ。
彼女らは主にティナのカレーに釣られて、エルノール家に居候するようになり、そのまま俺の家族になった。
メイド(極)というスキルを持ったティナの料理は、異種族や神獣すら虜にするのだ。
ドラゴンである白亜も、ティナのご飯の誘惑に勝てなかったようだ。
「救世の英雄に、エルフの王族、獣人の王族、災厄級の魔族、精霊王級がふたり、チート持ちの転生者、上位のドラゴン、そして神獣……ハルト、儂も長いことこの世界を見てきたが、ここまでの力を集めた者は未だおらんぞ」
集めようと思って集めたわけじゃないんですけどね。なんか、自然と……
でも、創造神様に言われるくらいだから結構凄いことなんじゃないかと思う。
そんなことを思っていたら、創造神様が俺に近づいてきて──
「ここまで色んな者たちが集まっておるのだ。もうひとりくらい増えても構わんだろう?」
「……はい?」
創造神様が耳打ちしてきたのたが、その意味が分からなかった。
「実はな、お前に押し付け──いや、任せたい者がおるのだ。そいつも嫁にもらってくれぬか?」