猫娘 vs 元獣人王
武神武闘会準決勝で、リューシンに勝利した。
黒竜と化したリューシンだったが、弱点である光属性魔法で強めに殴りまくったら簡単に気を失った。
まぁ、完全竜化できたことで少し調子に乗りかけていたので、いい薬になっただろう。
俺が賢者ルアーノから学ぶことがあるように、上には上が居る。それを意識して、常に己の研鑽に励まなくてはいけない。
気を失ったリューシンは人の姿に戻っていた。今回のように感情の高ぶりで完全な竜化をすると、ヒトに戻れなくなることがあるという。
偶然とはいえ、元の姿にちゃんと戻れて良かったな。
時間をかけて完全竜化した竜人は、問題なくヒトの姿に戻れる。そして、感情の高揚によって竜化したとしても、一度元の姿に戻れれば、その後の心配は要らなくなるのだ。
「ハルトさん、リューシンを止めてくれてありがとうございます。それから元の姿に戻してくれたのも……本当にありがとう」
リュカに感謝された。
完全竜化できたとしても、ヒトの姿に戻れなければその後の生活などが不便になる。もちろん魔法学園には今後、通えなくなる。
完全竜化したリューシンには暴走の兆しが見えていた。それを俺が止めたので、リュカがお礼を言ってくれたのだ。
「ううん、それよりリューシン回復してあげて。必要だったらエリクサー渡すよ」
俺より優れた回復魔法の使い手であるリュカが居るので、俺はリューシンの回復をしていなかった。
「ありがとうございます。竜化した後は自然治癒力が上がるので、回復にそこまで魔力を使いません。なので、エリクサーは不要です」
リュカはそう言って軽く俺に頭を下げ、担架で運ばれていくリューシンに付き添って会場を出ていった。
「ハルト、うちとやる時は覇国と炎の騎士以外も禁止でお願いするにゃ」
リューシンが運ばれていくのを見ていたら、メルディが話しかけてきた。
「いいけど……メルディはまず次の対戦で、レオに勝たなきゃな」
準決勝、第2試合はメルディと、この国の元王様で、メルディの父であるレオの対戦だった。
「魔法を毛嫌いするお父様に、魔法の有用性を身を以って体感させてやるにゃ! 物理職の限界ってやつを思い知らせてやるにゃ!!」
「あっ、いや、レオは──」
俺は言葉を途中で止めた。
メルディは仲間だが、過度なアドバイスはするべきではないと思ったからだ。
負けて自分で気付くことも大切だと思う。
そして、メルディは闘技台の上へと上がっていった。
──***──
メルディとレオの対戦が始まった。
開始早々、ふたりは超高速で互いに突っ込んていき、闘技台の中央で殴り合いを始めた。
拳の一振で風が巻き起こる。
そんなレベルのパンチの応酬が繰り広げられていた。
メルディは圧倒的な速度で、レオの猛攻を全て躱していた。
対してレオはその驚異的な防御力で、メルディの拳を真正面から全て受け、耐えていた。
ただの親子喧嘩のはずなのに、レベルが高すぎる。
十数秒間、レオに百ほどの拳を叩き込んだメルディが、サッと身を引いた。
「か、硬すぎにゃ」
「お前は速いな。さすが、我が娘だ。しかしメルディ、お前の力では我にダメージを与えることなどできんぞ?」
レオの言う通りだ。
メルディの攻撃は当たっているがレオに効いていない。
一方で、レオの攻撃が一発当たればそれだけで、メルディは戦闘不能になる恐れがあった。
「そんなこと、言われなくても分かってるにゃ。これからが本番にゃ!」
メルディが魔衣を纏う。
そしてその魔衣に炎の属性を与えた。
魔衣と魔法の威力が上乗せされたことで、メルディの攻撃力は格段に向上している。
「覚悟はいいかにゃ? 魔法の力を舐めたこと、後悔するにゃ!」
メルディがレオに高速で飛びかかる。
移動速度も段違いに上がっている。
魔法で強化されたメルディの攻撃がレオに当たればダメージが入る。
一方で、更にスピードの上がったメルディにレオの攻撃は当たらない。
戦況はメルディ優位に傾いた。
──わけではなかった。
「にゃ!?」
先程まで、攻撃をただ受けるだけだったレオが、メルディの拳をがっしりと受け止めたのだ。
レオは風と電気を纏っていた。
魔衣に風と雷の属性を与えている。
その姿に驚くメルディに、レオの拳が叩き込まれた。
「ふぎゃ」
メルディはゴロゴロ転がりながらも、何とか体勢を整え、闘技台から落ちるのを防いだ。
「ど、どうなってるにゃ? なんで、お父様が魔法を纏ってるのにゃ!?」
信じられないという表情のメルディに悠々と歩み寄りながら、レオが話しかけた。
「メルディ、お前は俺が『魔法の有用性を分かってない』、『魔法を舐めている』──そう言ったな?それは違うぞ。今、この国で誰より魔法に精通している獣人は賢者である、この我だ」
「は?」
メルディが固まる。
会場もザワついた。
「な、何を言ってるにゃ? お父様が賢者? そ、そんなわけないにゃ!!」
「証拠を見せよう」
レオが手を空に掲げると、巨大な魔法陣が出現した。
「アルティマサンダー!」
「──っ!?」
範囲を絞った雷の究極魔法がメルディを襲う。
メルディは魔衣で脚を強化し、ギリギリのところでレオの魔法を避けた。
どうやらメルディはここまでだ。
レオはメルディが逃げられるように、わざと究極魔法をズラして撃ったのだ。
メルディが逃げた場所に、レオが待ち構えていた。その拳には完璧な魔衣が纏われている。
「楽しかったぞ。メルディ」
レオの、自分の娘への容赦ない一撃により、メルディは観客席の下の壁まで吹っ飛ばされた。
俺はメルディと壁の間に移動し、メルディの身体を受け止める。
メルディは気を失っていた。
派手に吹っ飛んだ割には、怪我はしていなさそうだ。とりあえずヒールをかけておく。
──こうして決勝の相手は、元獣人王で賢者のレオになった。
武神武闘会なのに、決勝が賢者 vs 賢者になってしまったのはいかがなものか。
まぁ、でもメルディの敵討ちって感じになるのかな?
頑張らなきゃ。
ただでさえ種族ステータスによって攻撃力が高く、スピードが速い獣人が魔法を極めて賢者になっている。
レオは魔法発動速度もかなり早かった。
さて、どうやって戦おうか?
俺は決勝に向けて、自分の手駒を確認し始めた。