訓練、訓練、また訓練
「ファイアランス、ファイアランス、ファイアランス、ファイアランス、ファイアランス、ファイアランス、ファイアランス、ファイアランス、ファイアランス!!!」
ティナが買い出しで街に出かけている時、俺はひとりで訓練場に籠ってひたすら魔法を打ち続けている。練習するのはティナにはじめて教えてもらった魔法だ。
いちいち詠唱しないとダメなのが辛い。連発するにしても息継ぎの問題で十回前後が限界だ。そして『ファイア』などと省略するのもできないということが分かった。ちゃんとした槍形状にならず、飛距離も伸びない。詠唱にはちゃんと意味があるみたいだ。
高レベルな魔法使いになれば詠唱破棄という技術が使えるようになるらしい。それには魔法を何百、何千と撃って、その魔法のイメージと効果を脳裏に焼き付けなきゃいけないという。
だから俺はティナの目を盗んで、出来る時はひたすら魔法を打ち続けていた。
そんなある日──
「よし、集中。イメージして」
強く、強くイメージする。
その軌道を脳内で何度も描く。
目を閉じ、空に手を掲げた。
「行くぞ」
(ファイアランス!)
口に出さず、頭ではっきりと詠唱した。
「で、でたっ! できた!!」
それはイメージしたものとは程遠い、か細い魔法だった。飛距離もなく、的まで半分も届かないくらいの場所で消えてしまった。
でも俺は確かに魔法を詠唱せずに発動させることに成功したんだ。
元居た世界で読んだ漫画には、強い技を詠唱破棄で使うことで敵に『なん、だと……?』って言われるシーンが描かれていた。アレがどうしてもやりたかったんだ。
もちろん、この世界でもそれができればすごいこと。ちゃんとレベルを上げて賢者に至ったヒトでも、魔法名すら唱えない完全詠唱破棄が使える存在はほとんどいないらしい。
ちなみに理由は明白で、完全詠唱破棄は非常に効率が悪いんだ。魔力効率が悪く、威力も低くなる。失敗して発動しないリスクも高いし、発動までに時間もかかってしまう。
良いことがほとんどないんだ。
そう、ほとんど。
何も良いことが無いわけじゃない。
例えば口を何かで縛られちゃった時とかには有効だ。
この世界の魔法使いは詠唱しないと魔法が使えないヒトがほとんどなのだから、声さえ出ないようにしておけば簡単に無力化できてしまう。その対策もいろいろあるとティナから教えられているけど、いざという時に完全詠唱破棄で魔法が使えるって言うのは、いつか役に立つかもしれない。
魔法を放つ速度を上げるための練習に加え、詠唱破棄で魔法が使えるようにすべく──
「ファイアランス、ファイアランス、ファイアランス、ファイアランス、ファイアランス、ファイアランス、ファイアランス、ファイアランス!!」
俺は今日も魔法を打ち続ける。