王座奪還前夜祭
(坂城SIDE)
ガタゴトと音を鳴らしながら列車がゆらゆら揺れている。僕たちが乗車しているのは電車ではなくて客車なので、車内にはモーターの音は聞こえてこない代わりに、鉄の車輪と鉄のレールがぶつかり合う音が静かに響き渡っている。
これから、どんな世界にいかされるのかという不安にオロオロしているので寝付けない。なので、上段にいる霧ヶ峰にでも話しかけようと上段に行くためのはしごに足をかけたが寝る前の一言を思い出したので躊躇することとした。
「先輩、全部見えてますよ」
まずいところを見られてしまった。
「さすがに先輩が、そういうことをする人だとは思ってましたけど思ってませんでしたよ」
何言っているがわからないが、褒められているわけではないだろう。
「あの、その、これは、あなたに手を出そうとしたんじゃなくてね、その……」
霧ヶ峰は、ため息をつき、
「上に上がらないでくださいといった理由は、それではなかったんですが一応。先輩はそういうことを考えていたんですね」
「ってそういうことじゃなかったの?」
霧ヶ峰は鼻で笑っているのがわかった。どうやら僕はカマをかけられたみたいだ。
「冗談ですよ。先輩がそんなことする度胸がないことくらいわかってますって。それで、どうかなさったんですか?」
霧ヶ峰が起こっていなかったようで胸をなでおろす。
まったく、ヒヤヒヤしてしまうよ。
「そのさ、眠れなくて」
「そうですか、まあ私もそんな感じでしたよ。急に異世界に行くことになってしまいましたからね」
「ん?霧ヶ峰に取っても急だったの?」
「はい。異世界から呼び出しがあったのは急な話でした。私が部室に行く直前の話でしたからね」
それはとても意外だった。霧ヶ峰はずっと前から僕を異世界に行かせることを企んでいたのであると思っていたのだがその考えは間違っていたようだ。だとしたら、なぜ霧ヶ峰は異世界から呼び出しをされたのだろうか。
「なんって言えばいいかな。霧ヶ峰ってその、生まれは以前僕たちがいた世界なの?」
「はい。私は普通のどこにでもいる学生でした。しかし、ある日を境に普通の学生ではなくなり、現在のように異世界から交信を受けるような身になりました」
「どういう意味?」
全く意味がわからない、異世界から交信を受けるような身ってどういうことだ?
「私が、異世界からの交信を受ける能力を授かったのは1年前のことでした。中学三年生の頃にふと異世界と交信することができる能力がいきなり芽生えたんです。最初は何が起こっているのか全くわからず。とても不安でした。異世界自体は小説とかアニメの影響で憧れていたんですけど、実際その異世界が身近になるというのは不気味なものでしたね」
1年も前からそんな能力を持っていたのか。その不安というものは実際に自分が経験したわけではないのでその具合がよくわからないのであるがとても心理的に負担はあったのであろうと察する。
「話は変わるけどどうして文芸部に入ろうと思ったの?」
「それは、その。異世界が身近になったので面白い話が書けるかなと思いましてね。あと、異世界に興味がある人とかもいるかなって」
以外と異世界についてまだ好意的な感情を持っているようだった。
「なるほどね。これから一緒に暮らす異世界、仲良くしようね」
「そうですね。はい。」
霧ヶ峰は笑いながらそう言ったのであった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
星空空間なので、夜が明けたという感覚はなく、車窓から見える景色は一面の星空であるのだが、車内放送の車掌のアナウンスによると朝を迎えたようだった。
「先輩、おはようございます」
いつの間にか寝巻きから、昨日着ていた制服に着替えた霧ヶ峰が降りてきた。
「ああ、おはよう」
「朝食を食べに行きましょう。食堂車は7号車です」
「うん。行こう」
支度をしたのち僕と霧ヶ峰は食堂車に向かった。朝食の内容は、ごく普通の洋風の朝食といった具合だ。あと、紅茶があった。
「あ、以外と普通な感じなんだね。さっきの売店を見たときはびっくりしたんだけど」
「先輩が、あのようなメニューがお嫌いということでしたので昨日のうちに手配しておいたんですよ」
「あ、そうだったんだ。どうもありがとう」
何か違和感がある。しかし、その違和感がどんなものなのかがよくわからなかった。
「あと、1時間ほどで到着します」
霧ヶ峰は淡々というのであった。
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列車がいつの間にかトンネルに入りしばらくするとトンネルを抜け、車窓が明るくなった。
「先輩、これが異世界ですよ」
「以外と変わらないもんだね」
「まあそうですね、私たちがいた世界と自然環境はほとんど変わりませんからね」
霧ヶ峰によると、この世界は僕たちが以前いた世界では起き得ない現象が若干ながら発生するといったこと以外たいした差はないようだ。ちなみに、王が支配しているようないかにもな異世界である部分は期待を裏切らないようである。
僕らを乗せた列車は駅に停車したのでホームに降りることとした。
駅前の街を見てみるとだいぶ埃っぽくごちゃごちゃした街並みでお世辞にも綺麗とは言いがたいものであった。
「ここから歩いて6時間ほどかかる王都まで歩きますよ」
「歩くの?」
「はい」
「6時間?」
「そうですね」
「他に交通手段は」
「もちろんありません」
異世界というんだから車がないとしても馬車とか竜車とかがあってもいいような気がするんだけどこの世界にはないようだ。だいぶ文化レベルが遅れているんだなあ。
ということで僕たちは歩いて王都に向かうこととなった。
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一方その頃、桜柳は、王都に到着した。
「僕とペンシルとロイドで王をなんとかするから、ペンシルはこの車の中で異常がないから見張っていてほしい」
「かしこまりました!ご主人様」
ルームは自信満々な表情で答えた。
「警備が甘くなる夜を狙って突撃する。昼間のうちはここから屋敷までの地下通路を作るよ」
「地下通路って、まあご主人様なら簡単に作れますよね。あの隠れ家をつくった時みたいに」
「ああ」
そうして三人は掘削機をミツマタで作り、地下通路を掘り始めた。




