ゼロからの再出発
レールのつなぎ目のガタゴトとした音のリズムが一定で僕とペンシルの間の空気に不気味さを与える。
「なあペンシル、この列車ってどういう人が乗る列車なんだ?」
「死んだ人が異世界へ転生するための列車です」
ペンシルは暗い表情で言った。
「そういうことか」
窓の外の車窓を見てみると、そこは真っ黒い世界が広がっている。ロイドが作るダークマターを思い出すような黒さだ。
先ほどルーフ・ベルファに射殺されて殺害された俺とペンシルが同じ列車に乗れたことが不幸中の幸いなのだろうか。一人でも知っている人がいて安心だ。
「俺たちはどこに連れて行かれるんだろう」
すると、車掌がやってきた。帽子を深くかぶっていて表情がよく見えない。非常に暗い雰囲気をしている車掌だ。
「切符を拝見いたします」
切符だと?!俺はこの列車に乗るために乗車券の類を買った覚えはない。
「切符を拝見」
車掌がしつこく迫るので、いつも電車に乗るときには、ワイシャツの胸ポケットに切符を入れているのでそこに手を突っ込んだ。すると、そこには硬い感触。昔の硬券と呼ばれる切符が2枚入っていたので車掌に差し出した。
「確認いたしました」
切符には理解不能な文字が並んでいたので読めなかったが、この列車の切符を持っているようなので、車掌は入鋏してくれた。
「ご乗車ありがとうございます。到着までもうしばらくかかりますがごゆっくり」
車掌はそう言い残して俺たちが乗っている客車をさっていった。
「ペンシル、これなんてかいてあるかわかるか?」
「これは……元居た世界に行ける切符ですね。ただし、時空平面が以前と違っています。以前よりも前の時空平面に行くきっぷになっています」
ペンシルの発言には時空平面という言葉があったが、一発で理解することは当然できなかった。
「時空平面?」
「私たちが以前いた時空平面A839634番でした。私たちがこれから連れて行かれる時空平面はA364114番です。まだご主人様がこっちの世界に転移する前の時空平面です。以前私たちがいたA839634番から私たちの存在はなかったことにされ、私たちはA364114番の住民になることになります」
ペンシルはメモ用紙と万年筆を取りだし図を書いて説明した。
斜めの線を2本書き、上の線から下の線に移動したということを説明した。
つまり、依然過ごしていた時空平面と、これから行くことになる時空平面に連続性がないので、ゼロからやり直しになるということらしい。
「A364364番のルームとロイドはどうなるんだ?」
「それはわかりかねますが。そうですね、私とご主人様の存在はなかったことにされています」
「そうか」
「ただ、A364114番にもルームはいます。ちょうど、最初にルームと出会ったときのルームに会うことができます」
「なるほど」
列車は徐々にスピードを落とし、駅に到着した。以前ここへ来た時と様子はほとんど、いや何一つ変わっていない。そのまま過去の世界にきたということらしい。
ペンシルとともに改札を抜け街に出た。
石畳の道路にレンガ造りの建物。何もかもが以前と変わらない。その辺を歩いている人もどうも貧しそうな雰囲気が漂っているので、あの王がまだ支配しているのだろう。ああ忌々しい。忌々しい。
「ペンシル、ルームを探すか?」
「そうですね」
俺の記憶が正しければ、裏路地にルームはうずくまっているはずだ。
薄汚い裏路地を探すこと30分。ようやく、それらしい人が見つかった。紫髪で、ぼろぼろの布切れのようなみすぼらしい服を着て、裸足で、ざっくばらんに切れた紫髪の長髪の少女に声をかけた。
「きみはルームかい?」
すると少女は丸い目をさらに丸くして驚きを隠せないような表情をした。
「なぜ私のことを知っているんですか? もしかしてあの雇い主の手下ですか? 私はもうあんなところで働きたくないんですぅ?」
「僕はあの暴力が趣味の雇い主とは全く関係ないよ。君を未来から助けにきたんだ」
「未来?」
「まあそのうち理解するさ。あ、ちょっと待ってね」
ポケットから一万円札を取りだし、ルームの姿を戻した。
「なっ? なにするんですか?」
「ほら、鏡だ。これで見てごらん」
恐る恐るルームは鏡を見た。
「うっ、うっ、私がこの姿に戻ることができるなんて……実は私、5年くらい前に両親を亡くし、街をさまよって新しい仕事を見つけたのですが、運悪くその雇い主は暴力を趣味とする人で、私のことを暴行しつづけ、このような姿になってしまったのです。まちがえなく、5年前の私の姿です」
感動のせいか、ルームは涙を流していた。
「俺はこのセルフを以前に君から聞いたよ。全く同じセリフをね。君との思い出を君に復元できるといいんだけど」
もう屋敷での記憶も、車をつくってドライブした記憶も、王を倒した記憶ももはやルームの記憶からはなくなっている。いや、もともと存在しなくなっているのだ。
「ご主人様、ミツマタって記憶は操作できないのでしょうか?」
「ペンシル!その手があったか!さすがはペンシルだ。君は天才だよ」
そう言ってペンシルの頭をなでると、顔を赤くし、
「ご主人様ほどではありませんよ」
といった。
そして俺はミツマタで記憶をインプットするための機械を作り上げ、以前のルームと記憶を同期させた。
するとルームは、
「ごっ、ごっ、ご主人様ぁー。私とても寂しかったです。どうでしたか?ルーフ・ベルファは? それとここは……まさかご主人様!」
「そう、俺とペンシルはルーフ・ベルファに殺されて過去に飛ばされてしまったんだ。すべては俺の不注意でね……」
「そんな……ご主人様!逆襲しましょうよ!こんな仕打ちはひどすぎます!」
「ご主人様、私も同感です。ルーフ・ベルファは全く反省していなかったようですし」
「ああ。絶対にあいつを懲らしめてやる」
そして、ベルファを始末することを決心したのであった。
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