表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鋼鉄の復讐  作者: 珠旭 柊月
第一章
3/3

日常

 それは日が上がるかどうかという時間帯。春先の朝は日が昇るには遅い時期で、時計の針は五時半を指し示していた。場所は寝室カーテン越しに覗き始めた淡い光がその部屋を染め始めた。まるで季節の空気を表しているかのように。そして、その静寂の中不意に布団が捲れ上がった。


「ハァッ、ハァッ、ハァッ」 


 あの悲劇から1年半、少年は高校へと入学する時期になった。しかし、そのトラウマは未だ少年の体を蝕んでいるのだった。PTSD、正式名称は心的外傷後ストレス障害。1年半前のあの事件は今尚彼の夢に悪夢と言う形で頻出する、まるで何かに急かされる様に。彼曰くその夢を見ない日はない、そうだ。

 

 それは今朝も例外ではないらしく、冷や汗は背中を伝い、心臓は早鐘を打ちそれに合わせて息は乱れる。非常に最悪かつ不愉快極まりないものではあるが、一年半という時間の経過に伴う慣れによって成せる業なのだろうか、深呼吸を数回行うことでそれらすべてを多少でも落ち着けると立ち上がり、部屋を出る。


 薄暗く静まり返ったリビングを抜けぎこちない足取りで風呂場へと向かい、汗で湿った服を洗濯機の中に放り込む。ドアを開け中に入れば明け方特有のひんやりとした空気が、頭の整理しきらない彼を出迎える。


 蛇口を捻り、シャワーから水を出す。冷水からお湯へと変わるまでのほんの少しの時間、今日の朝ごはんは何を作ろうか、なんてぼーっと考えているといつの間にか湯気が立ち始めようやくシャワーを浴びる。数多の水粒が彼を叩き、体がようやく温まり始めたころ、漸く彼の中に燻っていた悪夢の残滓が漸く掻き消える。


 彼は、母親を失ってから毎朝こんな生活を送っている。そして、落ち着きと共に訪れる溜息をいつもの様に零しながら考える。


「母さんが死んだのは事実だ、でもあれは夢だったのだろうか。」


 と、いつもと違い頭で考えていたことがポロッと口から飛び出す。


 めずらしい事もあるもんだ、なんて他人事の様なことを考えながら風呂場を出て体を拭き、近くの棚から替えの下着を身に着けるとリビングへと向かい、昨日のうちに準備しておいた制服を着る。


 数日前に始業式を終え高校生活をスタートしてから数日休みの日以外は前日に用意した制服をリビングに置いておくことにしている。これを身に着けてから料理をするのが最近の朝のルーティーンだ。


 朝食の支度を済ませ、テレビの電源を入れるとエンタメ番組がはじまる。コメンテーター達の喧騒と共に始まったそれは次の報道内容で静まり返る。連続殺人事件についてだった。


「今日、19日未明東京都エリア1東地区にて男性の遺体が発見されました。遺体は損傷が激しく、エリア1東地区警察本部によりますと強酸性の化学薬品によって体の各所が溶かされた形跡があるとのことです。それに伴い未だ身元は判明しておらず、同様の事件はこれで17件目になるそうです。」


 報道が伝わるとコメンテーター達が、次々に批判と見解を口にすると議論は白熱していき、きりの良い所で司会が区切りを入れると即CMが始まる。


「こんな猟奇的な連続殺人事件が起きるなんて世も末だな。」


 最近ではこういった猟奇的な事件が多発している。それも数種類の事件が頻発しておりそのどれもが未だに解決の糸口すらないといった状況である。これが2074年の日本における現状、そして日常である。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ