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幕引き

 

 ――何か、何か打つ手はッ――


 俺は必死に頭を巡らせていた。


 競合相手がシュミット伯爵だけな以上、どれだけ付加価値を付けようと値を吊り上げることは出来ない。

 ……諸侯が無理なら他の小領主にでも売り込むか?

 否――それだと軍事的脅威は少なくなるがそれに比例して財力も落ちる――大した金額は引き出せない――


 そこまで思考した所で、ある事に気が付いた。


 そうだッ!――何も本当に売り込む必要はない――要は伯爵が競合相手に成りえると認識してくれればそれでいいんだ。


 ならば――


「――何処よりも先に、閣下に敢えて一万グル(約二十億円)という〝破格〟の金額を提示している意味を考えて頂きたい」

「……ほう」


 これは事実だ、少なくとも俺は吹っ掛けたつもりは無かった。

 ――前世は只の高校生だったこともあり、一万グル(約二十億)でも十分吹っ掛けているだろ!とツッコミを入れたい気持ちも理解できるが、これは貴族間の取引だ――

 現代の日本人に分かりやすく例えるなら――都知事、いや、国家間の取引だと言った方がいいだろう――

 今までにない高品質な特産品の利権全てを売り込むのだ――二十億〝も〟というより〝たった〟二十億でといった方が正しい。

 実際に一万グルという金額は、確かにシュトラの年間税収に匹敵するが――逆に言えば、シュトラだけ、要は一都市だけの話でしかないのだ――


 シュミット伯爵家全体の収入はその比ではない。


「親善の意味を込め、最初にシュミット伯爵家に話を持ち込みましたのに、その様な金額を提示されては他に持って行かざるを負えません」

「……親善も何も、ヴェルシュタインに取って交渉相手に成りえるのが我がシュミット家だっただけのことだろう」


 ――さあ、ここが勝負どころだ――

 俺は身体年齢と精神年齢のギャップから醸し出される――転生者特有の不気味さを演出するように敢えて冷笑する。


「――交渉相手は他にも存在しますよ」

「……それは誰だ?」


 驚愕の表情を見せる伯爵に、俺はその答えを突き付けた。



「――王都の商人です」

「王都の商人、だと」

「ええ、ヴェルシュタインでは、石鹸の他にも様々な研究をしていてその縁で王都の商人には少々コネがあります」


 ――当然、ここに至るまで王都の商人の存在に気が付かなかっただけあって、本当はコネなど存在しない。


 しかし、コネが無かろうがブラフには使える。

 研究云々の理屈も石鹸という成功例が目の前にある以上、他にも様々な研究成果があっても不思議ではないと考えるのは自然。

 伯爵は、俺が転生者――つまり別世界の概念やアイデアを持っている事など知るはず無いのだから――


 すると伯爵は〝確かに、只の商人ではなく王都の豪商なら、一万グルいう大金も支払えるだろう〟と前置きする。


「しかし、本当に買い取ってくれる保証はあるかな?」

「……」

「これが石鹸である以上、オイゲン伯爵家とフェルステン侯爵家の両家を敵に回すのは目に見えている――財力はあっても軍事力、権力がない商人がそのリスクを犯すだろうか?」


 ――伯爵の発言に、何処か違和感を覚えた――

 しかし、その正体には結局辿り着かず、言葉を選びながら慎重に返答する。


「……そのリスクを犯してでも石鹸を買い取ってくれる筈です――商人にはパトロンがいますから」


 商人はその職業柄、様々な者達の目を引き付ける――その為、有力な貴族などの後ろ盾があるのが普通だった。

 ――ヴェルシュタインとロルフ、御用商人という関係が正にそれだ――

 王都の商人である以上、宮廷貴族の後ろ盾はあるはず。

 宮廷貴族は法衣貴族で軍事力は無いが、その代わり強い政治力を持つ。


「宮廷貴族なら王族御用達のブランドを手に入れると同時に、最高権力の庇護を得ることだってお手の物でしょう」


 幾ら、有力諸侯の両家だって王家に直接ケンカを売ることは不可能だ。

 つまり商人はヴェルシュタインの様な小領主と違い領地を持たない身軽さ故――王都そのものを盾にしているとも言えた。


「それに商人は利に聡い――この石鹸の可能性を知れば必ず大金を支払う」


 最後に〝それこそ一万グル程度は〟と付け加える。


「つまりシュミット伯爵家に無理に買って頂く理由は無いのです」


 ――本当は買ってくれないと凄く困るのだが、そんな内心を顔に出すわけにはいかなかった。


「此方の気持ちを受け取って頂けなかったのなら、仕方ありません」


 そして〝失礼します〟と言い放ち席を立つ。

 すると直後に〝待て〟と呼び止められる。


 ――掛かったッ!――


 本来なら狂喜乱舞したい所であったが、その気持ちを押し殺し無表情で伯爵と向き合う。


「……私の負けだ、一万グル(約二十億円)払おうではないか」

「――閣下のご英断に敬意を」


 ここで売り渋ることで値段を吊り上げることも出来たが、シュミット伯爵家との親善も目的の一つだったのでそんなことはしない。

 姻戚関係であろうとヴェルシュタインとシュミットの力関係ではどうしたって此方が甘く見積もるしかなかった。




 ――こうして俺の内政計画は幕を下ろした――

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