【悲報】俺氏、石鹸の製造法が分からない
一体いつから――転生者なら石鹸を作れると錯覚していた?
俺は自分の無知を開き直って、鏡花水月を解放した時の藍染○右介のような事を言ってみる。
――いや、おふざけなしで、ゆとりらしく言い訳するなら――
確かに前世では石鹸などありふれ身近にあるものだった――だからといって製造法など知るわけない。
欲しいなら数百円でスーパーからでも買えばいいのだから、製造法を知る必要性も興味も無かったのだ。
「……若様?石鹸が無理なら他のアイデアは無いのですか?」
「他のアイデアねぇ」
内政で、石鹸の他に王道なのは――手押しポンプか?
――ああ、手押しポンプの構造ね、知ってるよ――気圧が、アレしてコウなってソウなるのだろ?
……ゆとり世代生まれの俺が、手押しポンプの構造なんて知っている筈がなかった――祖父母の実家も、井戸なんてもう存在しないから実物すら見たこと無い。
そしてそれは、石鹸や手押しポンプだけの話ではない――俺の知識の大半が具体性に欠けるため再現できそうになかった。
ならば、石鹸や手押しポンプとともに転生者御用達、内政三種の神器である――リバーシはどうだろうか?
――確かに、再現性という面では問題はクリアしている。
しかし、今度は簡単すぎる構造のせいで利権問題になってくる。
大量生産できる資金力を持つ有力諸侯に、複製でも作られたら製造コストの差で価格競争に勝てない。
そもそも、簡単に複製出来たら特産物にならない。
ある程度は独占しないと売ることが出来ずに稼げない、つまり内政になっていない。
よくある対策として、複製されないよう権威のある者に利権を認めてもらうというものがある――しかし、この世界に置いて権威のある者とはだれであろうか?
最初に頭に浮かぶのは王族だ――だが、この国は現在、戦国乱世の真っ最中である。
暴力こそ正義の時代だ――王族が認めようとも王族以上の軍事力を持つ諸侯が複製したら男爵家でしかないヴェルシュタインにはどうすることも出来ない――文句でも言おうものなら、即滅亡である。
なら最初から利権にこだわらず、有力諸侯に利権を譲りアイデア料を貰うという案があると言う人もいるかも知れない。
だがよく考えて欲しい――なぜ、強者が弱者相手に取引しなければならない?
取引とはある程度対等な関係が構築されて、初めて成立するものである。
強者と弱者の関係ではただ採取されるだけの関係でしかない。
――そういえば、分かりやすい例が日本の国民的アニメにはあったな――
この世界を、ドラ○もん、で例えると分かりやすい。
俺――延いてはヴェルシュタイン男爵家は、の○太君だ。
前世の知識は、ドラ○もんの秘密道具で、有力諸侯は、ジ○イアンそのものだ。
――の○太君(俺)は、ドラ○もんの秘密道具を使うとする。
未来の道具なのだから、当然画期的で、その使用者には今までにない多大なる恩恵が与えられるだろう。
しかし――それを見た、ジャ○アン(有力諸侯)が、ただ指を咥えて見ているだけなど、あり得るだろうか?
当然そんな筈がない――ぶん殴って、秘密道具を奪い取るに決まっている。
そして――仁王立ちで、あの名ゼリフを言ってくるだろう――
『お前の物は俺の物、俺の物も俺の物』
この戦国乱世は、極端な利己主義なのだから――こうなるのはいたって自然である。
つまり、こんなに長々と語って何が言いたいのかというと――
――俺の異世界転生、既に詰んでないか?




