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殺戮

 盗賊団の拠点があると思われる一帯に辿り着いたのは、一夜明けちょうど太陽が真上に昇ったころだった。

 万が一にも賊達に見られないよう、近くにあった窪地で最後の軍議を開く。



「陽動の火付け役として、ルッツとライナーが猟師を率いて作戦定位置に向かってくれ」


 俺は簡易式の机の上に置かれた地図を指して二人に指示をする。


「残りの者は、私と共に、逃げてくる賊に奇襲を仕掛ける場所まで行軍する」


 そこで一度話を区切り、改めて周りを見渡した。


「何か質問がある者は?」

「火を付けるのは、タイミングはどうしますか?」

「準備が出来次第、火を付けてくれ」


 のんびりして盗賊達に気付かれたくない。


「此方も、ルッツが火を付けたのを見て森に潜伏する」


 ルッツの火付けが、結果的に作戦開始の狼煙になっていた。


「奇襲の判断は誰が致しますか?」

「マルコに任せる――奇襲だけでなく戦術的な判断全てな」


 戦術的な判断は経験が全てだ――そこに俺の出番はないだろう――


「重要な採決だけ、私に回してくれればいい」

「捕虜はどうするんです?」

「……より詳細な背後関係を知りたいから、幹部クラスが何人か欲しいが……」


 そこまで考えて、頭を横に振った。


「無理をする必要はない――最優先事項は賊の殲滅だ」


 優先事項は、次に味方の犠牲の少なくすることで、情報収集は最後だろうな――


「……質問は他にないか?」


 誰も口を開かない。


「では、賊を攻める準備をせよ」









 軍議から数時間が経ち、そしてつい先ほど東の森で複数の煙が上がった。

 それを確認した我が軍は現在、川に繋がる森の入り口付近の茂みで潜伏していた。




 ――やばいな、緊張してきた――


「若、緊張なされているのですか?」


 マルコが声を掛けてくる。


「……初陣だ、当然だろ」

「はは、そうですな」


 全く緊張した様子の無いマルコを見てしみじみ思った。


 ――こうなってくると、やはり、マルコに指揮を頼んで正解だったな――とてもじゃないが今の俺に指揮なんて出来るはずがない――


 そして自分が緊張しようがしまいが、戦況に関わりがない事を思い出し、少しだけ落ち着きを取り戻した。





 それから、約一時間の時が流れた時、森の奥からざわめきが聞こえてきた。


「ちくしょう!突然火の手が上がりやがったッ」

「俺達を焼き殺すつもりかッ――どこの奴らが動いたんだ!」

「そんなのこの地域一帯を治めるヴェルシュタインの奴らに決まっているだろッ」

「馬鹿なッ!俺たちはまだ手広く動いてなかったぞッ!」


 言い争った声が、段々と此方に近づいてくるのが分かる。




 ――奇襲の合図は、まだなのかッ――


 再び心臓が高まってくるのを自覚しながら、隣のマルコを横目で見やる。

 マルコは真剣な表情で賊達を睨め付けていた。



 そして、体感的には数時間とも言えるような長い時間が過ぎ去った――その時――


「――今だッ!弓隊、矢を射かけよ!」


 マルコの大声が辺りに響いた。


 その声を契機に、先ず弓隊が矢を射かける。


「なッ!しまッ――」

「ぐああぁぁ!」


 悲痛な叫び声を上げながら、次々と倒れる賊達。




 そして、ひとしきり弓隊が矢を射かけたあとに残ったのは――半数の無残な死体と、混乱の極みにあり、右往左往の状態であった残り半数の賊達だった。


「歩兵よ、残りの残党を始末せよ!」

「うおおぉぉぉ!」


 雄叫びを上げながら、賊に襲い掛かるヴェルシュタインの兵達。



 彼らはそのように訓練されているためか、常に賊一人に最低二人で当たるようにしながら、戦闘を開始する。



 元々の数的優位と、混乱による士気と統制、そして練度の差――様々な要因からそこに創りだされた惨状は、もはや一方的な殺戮と言っていい光景だった。





 戦闘――否、殺戮は数分ほどで終了した。



 立っているのはヴェルシュタインの兵達だけで、賊達は一人残らず地面にその屍を晒していた。







 ――粘りつくような血の臭いと、腹を引き裂かれ溢れた臓物から漂う悪臭に、思わず吐き気が込み上げてくる。


「……うぅぇ」


 両手で口元を押さえ、それをどうにか飲み込んだ。


 ――殺しを経験しても、吐き気が込み上げてくる程の現実――



 これが、戦争か――




 俺は――あと何度、この光景を見続けなければならないのだろう……







 もう何度目か分からない程――この世界に転生した自身の境遇を呪い続けた――


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