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よろしいならば戦争だ

 執務室に入ると、父以外にもルッツとマルコの二人がいた。

「ようやく来たか」

「遅れて申し訳ありません」


 挨拶もそこそこに、二人の隣に並ぶ。


「まあいい、本題に入るぞ」


 すると、さっそく父が本題をきり出した。


「アルス達を襲った賊共だが、怪我が回復したので個別に尋問を行った」


 俺を襲った三人の盗賊――今は一人死んで生き残りは二人だが、貴族である俺やセレスを襲ったのに、未だに処刑されていないのには当然理由がある。

 その一つが情報収集だ――あれが偶発的、または計画的なものだったのか――まあ、状況的に見て偶発的な襲撃だったのだろうが、その裏付けは必要だ。


 だが、それ以上に重要なのは、彼らの所属組織や背後関係を調べることだった。


「賊の話によると、あの者達はヴェルシュタイン領にある森を拠点にしている盗賊団の一員であるらしい」

「盗賊団ですか、厄介ですね――それで規模はどれぐらいで?」


 ルッツの質問に、父は眉を顰めながら応えた。


「話が本当なら……約五十人はいるらしい」

「馬鹿なッ、それ程の規模なら、領内で既に被害報告が上がっているはずですぞ!」


 マルコが唾を飛ばしながら否定の言葉を吐く。


「それが……ヴェルシュタインに訪れたのはつい最近のことらしい」

「いえ父上、それでも不自然です」


 そう、盗賊達が俺を襲ったのが二週間前――つまり、最低でも二週間前にはヴェルシュタイン領に拠点を移していたことになる。

 この二週間、領内で被害報告が上がってないことから略奪行為を――少なくとも大規模な略奪行為は働いていないということだ。


 盗賊業ほど収入が安定しない自転車操業もそうはない――彼らは奪い続けなければ食っていけないのだから――

 そして、解散ではなくヴェルシュタインに移ったと言うことは、略奪行為をやめるつもりはないという意思表示に他ならない。


 なのに、現実として盗賊達は略奪を働いていない――そのことから、略奪しない理由としなくてもいいだけの当面の金があるということになる。


 そのことを指摘すると、父は少しの間沈黙して考え込んだあと、やがてゆっくりと口を開いた。


「……ヘルムート子爵家と繋がっているのかもしれない」


 突然、父の口から貴族の名前が出たことに驚いた。

 だが、よく考えてみると、それ程おかしな話でもない事に気が付く。


 ヘルムート子爵家はヴェルシュタインから見て北に位置する場所にあり、領地が接している。

 そして、領地の境目にピシティア山脈から流れ込んだ水源が存在し、度々争いの種になっていた。

 その為、ヴェルシュタイン男爵家とは敵対関係にある。


「ヘルムート子爵は領地で暴れる盗賊達を厄介払いするため、ある程度の金を渡して敵対関係にある我がヴェルシュタインに向かわせたのではないか?」

「……あり得ますな」


 マルコは悲痛な表情で頷く。


「……ですが、それだと金がある理由になっても、ヴェルシュタインで略奪を行っていない理由にはならないのではないでしょうか?」


 ルッツの言う通りだ。


 ――多少の蓄えがあろうと、盗賊など略奪すること以外能の無い金食い虫だ。

 略奪させずに手元に置いておく理由はない。

 むしろヘルムート子爵と交渉しているなら、尚更ヴェルシュタインの村々を襲わせようとするだろう。


「……賊共がヘルムート子爵と更に交渉しようと考えていたとしたらどうだ?」

「なるほど……充分に考えられる可能性かと」


 ルッツは頷いて父の考えに同意する。


 それを尻目に俺も納得した。


 ――盗賊団の企みは恐らくこうだ――


 “どうせ、自分たちにヴェルシュタインを襲わせるならもっと支援しろ〟とヘルムート子爵に要求しているのだろう。


 ヘルムート子爵がヴェルシュタインにより被害を与えられると考えたなら、全くの没交渉にはならないはずだ。


 だから盗賊達は渋って、自分たちをより高く売りつけようとしているのだろう。


「……しかし、それだと若が襲われた理由が分かりませんぞ」


 そんな事を言いながら、マルコが此方を見た。


「……話していた限り、奴らはただの下っ端でしかないみたいだった」


 俺は思い出しながら、皆に自分の考えを語る。


「だから、上層部の考えを理解して無かったんじゃないかな」

「アルスの予想通りだろう、事実、奴らは大した情報を持ってなかったからな」


 それに――それ以前に盗賊にきちんとした統制が取れていたかも疑問だ。






 納得のできる結論が付いたところで、父が俺達三人を見渡して宣言する。


「どのような思惑があろうと、我がヴェルシュタイン家に泥を塗られた以上、賊共の殲滅に以外あり得ない!」


 そして、ルッツとマルコの二人に声を掛ける。


「ルッツは、他の家臣達に三時課の鐘(午前九時)が鳴る前に軍議の間に集合するよう知らせよ、マルコは戦支度の準備をせよ」


「「仰せのままに、我が主」」


 二人の騎士が片膝を付いて、自らの君主に最敬礼をした。



 それを一瞥し、父は改めて宣言する。






「一人たりとも生かしはしない、ヴェルシュタインの恐ろしさを世に示すのだ!」






 俺が異世界に転生してから――目の前で初めて、本格的な戦争が開始されようとしていた。

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