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決着

 

 ――意識が途切れたのは、一瞬だけのことだった。





「ぁぁああぁああああぁぁぁぁあああぁぁ――ッ!」


 ――この、泣き叫び声を上げているのは誰なんだ?


 そして――ああ、そうか〝俺〟が叫んでいるのか、とひとりでに納得する。





 その何処か、自分自身すらも俯瞰して物事を考えている――この感覚には覚えがあった。




 ――あれは、前世で俺がまだ中学二年生の時、幼稚園の時からの幼馴染を交通事故で亡くして、その葬式での事だった。


 俺は、幼馴染の――彼女の、位牌の前で大泣きしながらも、そんな自分を何処か高い場所で見下ろして冷静に状況や感情を分析していた。




 そのことを自覚して〝ああ、自分は非情で冷酷な人間だったのか〟と自嘲したほどだった。








 だからこそ――この絶望的な現状を打開するために、今の精神状態は好都合だ――


 セレスに対する優しさも、盗賊達に対する怒りも、今の〝私〟にはそんな感情など必要ない。



 ―――ただ、目の前の障害を処理することだけを考えればいい。


 それが――結果的にセレスの命を救うことにも繋がる。






 恐ろしく、そして冷酷なまでの合理的思考――それに〝俺〟は身を任せた――





「おいおい、女を斬ったら意味ないだろ!」

「仕方ねぇだろ!突然飛び込んで来たんだからよ!」

「そんなことより、ヤバいんじゃねえか?女が戻って来たってことは、兵がすぐそばまで来ているかもしれねぞ!」


 盗賊達は、この現状に混乱していた。

 その様子を伺いながら、慎重にセレスを道の脇に横たえる。


 それに、気が付いた盗賊達が森への出口を塞ぐように広がる。


「はん、俺達が混乱しているうちに逃げよう、たってそうはいかねぇ」

「……何を勘違いしているんだ?〝私〟は逃げるつもりなんてない」

「はあ?」

「いや、正確にはもう逃げる必要なんて無いんだ」


 異常なほどの、アルスの冷静な態度から、男達は怪訝な表情から、警戒した表情に変わった。


「――今だ!ルッツ!」

「な!」


 アルスは盗賊達の背後に向かって声を掛ける。








 男達が振り返った先には―――誰も居なかった――




「な、しまっ――」

「――遅いッ!」


 〝私〟は既に一番左端の男のすぐ傍に接近していた――

 ブラフは、これ以上ない形で成功したのだ。



 盗賊達は〝私〟がヴェルシュタイン嫡男だと知った時から、常に捜索隊の存在を気にしていた。

 ――助けを呼びに逃げて行ったセレスが、帰ってきたなら、その必要性が無くなったからと考えるのは自然――ならば近くまで捜索隊が来ていると考えるのは当然のこと。


 ――セレスの〝ただ守りたかった〟という気持ちだけで、戻ってきた行動は、余人の彼らには理解できないのだから――



「がぁあぁぁああッ!」


 不意を突いて、肩から横腹にかけて斬りつけた男が、傷口を押えながら倒れる。


「この、クソガキッ!」


 その盗賊の隣にいた男が、仲間の悲鳴を聞いて反射的にナイフで斬りかかる。


 しかし――その行動を完全に予想していた〝私〟は、既にしゃがみ込むように回避行動に移っていた。




 ――当然、不意打ちで全員倒せるなどとは、最初から思っていなかった。



 どうしたって、あのブラフで不意を突けるのは一人まで――ならば、敵の行動をコントロールしてやればいい――


 〝私〟が最初に攻めたのは、此方から見て一番左端の男――つまり、次に攻撃してくるのは、距離的にその右隣、三人の中で真ん中に当たる奴だ。


 そして、盗賊達の武器はナイフだ――それはつまり、〝私〟がしゃがみ込めば、子供である身長差と武器のリーチから盗賊の足元は殺傷距離の外になる。


 実際、読み通りナイフが頭の直ぐ上を通過した。


 本来なら当たらなくとも、背中に冷や水が流れ、身体が硬直するのだろうが――今の〝私〟には関係なかった。




 だから――しゃがみ込むと同時に、ショートソードを横なぎに振るう。


 盗賊達の装備などあってない様なものだ――その為、目の前には裸の脛。


「ぎゃあぁぁぁあああ!」


 鶏が絞め殺されるような断末魔の叫び――その男は膝を抱えて地面でのた打ち回る。



 ――それを無視して〝私〟は最後に残った男を睨め付ける。


「ひぃぃッ!」


 一瞬にして仲間がやられ、自分一人だけになった男の顔は恐怖に彩られていた。



 ――それを確認して、間髪入れず攻め込む。


 この男が此方に恐怖し、二の足を踏む、今だけが唯一無二のチャンス――


 敢えて大ぶりの斬撃を繰り返す。


 冷静に見れば、格上相手に隙の多い、この攻め方は悪手――敵が冷静であるという前提なら、な


 だからこそ相手を落ち着かせないため、恐怖を煽る攻め方を選択した。





 ――落ち着かれたなら、単純な戦闘能力で下回る此方に勝ち目はないのだから――








 そして、その選択は吉と出る――


 数回の斬り合いの末、上段の構えを取ると、男はナイフを顔の前で掲げ防御の姿勢をとった。



 待ち望んでいた――決定的な隙――



 〝私〟はショートソードを振り下ろさず、力の限り足で相手の腹を蹴りつける。


 すると、盗賊はよろめき大きく態勢が崩れる。








 その致命的な隙を逃さず――無防備な状態の最後の一人を斬り捨てたのだった――

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