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夏休みの日常―2

 風邪の一件から三日後、完治したオレは、岳と一緒に葵山市一の大きさを誇るショッピングモール、斗賀野(とかの)モールへと足を運んでいた。

 女物の服にも、もう慣れた。

 相変わらずスカートだけはどうにも慣れることができないが。

 そんなオレの今日の服は白のワンピースで、正直足下がスースーして落ち着かないが、そこは我慢することにした。


 ちなみに家庭科部の方にもちゃんと顔は出している。

 オレはちょっとめんどくさいからってすっぽかすことはしないのだ!


「で、岳……何しに来たんだ?」

「ちょっと遊んで、ついでに今週分の買い出しをしようと思ってな」

「……遊んでいいの?よっしゃ、岳行くぞー!」

「……ちょっ、待てって薫!」


 岳の手を引いてオレはモール内のゲームセンターに向かった。

 久々に遊べるので、かなり楽しみだ。


 最初のゲームは、最近設置されたらしくハマる人が急増中という、ある有名企業が制作をした二人で出来るタイプの、カーソルを合わせて引き金を引くシューティングゲームである。


「ぎゃー!ちょっと、敵多いって!」

「よし、今助ける!」


――


「ちょっと敵が強いな……。薫、そっち終わったら手伝ってくれ」

「オッケー、ちょっと耐えて!」


――


「次で最後のステージかな?」

「多分そうだな、よし!いくぞ」


――


「やったー!初めてやったけど全クリできた!」

「ああ、そうだな……。て、薫抱き付くな!」

「いいじゃんいいじゃん!」

「ちょっ、人にめっちゃ見られてるから……!」

「……えっ」


 クリアできた喜びで無意識に岳に抱き付いて、恥ずかしく思った。


 ○


「よし、次あれなー」

「わかったわかった。走るな」


 次のゲームは、さっきと同じ企業が作った、流れてくる音符に合わせて取り付けられた太鼓を叩く、昔から人気のリズムゲーム。

 オレは前からやってたので結構うまかったりする。


「どの曲がいいー?」

「うーん……そうだなぁ」


――


「難しいな、このゲーム」

「よしっ、ミス無しだ!……次の曲はー、と」


――


「うげ、ミスしちった」

「お、クリアできた」

「え、もう慣れたの?早くない?」

「手の動かし方さえ解ればそんなに難しくないな」

「ええ……」


 オレが慣れるのにちょっと時間がかかったのを、岳が一瞬で慣れたことに驚いた。


 ○


「薫、そろそろ買い出しに行こう」

「最後!次で最後だから!」

「……わかった。これで最後だからな」


 最後にやったのは、エアホッケー。

 小さい円盤をマレットという道具を使い、卓球台のような台の上で打ち合い、先に相手側にある穴に入れた方が勝ちのシンプルなゲームだ。

 ルールが簡単でオレは昔からこのゲームが好きだ。


「それじゃ100円いれるよー」

「おっけー」


 100円を入れると、受け口に円盤が出てくる。

 それを台の上に置き、それをまえに打ち出したらゲームスタートである。


「よし。それじゃあ、はじめるぞー!」

「来い!」


 実は岳も、このゲームにハマっていたりする。


――


「ヤバい間に合わないー!」

「よし。俺のリードだな」


――


「しまった……!」

「よし!追い付いた!」


――


「12―13で、オレの負け……。いやー、いい勝負したよ!」

「俺も楽しかったな。こんなに遊んだのは久しぶりだ」

「……ちょっと、喉乾いたな」

「なら、俺が買ってくるよ。そこのベンチに座ってろ」

「んー、任せたー」


 岳は、飲み物を買いにその場を離れた。

 そして暫くすると、見知らぬ男二人がニヤニヤしながら、話しかけてきた。


「ねー、そこの女の子。ちょっとおれらと遊ばない?」

「……」


 最初の時はオレのことと気付かず、無視する形になった。

 すると男たちはオレを挟み込む形で座ると、こう言ってきた。


「ねえ、君のことなんだけど?」

「……へ?私ですか」

「そうそう、ちょっと見たら暇そうだからさー。どうかなと思って」


 どうやらオレのことを誘っているらしい……てか、ナンパだよな、これって。

 そう感じて最初に思ったのは、絶対岳のがかっこいいなと思った。

 こいつらどっちかというと頭悪そうだし。


「すみません、ちょっと友達を待ってるので……」

「いいじゃん、どうせ女だろ?だから来いよ」


 そう言って男の一人がオレの腕をつかんだ。


「ひぅ」

「ふはは、ひぅだってよ。かーわいい」


 恐い。

 誰か助けてよ、誰か。


「(やばい、やばいやばい!)」

「早く来いよ!」


 そう言って強く手を引かれたその時だった。


「うっ……(岳、助けて!)」


「おい、お前ら薫に何してやがる……」


 振り向くと岳が普段見せないような怒った顔で男たちを見ていた。


「ちっ、男かよ……!」

「おい、逃げんぞ!」


 そう言って男たちはオレの手を離して、逃げていった。

 強烈な緊張感から解放されたせいか、どうやら腰が抜けてしまったらしく、立つことができなかった。


「薫!大丈夫か!……ほら、涙拭け」


 岳が、そう言って駆け寄ってくる。

 そのままオレは、岳に抱き付いた。

 すると岳が優しく抱き返してくれた。


「岳ぅ、オレ、オレぇ……」

「すまん、俺が一人にしたのが悪かったか」

「岳が悪いわけじゃ……ぐすっ」

「いや、今回の事は俺が悪い。そういう事にしてくれ。薫はなにも考え無くていいんだ……」


 ○


 その後オレは暫く泣いていて、泣き止んでから、岳と一緒に買い出しにいった。

 この日をさかいにオレは岳への恋心を自覚するようになった。

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