オレの生活の始まり―1
オレが目覚めて2日が過ぎると、あとは何の障害もなく日々は過ぎて行った。
2日、3日と進むごとに身体に慣れていく感覚が確かにあった。
だが、ひとつだけ慣れない変化もあった。
○
「おっ、今日もやってるな」
「岳!お前また来たのか。別に毎日来なくてもいいんだぞ?」
「いいんだよ、好きで来てるんだから」
「……ま、まあ、別にいいけどさ」
○
何だか、ふとした言葉で心臓がドキドキしたり、なんとも言えない気持ちになることが増えた。
しかも、岳の前でだけ。
「……なんなんだろう、これ」
誰もいない病室で、一人呟いた。
○
ずっと、もやもやする感情が胸に残ったまま、オレは入院生活の最後の日を迎えた。
「最終日、か……」
なんだかんだ言って病院での生活は退屈することはなかった。
周りもいい人ばかりだし、今まで、岳だけでなく、他のクラスメイトたちも来てくれていた。
今日来てるのは、岳、そしてオレが目覚めてから、一度も見なかった顔で、もう一人のオレの親友の夏希の二人が来てくれていた。
「久しぶり、夏希!」
「久しぶりね、薫」
新垣 夏希。
オレと夏希は岳経由で中学の時に知り合った親友だ。
夏希は一言で言えば世話好きな性格なのだが、その性格のせいか、人の相談を聞いたりするのが楽しみというオレからすれば少し変わった奴だ。
「夏希、どうして入院中来なかったんだ?オレ、別に迷惑とは思わないから来てくれてよかったのに」
「私も行きたかったんだけどね。生徒会の仕事が忙しくてさ」
「あー、なるほどね」
そう、夏希は生徒会に書記として所属している。
普段はたいした仕事は無いらしいがうちの高校、葵山西高校とその周辺で夏休み中に行われる、葵山夏祭りという市内総出の祭りがある。
生徒会ではその準備や、市内会議の参加などをしているらしい。
「生徒会も大変なんだな」
「ちなみに薫と私の入部した家庭科部も屋台出すらしいわよ」
「えっ、まじ?」
「ええ、まじよ。まあ、準備は来週の一週間らしいからあまり急がなくてもいいけどね」
ならいいや、と思った時だった。
ここまで、空気だった岳が「なあ、」と聞きたいことがあるかのように言ってきた。
「夏希。薫さ、なんか雰囲気変わったよな」
「えっ、そうか?」
「まあ、確かに髪伸びてるし、身長縮んでるしね」
「ま、まじ?縮んでる?」
「うん、かなり」
「縮んでるわね」
う、うそだろ……。男の時でさえ低かったのに……、やっぱり縮んでたのかよ!
と、オレが絶望していた時だった。
「薫君、身体検査の時間よ」
と、いつもの看護師さん。
――オレは生まれて初めて、身体検査に心の底から恐怖した。