運命の文化祭!ー2
「う、んー……くああ……」
今日は文化祭の二日目、なんだけど、自分でもびっくりするくらいに早く起きた。
まだ、日が上りきっていなくて、空が薄暗い。
多分、5時半くらいだと思う。
「早く起き過ぎた……」
でも、今から寝たら絶対起きられないし、どうしよう。
「本でも読んでようかな……」
○
適当に時間を潰して、いつも起きる時間の6時半になった。
いつもなら母さんが朝御飯を作ってくれるんだけど、今日は母さんは家にいない。
なぜかと言うと、父さんの転勤についていったから。
「何にしようかなー、普通に食パンでいっか」
そういうことで暫くの間は帰ってこないんだけど、その代わりにオレの姉が仕事の休みを使ってこっちに帰ってくるらしい。
「さてと、朝御飯も食べたし、学校の用意しよっと」
○
学校の用意を終えて、玄関に行くと、インターホンが鳴った。
「ん?誰だろ……」
扉を開けると、そこには久しぶりに見る人がいた。
「あれ……?もしかして、薫?」
「さ、さく姉?」
「おー、やっぱり薫かあ。すっごい、どう見ても女の子じゃん!」
この人はオレの姉、花崎 桜。
結構美人だと思うし、昔から近所でも評判のいい自慢できる姉だ。
「来るの早くない?」
「早く来て薫と話そうと思ってたんだけど、今日平日だから薫は学校あるんでしょ?早く行かないとなんじゃない?」
「あ、そうだ、急がないと遅れる!また帰ってきたゆっくり話そう!」
「はいはい。ほら、早く行ってきな」
「じゃあまた後で。いってきまーす!」
○
何事もなく学校に到着して、今は岳と一緒に校内の出し物を見て回っている。
そう言えば、今日は岳にそれとなく俺のことをどう思ってるか聞くつもりだった。
でも、ずっと逃げてても先には進めないし、いっそ告白する方がいいのかも知れない。
「よし……!」
この文化祭が終わったら、もう告白してしまおう。
フラれたら立ち直れる自信はないけど、そんなこと考えてたら何も出来ない。
場所は、屋上のままでいいか。
「……何がよしなんだ?」
「え!?い、いやいやなんでもない!あれだよ、文化祭楽しもうと思ってさ。あははー……」
「へえ……」
「な、なんだよー。信じてないのか?」
ちょっと無理があったか?
「違うって。薫が楽しめるように俺も頑張ろうと思ってな」
本当に優しい奴だな、岳は。
「さてと、次はどこに行く?」
「んーと、この時間だったら、もうすぐ体育館で軽音部の演奏だったっけ?それ見に行こう!」
「そうするか」
という訳で、オレと岳は体育館に行くことにした。
「うわ、すごい人だなー」
「ほぼ全生徒が集まってるみたいだな」
うちの学校の軽音部は、毎年かなりレベルが高いらしく、実は今までにも何人かがスカウトを受けていたりするらしい。
今年の軽音部はロック寄りだけど、去年はバラード系だったらしい。
まあ、そう言われてもいまいち音楽のことは分からないんだけど。
「あ、薫たちも来たのね?」
「おー、夏希」
どうやら、夏希も友達と見に来ていたみたいだ。
夏希の友達、たしか瑠璃ちゃんだったかな?
そう言えば、名字って聞いたこと無かったかな。
と言うかクラスが違うから瑠璃ちゃんと顔合わせたのも初めてだし。
「おやおやー、君が薫ちゃん?」
「初めまして……だよね?」
「いんやー、実は初めましてでもなかったりするー」
え、初めましてじゃないのか。
「まー、小学生の時だし覚えてなくてもしょうがないかー」
「小学生の時?あ……も、もしかして!」
小学校の時、まだ岳とも出会っていなかった頃のオレには、よく一緒に遊んでいた女の子がいた。
「霧町さん!?」
「そーそー、霧町 瑠璃」
まさか高校に入って、霧町さんと再会するとは思わなかった。
中学校で別々のところに分かれてから会うことも無かったし、もう会うこともないと思ってた。
「にしても、薫ちゃんは随分と女の子らしくなったもんだねー?顔も仕草とかも」
「ん、そうかな?あんまり意識したこととかないから分からないけどなー」
自分の仕草とか考えたこともないや。
ちなみに、オレが薫ちゃんと呼ばれてるのは昔からで、オレも霧町さんのことは瑠璃ちゃんと呼んでいた。
「あ、そーだ。鈴井君とはまだ話してなかったねー。初めましてー、瑠璃でーす」
「ああ、初めまして。霧町さん、でいいのか?鈴井 岳だ。よろしく」
「好きなように呼んでくれていーよー?よろしくねー。んふふー」
「……ん、そろそろ始まるみたいよ?」
体育館に放送が流れた。
もうすぐ演奏が始まるみたいだ。
○
「凄かったなー、軽音部。本当に学生なのか疑問だよあの迫力は……」
軽音部の演奏も終わり、オレたちはお互いの感想を言い合っていた。
曲は全部で3曲あり、2曲は有名な曲のカバーで、最後の1曲はオリジナルの曲だった。
「たしかに、あれは高校生のレベルじゃないねー」
「私、凄すぎて途中泣いちゃいそうになったわ……」
「俺も、流石に驚いたよ」
体育館からでて、もう文化祭も終りそうな時間になった。
学校のベンチに座りながら、4人でゆっくりしていると、岳と夏希が飲み物を皆の分を買ってくると言って行ってしまい、オレと瑠璃ちゃんの2人だけになった。
「ねー、薫ちゃん?ひとつ言いたいことがあるんだけど、いいー?」
「え?別にいいけど……何?」
「じゃー言うよー?あたしねー、薫ちゃんのことが好きー」
「んえ?好きって、え、どういう……」
「もちろん、ラブの方でねー」
らぶ、ラブって、あのLOVE……だよな?
「えと、え?あー、えー、ご、ごめん。ちょーっと時間もらってもいい?頭の中整理したい!」
えーと、えーと、ど、どうすればいいんだ!?
こ、告白なんて初めてだし、まさか瑠璃ちゃんからなんて……。
オレには岳がいるし、断らないとなんだろうけど、何て言って断ればいいんだ……?
あー、もう正直に言うしかない、よな。
「ごめん。オレ、他に好きな人がいるから、瑠璃ちゃんとは付き合えないよ……。で、でも別に瑠璃ちゃんが嫌いって訳じゃないからね!?」
「……んふふー。うん、知ってるよー。岳君、だよねー?」
「……え、知ってたの?」
「夏希から聞いて、だけどねー」
そっか、知ってたのか。
でも、瑠璃ちゃんはオレが岳のことが好きって知ってても、オレに思いを伝えてくれたんだ。
なんか、告白するかしないかで悩んでたオレって、本当に臆病だなぁ。
「なんか、オレってバカみたいだ……」
「んー、どしたのー?急にー」
「オレさ、今日、岳に告白しようと思ってるんだ。けど、さっき瑠璃ちゃんに告白されるまでずーっと悩んでた。いっそこのまま逃げちゃえば楽なのかも、とか思ってたんだ。でも、こう言ったら変かもしれないけど、瑠璃ちゃんが気持ちを教えてくれたお陰で、悩んでたのも吹っ飛んだよ」
オレは本当に今日ずっと悩んでた。
昨日、告白するって決めたのにだ。
「うん、お役に立てたようでなによりー」
「オレは瑠璃ちゃんの気持ちには答えられないけど、告白してくれたこと、感謝してる。だから、ありがとう」
「んふー。どーいたしましてー。よーし、じゃあそろそろ2人も帰ってきそうだし、切り替えよー。2人に変に気を使わせたりしたくないでしょー?」
「そうだな!よし!」
暫くして2人が帰ってきて、楽しかった文化祭も終わりを迎えた。
そして、ついに放課後となった。




