夏祭り当日―2
「あ、そういえば」
少し先を歩いていた岳が思い出した様にオレの方に向く。
「ん、どうした?岳」
「浴衣?」
「ああ。これ、姉さんの昔のなんだけど……どう?」
岳は「ふむ」と、オレの全身を見ると、
「……良く似合ってるぞ」
と言って、何故かオレの頭にぽんと手を置き、そのまま撫で始めた。
……え、なんで?
「が、岳?」
なにこれ、めっちゃドキドキする!
「ん?あ、すまん、無意識に……」
と言って岳が手を離す。
ちょっと寂しく感じたのは秘密だ。
「……まあ、それはいいとして。岳、最初はなに食べる?」
「んー、そうだな。目の前だし、フランクフルトでいいだろ」
「おっけー。んじゃオレが買ってくるよ」
今俺達がいるのは、高校の近くのそれなりにでかい神社だ。
ここは一般の人が店を出しているので、夜でもいろんな物が食べられる。
「すみませーん。おっちゃん、フランクフルト二つちょーだい!」
「あいよ!毎度ありー」
フランクフルトを持って、岳の所に戻る。
「はい、岳のぶん」
「おお、ありがとう」
適当な所に座って、二人でフランクフルトを頬張る。
やっぱり祭とかで食べると、普通の食べ物でも美味しく感じるな。
「……岳。花火って何時からだっけ?」
「えーと……今年はたしか、八時半くらいじゃなかったか」
「そっか、おーけー」
実は花火を見るのに、とっておきの場所があるのだ。
今日の一番の目的はそれだ。
○
その後も岳といろんな屋台を回っていった。
「よし。取れた」
「え、上手いな岳!」
射的をしたり。
「唐揚げうめー」
「あ、口に衣ついてるぞ」
食べ物を食べたり。
「猿回しやってるんだって」
「じゃあ、見に行くか?」
出し物を見たり。
時間はすぐに過ぎていった。
○
そして時刻は八時ジャストになった。
「よし、岳。行くぞ!」
「ちょ、行くって何処に?」
「まあまあ、付いてこいって」
ちょっと強引に岳を連れて、俺は神社を出た。
「えーと、たしかこの辺りに道があるはずだけど……ここだな」
進んで行くのは、神社の近くにあり、ちょっと狭く、登り坂になっている小道。
しっかり舗装されていて、街灯が道を照らしているので危険ではない。
「薫、どこまで行くんだ?」
「もうすぐだよ。……ほら、着いたぞ」
少し広い場所に出た。
着いたのは、少し高い丘の上。
この街自体の空気がきれいなのもあって、星が良く見える。
「おお……」
「なかなかに綺麗だろ?ここ、オレのお気に入りなんだ」
散歩してたらたまたま見つけた場所だけど、人が滅多に来ないのでゆっくりできる。
昼には海が良く見えるし、夜は夜で、今みたいに綺麗な星が見える。
「花火、そろそろだよな?」
「ああ、もう始まるが。……ああ、なるほど」
と、一発の花火が上がる。
そう、ここに来たのは花火を見るため。
殆どの人は、神社近くの河原で見ているのだがここなら、もっと綺麗に花火が見られるのだ。
「うーん、やっぱり綺麗だなー。花火」
「だなあ」
岳と二人で、次々と打ち上げられる花火を見る。
遠くの花火の光に照らされる顔は、やっぱり格好良くて、オレが岳のことを好きなのをさらに強く実感した。
「……好き、かあ」
と、オレは小さく呟いた。
「なんか言ったか、薫?」
「……んーん。何でもない」
オレが呟いた一言は、フィニッシュを迎えた花火の音にかき消されたのだった。