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東方神殺伝~八雲紫の師~【リメイク】  作者: 十六夜やと
1章 紅霧異変~少女の祈りと神殺の約束~
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5話 人里から見る異変

紫苑「紅魔編スタート!」

霊夢「私の出番ね……面倒だわ」

紫苑「霊夢と魔理沙のシーンはカットしよっか?」

魔理沙「え!?」



 次の日。

 俺は藍さんと一緒に人里にやって来た。


 紫も一緒に行きたそうにしていたが、どうやら冬眠時期のようで泣く泣く断念したらしい。妖怪の生活サイクルなんて知らないが、大妖怪には普通のことなのだろうか?

 それとも『幻と実体の境界』に関係してるのか?


「それにしても……賑わってるなぁ」


「ですね」


 隣で歩く藍さんが同意する。

 最初は俺の3歩後ろを歩いていた藍さんであったが、俺の「一昔前の夫婦か」とツッコミを入れたところ、顔を真っ赤にして横を歩き始めた。

 ちょっと不謹慎すぎたか。でも俺の推測が正しければ、藍さんって『玉藻の前』のような気がするんだよ。


 さて、人里の話をしよう。

 江戸末期から明治初期を彷彿させる町並みは、近所の商店街の賑わいを連想させた。都会ほどではないにせよ、活気に満ち溢れていると言えば分かりやすいかな。

 文献でしか見たことないような店の名前がずらりと並び、初めて見る物や店に一々視線を走らせる俺に否はないだろう。ここに住む住人も現代人から忘れ去られた(・・・・・・)人々なのかな。


「ところで……紫苑殿は人里になんのご用で?」


「んー? 特にこれといって用事はないよ。ただ、ここに永住するのなら、生活必需品や食材を買いに来ない訳がないからな。生きていくのに人里知らなかったらまずいだろ」


「なるほど、私は人里には『油揚げ』を買いに来るしか用事がないので……」


 ほぅ、藍さんは油揚げが好きなのか。

 狐って油揚げ大好きなイメージあるからなー。なんでだろ?

 油揚げを思い出している藍さんに、俺は特になにも考えずに提案した。


「ふーん……今度、いなり寿司でも作ろうか?」


「誠に御座いますか!?」


「うぉっ!」


 俺はいきなり肩をつかんで顔を寄せてきた藍さんに驚く。何も買ってなかったから良かったものを、驚いて持ち物すべて落とすくらい急な反応だった。


 つか顔近い近い!


 しかも女性特有のいい香りが、思春期真っ只中の17歳少年の心臓をオーバーヒートさせる。さすが玉藻の前(と思わしき妖怪)。傾国の美女の異名は伊達じゃないな。

 人里の道の真ん中で傾国の美女が、不思議な服装の少年に詰め寄っていたら、嫌でも目に入るものだ。




「――藍殿、人里の道端で何をやっている?」




 俺達が来た方向とは別の方向から、藍さんとはまた別のベクトルの美女に声をかけられた。

 銀髪の真面目そうな長身の女性は見慣れない俺と藍さんを交互に見て、意味ありげな笑みを浮かべる。


「逢瀬の最中に失礼したかな?」


「そそそそそそそ、そんなことは決して!!」


 めっちゃ慌てている藍さん。

 俺は誤解を解くために言った。


「すまないけど俺と藍さんはそんな関係じゃない。俺は気にしないけど藍さんに失礼だろ?」


「………」


「はははっ、これはすまない。藍殿が殿方と歩いているというのが珍しくてね」


 藍さん、なんで俺を睨んでるん?

 弁明したのに解せないと微妙な顔しかできなかった俺に、銀髪の美女は微笑みながら手を差し出してくる。


「そう言えば自己紹介がまだだったな。私は上白沢慧音(かみしらざわけいね)、寺子屋で教鞭を握っている」


「教師かぁ。俺の名前は夜刀神紫苑。昨日幻想郷に引っ越してきた外来人だ。今後ともよろしく」


 外来人という単語に上白沢さんが反応する。


「外来人……? その割には随分と落ち着いてるな」


「紫と同意の上だから」


「幻想郷の賢者が?」


 へー、アイツ幻想卿の賢者とか呼ばれてるんだ。

 紫の評価の鱗片に感心していると、藍さんが横から口を挟んでくる。


「紫苑殿は一般人に見えるかと思われますが、我が主・紫様の師であり、幻想郷誕生の立役者でもあります」


「なっ!? それは本当か!?」


「え? あー、間違ってはいないよ。幻想郷誕生には一切手をつけてないけどね」


 上白沢さんはルビー色の瞳を大きく見開いた。

 人里に来る前は外の世界と同じように神力駄々漏れの状態だったが、幻想郷で人間が神力宿しているのは珍しい事だと藍さんから聞いたので、不馴れではあるが隠すことにした。ましてや、今の俺の神力には微量だが妖力も混じっている。人里で無闇に解放するのもマズイと判断したのだ。

 彼女が驚いているのならば隠すことには成功しているのだろう。


 それにしても……上白沢さんの尊敬の眼差しは何なのだろう?


「えーと……上白沢さん、どうしたの?」


「慧音と呼び捨てで構わないよ。いや、賢者殿の昔を知る数少ない人物だ。知りたくもなる」


「あぁ、なるほどね」


 アイツも昔のことは無暗に語らないのか。

 俺も街にいた時に同じことを友人達から言われたことがあるので、なんだか紫に親近感を抱く。親近感も何も元・師弟関係なのだが。

 隠し癖に苦笑していると、慧音の背後から声がした。


「――おーい、慧音ー」


 今度は白い髮の少女が歩いてきた。

 モンペ……だっけか? とにかくボーイッシュな感じのする女の子だ。口調に関しては慧音もそうだが。


「って、藍と……誰?」


「妹紅、彼は外来人の紫苑君だ。紫苑君、彼女は藤原妹紅(ふじわらのもこう)、迷いの竹林の案内人だ」


「迷いの竹林ってのはどこか知らんけど……よろしく、藤原さん」


「妹紅でいいよ。紫苑って呼べばいい?」


 別にいいぞー、と軽く言う。

 幻想郷の特徴の一つとして分かったことなのだが、自分の名前を相手に飛ばせることが多いな。霊夢然り、魔理沙然り、慧音然り。街ではそんなこと気にしなかった上に、そもそも女の子の名前を呼び捨てにすること自体が非常に少なかった。

 それにしても……と俺は3人の顔を見渡す。

 藍さん、慧音、妹紅。


「まさか幻想郷でも同じ構図が見られるとは思わなかったな」


「?」


 首をかしげる藍さんに、俺は考えなしに答えた。











「だって、人間と妖怪と半妖と――不老不死が一ヶ所に集まってるんだぜ?」


「「「!?」」」











 女性陣が驚愕の表情を見せる。

 特に妹紅は『なぜ知っているのか?』と表情を険しくしていた警戒しているようだ。

慧音が言葉を選ぶように尋ねてくる。


「……紫苑君、私が半妖だと言ったかな? そして、どうして妹紅が不老不死だと知っている?」


「あー……ごめん、つい外の世界感覚で言っちまった。知ってる理由だっけ? 俺の親友に2人ほど不老不死がいるから、妹紅が不老不死だって感覚で分かったんだよ。半妖についても知り合いがそうだし」


 だから見られるとは思わなかったんだ。




『はァ!? テメェ約束くらい破るンじゃねぇよ!』


『この世界は騙された方が悪いんだよ』


『かかかっっ、お主も油断したな!』




 街でよく一緒だった連中との会話を思い出していると、妹紅は『不老不死がいる』という言葉に反応して、物凄い勢いで詰め寄ってくる。

 だから近い近い近い近い!


「……!? 不老不死が外の世界にもいるの!?」


「妹紅と同じ原理かは分からないけど、何人かいると思うぜ」


 俺の発言に妹紅は少し嬉しそうな顔をする。

 もしかして……幻想郷に不老不死の奴ってのは珍しいのだろうか?

 俺の知ってる不老不死の一人はあの壊神だし……アレと一緒と考えるのは妹紅に失礼だと思う。


「そんなに嬉しいのかねぇ……」


「不老不死仲間がいる……というよりは、不老不死である自分を気味悪がらない紫苑君に嬉しいのだろう。妹紅は不老不死で色々辛い思いをしたらしいからな」


「そっちかー。たかが老わない死なない程度で人を嫌いになるかよ」


「妖怪や人ならざる者とごく普通に接する紫苑君のような人間が珍しいですよ」


 藍さんにそう言われて俺は首を傾げた。

 そういうものかね? 俺にとってはそれが普通(・・)だったから分からないな。



   ♦♦♦




「それで妹紅、どうしたんだ?」


 私は珍しく機嫌のいい妹紅に、ここに来た理由を聞いた。

 不老不死を理解してくれる者は少ないから、外来人の少年――夜刀神紫苑君のことを気にいったのだろう。私としても、妹紅の理解者が増えることは友人として嬉しい。


 彼は幻想郷の創造者・八雲紫の師らしい。明らかに紫苑君は十数年そこらしか生きていない人間であるのに、長き時を生きる大妖怪を師事したというのはいささかおかしな話であるが、藍殿が言うのならば本当のことだろう。是非とも彼女の昔を聞いてみたい。


 妹紅は嬉しそうだった顔を一変させて、真剣な表情で私に報告する。


「なんか人里の外の様子がおかしいの。妖精や妖怪が興奮状態にあるとか」


「珍しいのか?」


「妹紅が気にするほどのことだから本当なのだろう。もしかしたら異変の前触れかもしれない」


「異変……あぁ、幻想郷のちょっとした娯楽みたいなやつか」


 紫苑君の『異変=娯楽』という認識に私含める3人は唖然とする。

 藍殿が裏返った声で諫める。


「し、紫苑殿。さすがに娯楽というのは……」


「紫曰く、幻想郷の異変は人里で死人が起こるようなものじゃないとか聞いたぞ?」


「た、確かに死人が出るほどの異変はそうあるものではありませんが……」


 その言葉を聞いた紫苑君は笑った。

 いや、正確には『嗤う』とでも言うべきだろうか? 人・妖怪関係なく、背筋が凍るほどの笑みを浮かべる表情をする外来人を見たことがない。

 私は本能的恐怖を目の前に居る少年から覚え、妹紅や藍殿も息を飲む。






「なら大丈夫じゃねーか。弾幕ごっこの時も思ったけど、死人が出さえしなければ所詮は遊びの範囲を超えないと俺は思うからな。じゃなきゃ藍さんや紫に刀を渡さないよ。死ななきゃ安いってことさ」






 暗い表情で述べた後、次の瞬間には会ったときと同じような優しい笑みをしていた。


「本当に平和だよね、ここは。俺の住んでたところとは大違いだ」


「そ、そうですか……」


「さーてと、さっさと買い出し終わらせて帰る――ん?」


 軽い背伸びをした紫苑君はなにかを感じたかのように突然空を見上げた。

 私たちもつられて見上げると……


「「「な――!?」」」






 空が……赤く染まっていた(・・・・・・・・)






 いや、赤い霧に包まれたと言うべきか。霧からは妖力を感じる。

 突然の変化に周囲にいた人里の人間たちから徐々に悲鳴や怒号の声が上がる。

 落ち着いている者といえばここにいる4人だけだろう。


 私は妹紅に叫んだ。


「妹紅! 人里に入ってくるかもしれない妖怪に警戒してくれ!」


「わ、分かった!」


 妹紅が来た方向に飛んでいく。


「ふむ、こりゃ妹紅だけじゃ大変そうだな。藍さんも妹紅の手伝いに行ってくれないか?」


「はい。……紫苑殿は?」


「ちょっくら異変の元凶のところ行ってくる」


「「え?」」


 紫苑君は走って去ろうとするが、私が慌てて呼び止める。


「し、紫苑君! 急にどうしたんだ!?」


「別に霧が危険って訳じゃあないんだけどさ……嫌な予感がする」


「嫌な……予感?」


「こういうときの予感ってうんざりするくらい当たるからなぁ。なんか行かないと後悔する気がするんだわ」


「分かりました。紫苑殿……お気をつけて」


「藍殿!?」


 小さく礼を言った紫苑君は指を鳴らす。

 すると、どこからともなく風が私の肌を撫で、気づいたら紫苑君の姿は跡形もなく消えていた。慌てて周囲を見渡すが、慌てふためく人里の人間しかいない。


「行かせても良かったのか?」


「紫苑殿なら大丈夫でしょう。紫様も『師匠が異変解決に乗り出すのなら、決して邪魔をするな』と命じられておりますゆえ」


 つまり、賢者殿は藍殿が紫苑君についていくことは『邪魔になる』と判断したのか。

 それほどまでに彼は強いのか? いや、その言葉からは幻想郷の賢者は紫苑君を信用していることの表が感じ取られる。


「それに……私は紫様の言葉と、師である紫苑殿を信用してますので」


 言葉を付け加えた藍殿は、では失礼しますと頭を下げて妹紅とは別方向に飛んでいった。

 残された私は誰にも聞こえない大きさで呟く。

 慌ただしい人里で、それは誰にも聞こえなかっただろう。






「紫苑君……無事に戻ってきてくれ……」





妹紅「紫苑のいた世界ってどんなのよ……?」

紫苑「そのうち分かるさ」

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