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東方神殺伝~八雲紫の師~【リメイク】  作者: 十六夜やと
4章 春雪異変~亡霊の初恋~
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34話 我、勝利を求めたり

side 幽々子


変わらない。

なにも、変わらない。




力強い神力も。

凛々しかった声も。

優しい眼差しも。




私と一緒にいたときと一切変わらない。


「神殺ー、飽きたから寝ていい?」


「ふざけんなよ穀潰し! 俺が前衛やってんのに飽きてんじゃねーよ! 仕事ぐらいきっちりこなせボケがっ!」


「まだ一日しか御飯食べてないのに穀潰しって……。同じことの繰り返しで飽きた。早く幽々っち救って西行妖ぶっ殺させてよ」


「んなこと分かって――いぃぃぃぃ!!! やっべぇ! 一ミリずれてたら死んでたわっ!」


「死んでくれたら万々歳なんだけどね」


「お前こそ臓物ぶちまいて死に晒せ!」


ただ……今の紫苑にぃは楽しそう。

紫苑にぃは白髪の少年に憎まれ口を叩いているけれど、笑みを絶やさずに西行妖と対峙している。


紫苑にぃは西行妖から放たれる『死の弾幕』を雷の弾で器用に相殺している。妖忌の剣撃を紫苑にぃは全て相殺してたから、たとえ当たったら命を奪われる弾幕にも冷静に対応しているのだろう。

九頭竜さんも口ではああ言ってるけど、私を殺そうとしていたときより断然嬉しそうだ。本当は凄く優しい半妖なのね。さっきから後方で待機している紫たちを死の弾幕から守っている。


紫苑にぃは私と一緒に居てくれた。

たった3ヵ月の間だけだったけど、私の孤独を満たしてくれた。

私は――紫苑にぃが大好きだったのだ。


会えることを信じて、ずっと待っていた。

西行妖から教えてもらって思い出したが、桜の下には自害して死んだ私の遺体があり、それを使えば復活できると。

よくよく考えればおかしな話だ。数千年前に死んだ私の遺体など、もはや復活できるほどの状態ではないはず。その時点で怪しむべきだったのだ。


けど、私は天啓だと勘違いした。




また紫苑にぃに会えるんじゃないかって。




結局は周囲に迷惑をかけるだけの結果となり、私は西行妖ごと九頭竜さんに滅ぼされるはずだった。

私の犯した過ちだ。素直に受け入れようと思った。




そして――紫苑にぃが現れた。




紫苑にぃは少し成長しただけで、昔の優しい紫苑にぃのままだった。

今も紫苑にぃは私のために戦ってくれてる。


「あはははははははははははははははははははははははははっっっっっ!!!!!! んなゴミみてぇな弾幕なんざ掠りもしねぇぞ西行妖! もっと俺を楽しませろっ!」


「あ、アカン。神殺がぶちギレて壊れた。それでも正確に弾くんだから化け物だよね、ホント」


「幽々泣かしたゲス桜に慈悲はねぇよ! 生えてきたことを地獄の底で後悔させてやらぁ! んなこと考える暇なんざ与えるはずもねぇがな!」


……紫苑にぃ凄く怖いけど。

目が全然笑ってないのに声は笑っている。いつもの紫苑にぃからは想像もつかないような暴言を次々と吐く。それが西行妖(私のいる方向)を向いているから、紫苑にぃの優しい姿を知らなかったら立ち直れない気がする。

紫苑にぃは的確に弾いているけれど、西行妖の攻撃を防ぐだけ。

端から見れば劣性に思われる。


そう思ったが。


その間、なぜか紫苑にぃの放出する神力から魔力(・・)を感じた気がした。一瞬だけど。紫苑にぃが自分の足元に何らかの小細工をしたのは明らかだ。


「――しっゃあっ!  切裂き魔『戦士』使うぞ!」


「へーい」


紫苑にぃが後方に下がり、九頭竜さんが弾幕を悉く切り裂きながら前進してくる。手の動きが見えないほど、妖夢の楼観剣と紫苑にぃの妖刀を振り回して斬ってゆく。

そして紫苑にぃは刀の鯉口を切りながら、周囲に放出していた神力を纏った。


紫苑にぃの周囲に黄金の渦が立ち込め、服が大きくたなびく。黒かった目が濃い紫色へと変色した。

一瞬私に優しく微笑んで――無表情になる。






「――俺の世界へようこそ」






パチンと指を鳴らした紫苑にぃ。






刹那――世界は黄金(・・)へと反転する。




   ♦♦♦




side 紫苑


〔十の化身を操る程度の能力〕。


拝火教の勝利神は王・諸侯の間では重要な神だったらしい。そして、この神はインドの雷神やその他の軍神と酷似している。そりゃ東西でも戦神として奉られた神格だから無理もないだろう。どうして自分がそんな能力を持っているのかは知らんが。

契約神の懐刀としての能力に加えて、太陽神としての姿。

しかし――この神の本領は『戦における勝利』を司る軍神としての姿であり、あらゆる敵を寄せ付けない『常勝不敗の軍神』だとか。


化身として有名なのは、「我は最強にして、もっとも多くの勝利を得、悪魔と人間の敵意とを打ち砕く」と詠った『風』、強力な呪力を跳ね返す『大鴉』、契約を破った咎人を裁く『猪』。


どれも『勝利神』にふさわしい能力だ。





――けど、少なくとも俺の第10の化身『戦士』は、拝火教の勝利神の『軍神』たらしめるものだと思う。





他が否定したところで、俺がそう思っているのだ。

そして俺の能力は『自分の使いやすいように適用化する』と、かつての友人が言っていた。


金色に輝く世界。

心象風景の具現化。


俺が心の底から想像した、『戦士』としての化身の在り方が視界いっぱいに広がる。

白玉楼や地面でさえも金色に変色し、暗い夜空に星が浮かぶ。

その幻想的な光景に――切裂き魔以外の敵味方全てが息を飲むことだろう。かつての俺がそうだった。


俺は虚空に手を突っ込み、黄金の剣を引き抜く。

金色の粉が飛び散り、紅魔館でスカーレット姉に突きつけたものとは別格の力を有する、太刀を俺は払った。

それに合わせて、虚空から何百もの黄金の剣が出現し、刃を俺の敵――西行妖に向けられる。


第10の化身『戦士』の本質は『能力の無効化』。

己の主に仇為す敵を討ち滅ぼす勝利神の象徴として、これは『敵の能力の一部を無効化する化身』なのだ。対象はひとつにしか絞れないし、神力消費が異常で連続使用ができない、起動に時間がかかる化身だが、間違いなく俺の切り札(・・・・・)の1つである。


というか、俺の神力は殆ど残ってない。

全てを『幽々と西行妖の繋がり』を断つための剣製作に使用してしまった。その分強力ではあるが。


「覚悟はいいか? 西行妖」


答えなんて求めていない。

俺は地面を蹴って、西行妖へ突撃する。


人より少し速い程度のダッシュなので、危険を察知した西行妖が寄せ付けまいと弾幕を放ってくるが、浮いている剣が自動的に弾いてくれる。

それでも無理だと悟った桜が妖力の壁を形成する。




「はい、残念~」




そんな壁、切裂き魔の前では無力だけどね。


他にもどす黒い弾幕をばらまいてくるけれど、俺がさっき設置した防壁型魔方陣によって阻まれる。先程使用していた『山羊』の化身のときに、簡素ではあるが妨害系の魔術を仕掛けたのだ。

ほんの数秒だけど、それだけで十分。


切り裂かれた結界をくぐり抜け、幹の前に到達した俺は、空中に浮いている剣を踏み台にして幽々の前まで飛ぶ。

幽々と同じ視点まで飛び、思わず笑みが溢れる。




太刀に力を込めて。


大きく振りかぶり。


幽々の埋まっている幹目掛けて。


全身全霊で。


真一文字に。





――斬ッ!!!





今までにない悲鳴をあげる西行妖。

物理的なダメージはないはずなのに、身を切り裂かれたかの如く、無様な悲鳴を上げる妖怪。

開放された西行寺幽々子。


俺は倒れてくる幽々の体を抱き締めて、自分が下敷きになるように角度を調整しつつ桜の根本へ落下する――


「紫苑様っ!」


と思ったけど、気づいたら咲夜が俺たちを後方まで運んでくれたようだ。紫や切裂き魔の妖力でスタンした状態から回復した妖夢が駆け寄ってきた。

そこに絶望的な顔など見られない。


「幽々子様ぁ!!!」


「よ、妖夢……!」


妖夢が疲弊してる幽々の胸にダイビングし、幽々はしっかりとそれを受けとめ、二人は歓喜の涙を流す。たとえ幽々が俺とは赤の他人だったとしても、この光景を見れただけでも頑張った甲斐があっただろう。幽々とは知り合いだったし尚更嬉しい。

というわけで俺の仕事は終わり。

俺は仰向けに倒れた。


「師匠……! お怪我は!?」


「あるわけないだろ。神力空っぽだから疲れただけさ。心配するなら幽々のところ行けよ」


もう当分は動きたくない想いに駆られる。

冥府神ほど強くはなかったけど、そのときと同じくらいの力を『戦士』に使ったからなぁ。

なんせ俺は西行妖の知識(・・)がなかった。


「紫苑さん! 昨日お腹刺されたんだから無理しちゃダメって言ったでしょ!?」


「霊夢それどういうこと!? 師匠、私の居ない間に何があったのですか!? 詳細説明を要求します!」


「え? あー、うーん……」


紫の剣幕にたじろく俺。

そういや昨日刺されてたな。

いつものことだったから忘れてたわ。

俺が倒れながら頭を悩ませていると、魔理沙が呆れている姿をとらえる。


「感動の再会はいいけどさ……西行妖は健在だぜ?」


「「「「「……あ」」」」」


「いや、あのクソ桜なら大丈夫だろ」


皆が『しまった忘れてた』って顔をしているが……そこまで気にかけることでもない。

というか忘れんなよ。

仮にも『幻想郷滅ぼせる妖怪桜』だぞ?


「え、どうし――」


霊夢がその理由を聞こうとしたところで、地面が大きく揺れた。

地震にしては単発的だった振動。

ズドンと大きなものが光速で地面に激突したような衝撃で、何事かとその発生源に視線を移す。






そこには――抜刀して帝を振った後の切裂き魔と、綺麗に咲き誇る桃色の桜があった。地面が大きく抉れているけど。






恐らく西行妖は何をされたのか分からず妖怪としての部分(・・・・・・・・)だけ切り裂かれたはずだ。帝で『帝王の妖力』まで纏っているアイツなら、それこそ斬れないものなど本当に存在しない化け物だろうよ。

行き場を失った西行妖の妖力は切裂き魔に吸収されて、切裂き魔は満足した様子で刀を払って納刀し、スキップしながら戻ってくる。

西行妖切り裂いた分の妖力は吸収することで回復してるわけだし、マジで羨ましい。

西行妖に支配されないかって? アイツが?


「お仕事終了~。お疲れ様」


「はぁ……お前もな」


俺は妖力を失った西行妖に憐れみの眼差しを向ける。

呆気ない最後だったな、西行妖。

幻想郷の『魅せるため』の弾幕ごっことは違って、俺たちの土俵での戦いは時間をあまりかけない。特に切裂き魔や壊神とかが味方陣営にいると、物凄くパパッと終わってしまう。

命懸けてんだぜ?

んな危険なこと長引かせるかよ。


俺は体を起こす。

そろそろ歩けるくらいには回復し――






「紫苑にぃ!」


「ゴフッ!?」






幽々のタックルが俺の鳩尾に直撃。

とりあえずは人間である俺。鳩尾をやられたらどうなるかなんて察する必要すらないだろう……あ、やべぇ。


「紫苑にぃ……会いたかったよぅ」


「そ、そうか。お、俺もだぜ……」


フランも時々してくるけどさぁ……!

別に鳩尾に耐性がつくわけじゃないんだよ!?


そして気づいた。

幽々めっちゃ大きいな。

何がとは言わんけど。


「幽々子、何してるのよ!?」


「あら、紫。この人が紫にも話したことのある、私のお兄ちゃん兼お婿さんよ?」


「どどどどど、どういうことですか!? 師匠!?」


少しはゆっくりさせてくれよ……とか本当は言いたいけれど、今の彼女等が話を聞くとは思えない。


俺に胸を押し付けながら紫を挑発する幽々と、顔を真っ赤にして俺に説明を求める紫。目からハイライトを消してスペカやナイフを構える霊夢と咲夜。苦笑いしながらそれを止める魔理沙。妖夢に土下座してる未来に、慌てる妖夢。


全くもって騒がしい。

しかし誰も死んでいない。


「一件落着、とでも言うべきかな」


俺は静かに目を閉じる。


亡者漂う冥界。

生者の俺には居心地の悪い場所のはずなのに、なぜか安心できた。

瞳に光が当たらないから目の前は真っ暗。少女達の笑い声が響く中、どこからか男性の声が聞こえたような気がした。






『ほとけには桜の花を たてまつれ

 我が後の世を 人とぶらはば』






悲しさ混じる、羨望の句。

それが俺の心に浸透する。


俺は――何て言って死ぬのだろう?





紫苑「短期決戦こそ至高」

魔理沙「そういうもんなのぜ?」

紫苑「弾幕ごっこじゃねーからな。さっさと終わらせたいじゃん?」

魔理沙「ふーん……」

紫苑「興味なさそうだネ」

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